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(2)

「それで、ユーヤお兄ちゃん、聞きたいことがあるんだけどいい?」


 さっきから質問するタイミングを伺っていたらしく、アイリは視線を隣のベッドに向けながら、そう裕也へ聞いた。

 その視線から気が付くことが出来た裕也は、


「隣のベッドで寝てる人のことか?」


 そうアイリが質問したいことを逆に質問し返す。


「うん、そうだよ。カーテンが開いてないってことは、誰かが使ってるってことでしょう? 誰が使ってるの?」

「教えるのはいいけど、二人とも自分の手で口を塞いでくれないか?」

「え? どうして?」

「大声を出しそうなのが目に見えてるから」

「そうなの?」

「そうじゃなきゃ言わないだろ?」

「……それもそっか! 分かった、口を塞ぐね!」


 アイリはあっさり了承し、自分の口を両手で塞ぐ。

 裕也はユナを見ると、ユナもしぶしぶという目で裕也を見ながら、アイリと同じように自分の口を両手で塞いでいた。


「驚いていいから、聞き返すなよ?」


 せっかく口を塞いでいるのに聞き返されてしまえば、塞いだ意味がなくなることを考慮し、さらなる注意を促すと、二人ともコクコクと首を縦に振る。


「念のためにゆっくり言うことにするな。隣に寝ている人物は――」


 そこでわざと深呼吸をして、二人が聞きやすいように間を作り、


「お、う、じょ、さ――」


 裕也が言い終わる前に二人は、


「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!?」

「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!?」


 と、案の定大声を上げて驚いた。

 もちろん、二人ともしっかりと口を押えていたため、アイナが起きてしまいそうなほどの被害はなかった。

 が、裕也には少しだけ被害があり、耳にキーンとした音が走ってしまう。そのせいか、頭痛が再び現れてしまい、頭を押さえてしまう始末。

 しかし、二人は裕也を無視して、ベッドから飛び降りると隣のベッドへ向かう。まだ、口を押えたままで。


 ――そっちに行くなって、注意もしとけばよかったな……。


 十分予想出来たことではあったが、そのことを注意していなかったことを後悔しつつ、ビーカーをベッドの上にある棚に置き、そのままの勢いを利用して裕也は横向きに寝転がる。それは頭痛のせいで、横にならないと落ち着けない気がしたからだった。

 隣ではカーテンをシャッと開けて、中を確認した後、しばらくの無音が訪れる。そして、二人はゆっくりとした足取りで裕也のベッドへと戻ってきた。この時、二人の手はすでに口から離れているも、何かしらのショックを受けているらしく、顔が青ざめていた。


「……裕也くん、いったい何が起きたんですか?」


 裕也が横になっていることから、ユナはベッドに座るのではなく、近くにあったイスを自分の分とアイリの分を用意し、座りながら尋ねる。


「うん、王女様まで倒れてるなんて……」


 アイリはそのことが心配なのか、裕也とカーテンの奥にあるベッドを見るようにチラチラと交互に見ていた。


「え? 二人はなんて聞いて、ここまで来たんだ?」


 自分がここに連れて来られた理由をすでに知っていると思った裕也は、そのことが疑問に思い、尋ねる前に質問し返すと、


「私たちは裕也くんが体調を崩して、ここに運ばれたって聞いて来たんです。だから、なんで倒れたのかも分かりません。いえ、それ以前に『倒れた』って聞いただけで心配になってしまったので、そこまで気にする余裕がなかったんです」


 と、その時の二人の気持ちが分かるように説明してもらえた。


「なるほどな、分かった」

「そんなことより、何が起きたの!?」


 早く答えて貰えないことが焦れったいらしく、アイリが早口でその回答を述べるように促す。その様は鬼気迫るものだった。

 裕也でさえ、少しビクッとしてしまうほど。


「状況の整理ぐらいさせろって……。まぁ、アイリの言う通り、焦らしてるみたいなものだから答えるけど、アベルが殺されてた。部屋中に……肉片をぶつけた……みたいに……」


 裕也はまだあの時のトラウマ化しつつあるその現状にまた吐き気を催しそうになったが、いつまでも引きずっていられないと思い、必死にそれを耐えながら答え続ける。


「王女様にはそれを……見せないように頑張ったけど……無理だっ……ったんだ……。悪いな、アイリ。王女様にあんなものを見せちゃって……」


 その説明を聞いた二人は青ざめた表情をしていた。

 そして、頭の中で部屋の光景を想像してしまったのか、ユナは口元を押さえて、その場から足早に走り去り、水道の方へ移動してしまう。そして、裕也と同じく苦しそうな声が聞こえ始める。

 アイリに関しては、そこまでの想像はしていないらしく、少しだけ口元を押さえただけですぐに手を離す。


「それで王女様は大丈夫なの?」

「どうなんだろうな……。オレでさえ想像してこれだから、変な風にトラウマは残っちゃってるかもしれない……」

「……うん、そっかぁ……」


 アイリは何か考え込み始め、そんな自分を落ち着かせるように何度も髪を撫でる。が、すぐにハッとして、


「ユーヤお兄ちゃん、王女様のために無理してくれてありがとうね!」


 そうにっこりと笑い、お礼を述べた。


 ――無理したところで、結果が伴ってないんだけどな……。


 アイリはそのことを励ますつもりで言ったらしいが、そのことが裕也の心には少しだけチクッとした痛みが走ってしまっていた。が、せっかくのお礼なので、


「王女様だからな。みんなで守ってやらなくちゃいけないだろ?」


 そう言って、王女様を守ることが当たり前とでもいうような答えを返した。


「そうだよね。ボクもユーヤお兄ちゃんを見習わなきゃね!」

「無理はするなよ? 王女様はそっちの方が悲しむと思うから」

「あー、そうかも! 王女様はみんなが傷付くことを嫌がるからねッ!」

「ああ、そうだな」


 そんなことを言ってると、


「す、すみません。我慢出来ませんでした」


 ユナがげっそりとした表情でベッドへ戻ってくる。


「大丈夫か?」

「はい、なんとか……。直接見た裕也くんよりマシですよ」

「水飲むか?」


 裕也はそう言いながら、視線だけをまだ水が残っているビーカーへと向けるも、


「直接飲んだので平気です。そもそも、そんな嫌がらせいらないです」


 ユナに即座に拒否されてしまう。


「そんなつもりはないっての。まぁ、いいけどさ」


 少なからずあった善意を否定されてしまったような気分になってしまった裕也は、軽く舌打ちを鳴らし、ユナにそう言い返した。


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