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(12)

 アイリが深々と頭を下げてくると思ってなかった裕也は、


「ちょっ、ちょっと待て! アイリ、そこまでして謝ることじゃないぞ!」


 と、慌ててアイリの肩を掴む。


「い、痛いよ!」


 思わず勢いよく掴んでしまったため、アイリのその言葉にハッとして、


「あ、すまん!」


 謝罪の言葉と共に慌てて手を離す。


「ううん、平気だよ! 一応、ユーヤお兄ちゃんを助けようと思って言った言葉が、的外れみたいになってたから謝ったんだけど……、謝らない方が良かったかな?」

「謝らなくて良かったんだぞ。アイリの助言通り、念のために王女様に聞きに行くことは間違いなかったんだしな」

「そっか。なら、良いんだ……ッ!」


 アイリはまだ不安そうな雰囲気を隠すように、裕也にはにかんで見せた。

 が、それが裕也の心に何か引っかかるものがあり、なんとなくおかしく感じてしまう。

 それはユナも同じだったらしく、たまに見せるアイリを見つめながら悩み込むものになっていた。


 ――なんだんだろうな、この感じ。


 よく分からないこの引っかかるものを不思議に思いながら、


「とにかくだ。王女様にアポ取らないといけないな。いきなり話がありますって言っても、セインに怒られるだろうし……」


 とぼやくと、アイリがベッドから飛び降りた。

 裕也とユナはアイリがベッドから降りる意味が分からず、アイリの方へ視線を向ける。


「ボクに任せて! 王女様とは友達だから、ボクがアポを取って来るよ!」


 裕也の方を向き、それだけ言い残すと、裕也とユナが制止の言葉をかけるまえに部屋から飛び出して言ってしまう。

 その行動力に裕也は唖然としていると、


「あの……ちょっといいですか?」


 いつになく真剣な声色でユナが口を開いた。


「ん、なんだ? ようやく話す気になったか?」


 そう言いながら、裕也はユナを見る。


「どういう意味ですか?」

「どういう意味も何もアイリのことなんだろ? たまに難しい顔しやがって。今までそのことについて聞かなかったことを感謝しろよ?」

「うわっ、すっごい上から目線ですね! まぁ、別にいいんですけど……」

「……冗談だ。アイリが今までずっといたからな。話すに話せなかったんだろ?」

「ちゃんと分かってるじゃないですか!」

「そりゃ分かるさ。それよりも、早く悩んでることを話せよ。いつ、アイリが帰ってくるか分からないんだからさ」

「それもそうですね」


 そこでユナは一旦口を閉じる。

 何をどう話せばいいのか、どんな風に切り出せばいいのか、そのことを頭の中で構築しているらしい。

 裕也はユナが口を開くまで同じように口を閉ざし、ぼんやりと天井を眺めて、時間を過ごしていると、


「あの……アイリちゃんに関しておかしいと感じたことはありませんか?」


 二、三分の時間を置いて、そう裕也へ尋ねた。


「おかしい?」

「はい、裕也くんがアイリちゃんに関しておかしいと思うところです」

「ふむ……、って悩んだところで、現在一つしかないんだよな」

「一つ、ですか?」

「ああ。ユナからすれば、もっとたくさんあるんだろうけど、現在いまのオレには、『王女様と友達』ってことがおかしいとしか思えない」

「それは私もです」

「だよな。年齢が同じならまだしも、あの様子じゃ年齢は絶対に違う。だから、何か他のきっかけがあるにしても、オレには思いつかないんだよな。それに――」

「それに?」

「あの時の事……王女様が襲われた時のことを覚えてるか?」

「もちろんです」

「あの時、おかしなことがあったのは気付いてるか?」

「……ちょっと待ってください」


 ユナは天井を見上げながら、「んー」と唸り始める。

 この時点で裕也は、自分とユナでは怪しんでいることが違うことに気付く。


 ――ユナは、アイリの何を怪しんでるんだ?


 ユナが思い出す時間を利用して、裕也もユナが怪しんでいるところがどの場面だったかを、頭の中で必死に思い出すことにした。

 が、時間もそこまでかからない内に、


「すみません、分かりません。何かありました?」


 と、ユナが素直に根を上げてしまう。

 そこで、裕也も自然と考えることを止めて、その時気が付いたことを話し始める。


「危ないと知って、アイリが王女様に身の危険を伝えるように何か言うよな?」

「そうですね。あの時も……え? あれ?」

「お、やっと思い出したか。それだ、オレが言いたいのは」

「間違いないんですか?」

「ああ、間違いないよ。アイリは王女様のことを()()()って呼び捨てにして呼んでた」

「……おかしいですよね、やっぱり」

「ああ、もちろんおかしい。どんな状況でも、普通だったら王女様という立場上、呼び捨てはしないはずだから」

「ですよねー。んー、やっぱり私の勘違いじゃないのかもしれない……」


 確証がないからか、ユナは「んー」とまた唸り始めながら、自分が抱いている物を再確認し始める。

 が、裕也がそのことを許さず、口を挟む。


「そろそろ話せよ。何を怪しんでるんだ?」

「……え、あ! すみません。今度は私の番ですね。そろそろ戻ってくるかもしれないので、手短に話しますね?」

「おう、頼む」

「もしかしたら、アイリちゃんは王族に近い……親戚とかそんな立場なんじゃないかなって思うんですよ」

「ふむ、その理由は?」

「王女様より広い魔力探知能力などですかね。最初から、なんとなく魔力の濃さというか感覚が他の人と違うような気がするんですよね。透き通ってるというか……。確証がないので、予想の部分が強いですけど……」

「だから怪しんでたのか。まぁ、変な行動をしたわけじゃないから、特に気にする必要はないんだけど……」

「ですね。ただ、アイリちゃんのことも一応調べませんか?」

「……」


 裕也は、本当は「なんでだよ?」と聞きたかった。

 アイリが怪しい行動をしていれば、さすがにその言葉を否定する必要がなく、むしろその素性を調べないといけないと思う。が、何もしてないのに、素性を調べるっていうのは信頼を裏切るということ。だから、したくなかった。

 しかし、それが言えなかったのは、ユナがそれ以上に真剣な目だったからだ。

 この様子から察して、少しだけ誤魔化していることがあると気付いた裕也だったが、先ほど言っていたように確証がないため、十分には話すことが出来ないと察し、


「分かったよ。一応、聞いておく。それを調べるにはユナがアイリと二人で行動する必要とかあるから――」


 そう言っている途中で、


「分かってますよ! 単独行動が増えるぐらいは!」


 ユナはそう頬を膨らませながら、裕也が言わんとしていることを先に言った。


「ん、それならいい」

「はい、頑張りましょう! 色々と!」

「そうだな、頑張ろう」


 一致団結することを促すように裕也が手をユナに向けて出すと、ユナも同じように手を出して、お互いの手の甲をくっつけ合わせた。


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