(11)
「やった! 当たった!」
アイリは素直に自分の回答が当たったことに喜ぶ。
対照的にユナは少しだけ複雑そうな表情をして、
「やっぱりそうですか……」
正解したことがあまり嬉しくないように漏らす。雰囲気からすれば、「正解したくなかった」といっているような状態だった。
「あれ? ユナお姉ちゃんは嬉しくないの?」
喜んでいたアイリは、ユナのその雰囲気が気になったらしく、喜ぶことを止め、不思議そうにユナを見る。
「いえ、正解したことは嬉しいんですよ?」
「うん」
「でも、なんだかありきたりな人物だったので……」
「ありきたりな人物?」
「はい、アイリちゃんはまだ気付きませんか?」
「……気付く? セインが変わったことに?」
「はい、そうです」
ユナは裕也と同じ答えに辿り着いたらしい。
そのことをちゃんと分かっているのか?
それを確認するように裕也を見たが、顔を見ただけで同じ答えに辿り着いていることに気付いたらしく、ホッとした表情を浮かべた。
――なんで、そんなにバカだと思われてんだよ。
そのことに少しだけ不満に思いつつも、裕也はあえて口には出さなかった。
それはアイリが真剣にそのことについて考えているからである。こういうことはなるべく自分で考え、自分で辿り着くまでの仮定が大事だと思っているからだ。
しかし、さすがのアイリもその理由までは辿り着けなかったらしく、
「うーん、分かんない。なんで変わるのが普通なの?」
と、ユナへと尋ねた。
が、ユナはその回答を裕也に任せるように視線を向けてきたため、裕也は仕方なく身体を起こす。
アイリはお腹に置いていた手を引っ込め、裕也を見た。
「アイリ、その答えはな。戦争が起きそうだからだよ」
「戦争が起きそうだから? あ、もしかして?」
「その通りだよ。だから、変わって当たり前なんだ。優しい人が自分たちの種族を守るために厳しくなるってことは……。でもな」
ここからはユナを見て、
「アベルが言うには、そういうことじゃないらしい。変わったのは本当だけど、違う変わり方をしたらしい。だから、今度はその真相も聞き込みしないといけない」
その理由を話す。
「……察したのでこれ以上は追究しません。とにかく、動くことは間違いないんですよね?」
ユナはここまで会話から裕也の心境を察したらしく、深いため息を溢す。そして、アイリを見つめながら、
「いろいろと思うことはあるでしょうけど、きっと裕也くんも同じ気持ちなので何も言わないで起きましょう」
と、先に忠告するのだった。
アイリは「え、あ……うん」と、不快な表情をしていたものの、ユナに先に止められてしまったため、その口を閉ざした。
「二人ともありがとうな。つか、ユナ、今回は良い察し方をしたな。もしかして、初めてじゃないか?」
裕也は疲れたように再び寝転びながら、お礼を述べると、
「それ、褒めてます? 褒められてるように感じないんですが……」
ムスッとした表情と声で不満を露わにした。
「褒めてるよ。オレは少なくとも褒めたつもりで言ったんだ。だから、これ以上疲れさせないでくれ」
「本当ですかね。別に噛み付いてもいいんですよ?」
「やめてくれ、マジで」
「うふふ、冗談です」
「……ちょっとシャレになってなかったけどな」
意地悪く言うユナに、空笑いを溢しながら、内心ホッとする裕也。
「それで、これからどうするんですか?」
「んー、セインの変わったと思えるところを探すしかないよな……」
「誰に聞きましょうか?」
「んー、またお城にいる人たちになるよな……」
「今朝の件があるので、大変なことになりそうですけどね」
「…………それを言うな」
今まですっかり忘れていたことをユナによって思い出さされてしまった裕也は、憂鬱そうに息を吐いた。
アイリはその様子を見て苦笑しつつ、
「やっぱり一番に聞くのは王女様じゃないかな? 護衛として、ずっと側にいるんだから、そのことに気が付いててもおかしくないよね?」
と、裕也へ助言した。
そのことを忘れていた裕也は指をパチン! と鳴らして、
「ナイスだな、それ! 王女様なら何か知ってそうだ!」
面倒なことをしなくていいんだ、とその助言を素直に受け入れた。
が、アイリの言葉にユナは少しだけ悩んだような表情を浮かべる。
「それ、本当に大丈夫ですかね?」
「なんか問題あるか?」
「問題っぽいことありますよね? 分かりませんか?」
「……分からないな」
裕也が何を危惧しているのか全く分からない裕也は、ほぼ悩んだ様子を見せることなく、そう答えた。
まさか即答に近い返事をされると思っていなかったユナは、ちょっとだけ苛立ったらしく、裕也の腕をバシッ! と叩く。
「痛っ! なんだよ!?」
「もうちょっと真面目に考えてくださいよ! 全然、考えてないじゃないですかッ!」
「そんなこと言われても、本当に思いつかないんだからしょうがないだろッ!」
「むー、裕也くんのバカッ!」
「バカでも何でもいいから、何を悩んでるのか教えろってッ!」
本当に分かっていない裕也を少しだけ睨み付けるも、怒らせていた肩をがっくりと落として、自分の気持ちを落ち着かせるように二、三回深呼吸を行った後、
「王女様だから分からないことがあるんじゃないのか? って言いたいんですよ!」
ユナは情けなくそう裕也へ教えた。
「王女様だから分からない?」
「はい、まだ分かりませんか?」
「え? ……あ、そういうことか! 裏を読んだわけかッ!」
「そうです。なんで裕也くんが一番気付きそうなことなのに、気付かなかったんですか?」
ようやく言いたいことが分かった裕也は、先ほどから何の問題も解決しないことに苛立ち、ガシガシと頭を掻いた。というより、問題解決の糸口が見つかったと思えば、さらに問題が見つかってしまうループに嫌気がさしてしまっていたのだ。
「え、えっと、どういうことなの?」
ユナの言いたいことが分かっていないアイリは、裕也とユナを交互に見て、その説明を求めた。
裕也はそれを説明するのが面倒だったため、ユナを見た後、アイリを見て、ユナが教えるように指示した。
その行為で指示されたことが分かったユナは指示された通り、説明し始める。
「まったく、なんで私が……。別にいいですけど……。えっとですね、王女様とセインさんはいつも側にいるんですよね?」
「ごめんね。あ、うん、そうだよ?」
「いつも側にいると、その変化に気付けないことが多いんです。それは接する機会が多いから、どこが変わったのか気付きにくいってことです。だから、セインさんと接点が少なかった人と話すのが一番良いってことになります」
「そっか。確かに王女様は気付きにくいかも……」
ユナの言葉に納得したアイリは、自分が言った助言が上手く言ってないことを知り、ちょっとだけしょげてしまい、
「ごめんね」
と、裕也に深々と頭を下げた。




