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(15)

 その様子を見ていた左側の警備が、


「こいつ、照れてやがる! 珍しいな!」


 と、少しだけテンションを上げて、右側の警備をからかいだしてしまう。


「う、うるさい! お前だって気付いたことがあるなら、教えてやれ!」


 からかわれたことが気に入らないのか、ぶっきらぼうにそう言って、ムスッと違う方向を向いて、口を閉ざす右側の警備。

 その様子を見ていた裕也は空笑いを溢しながら、左側の警備を見る。


「おっと、そうだったな。私が変わったって思うことは……うーん……」

「なんでもいいですよ」

「変わったと言っても、おかしくないかもしれないけど、訓練が厳しくなったような気がする……かな?」

「厳しく?」

「ああ。タイミング的には『戦争が起こるかも?』よりも前だったと思う。急に厳しくなったんだよな。違ったか?」


 裕也から右側の警備へ顔を向けて、その時の時期を確認するように尋ねた。


「え? あ、そうだっけ?」


 右側の警備はいきなり振られたため、ちょっとびっくりした表情で再び考え込んでしまう。

 しかし、左側の警備は自分の思い出は当たってると言わんばかりに、


「そうだって! 間違いねーよ!」


 と、食らいつく。

 その必死にも近い訴えに、


「そ、そうだったかもな。うん、そうだな。その噂が広まる前に、いきなり訓練が厳しくなったような気がする。そんな気がしてきた」


 右側の警備は流されてしまう。


 ――うん、記憶の端に残しておくことにしよう。


 右側の警備が流されてしまったことが分かった裕也は、その情報をちょっとした情報として認識することにした。もちろん、他の警備の人たちに聞いて信憑性が出てきたら、重要なこととして認識すればいいだけだからである。が、そんなことを本人たちの前では言えないため、


「これも良い情報ですね。本当にありがとうございます」


 そう言って、裕也は頭を下げた。


「これぐらい別に……なぁ?」


 裕也のお礼に対し、左側の警備は気を使わなくていいと言わんばかりに、右側の警備に確認するようにまた見つめる。


「そうだな。そんな重要な情報じゃないと思うからな。しかし、なんで警備長を?」


 左側の警備に同調しつつ、裕也に逆に質問する右側の警備。

 そのことを聞かれると分かっていた裕也はあっさりとその質問に答えた。


「アベルさんから言われたんですよ。『怪しい人は知らないが、変わった人は知ってる。それがセインさんだ』って。だから、その確認をするために王女様に会うアポを取ったんです」

「なるほどな。だから、今日の面会なわけか」

「はい」


 右側の警備は納得したように頷き、


「あの爺め。警備長を悪く言いやがって……ッ!」


 左側の警備はその不満を隠すことなく、口に出した。


「おい! 重役の一人だぞ。口を慎め」

「お、おう、すまん。ちょっとテンションが上がってしまった。い、今のも――」


 そう言いながら裕也を見てきたため、


「あ、分かってますよ。秘密にしておくので安心してください」


 裕也はあっさりと承諾した。

 しかし、これを了承したのは裕也にも二人にお願いがあったからである。


「その代わりなんですが、オレが二人に話を聞いたことはセインさんには秘密にしてもらえますか? ほら、一応……」


 条件としては五分五分だが、ちょっとだけ悪いような雰囲気を出して苦笑いを溢してみせる。


「それぐらい構わないさ。私たちのことも秘密にしてもらうんだしさ。なぁ?」


 左側の警備はあっさりと了承し、それを促すように右側の警備へ同意するように促す。


「もちろんだとも。こちらも秘密にしてもらうんだから。これで五分五分……いや、こいつのせいで一つ借りが残ってるか」

「そんな言い方ないだろうがよー」

「とにかくだ、秘密にしておくのは了承したから安心してくれ」

「無視するな!」

「うるさい」


 右側の警備はあくまで冷静に、左側の警備のツッコミを全部無視する形で、裕也の頼みを了承してくれた。

 そんな二人の会話に裕也も少しだけ笑ってしまう。本当は声を上げて笑いたかったのだが、時間帯が時間帯であり、警備している二人と会話していることがバレてはいけないと思い、我慢したのだ。


「二人ともありがとうございます。おかげで良い情報を入手することが出来ました」


 裕也は改めて頭を下げると、


「もう頭を下げなくていいから」

「そうだぞ。お互いに秘密を共有した仲なんだからさ」


 二人とも最初とは断然違い、もはや友達感覚で話せる感じになっている感じで、裕也へ頭を上げるように言った。


 ――間違いなく魅惑能力のせいだな。


 このタイミングで効果が発揮された魅惑能力はとても好都合だった裕也は、初めてこの能力に感謝したような気がした。

 そこで、左側の警備は「あっ」と声を漏らす。


「王女様待たせて大丈夫なのか? 意外と時間を食ってる気がするんだけど」


 それはここに来た当初の目的である、アイナとのお茶会。

 裕也も同じように「あっ」と声を漏らした。

 そのことを完全に忘れていたわけではなかったが、手っ取り早く終わらそうとしていた情報収集に時間を食ってしまったことに気が付き、


「す、すみません。ありがとうございました!」


 そう言って、慌ててドアをノックした。

 間髪に入れずに、


「どうぞー、外でのんびり話してたユーヤさん」


 と、不満全開のアイナの声が三人の耳に入る。

 二人の警備は申し訳なさそうに空笑いを溢したので、裕也も引きつった笑いで返し、


「失礼します」


 急いで部屋の中に入った。


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