(10)
「ただいまー」
裕也はノックもせずに部屋のドアをガチャと勢いよく開ける。
本当だったらアベルに聞いたセインの件に関しての聞き込みをした方が良いのかも知れなかったが、部屋で待っているユナとアイリが心配していると思い、一度部屋に戻ることにしたのだ。
そして、部屋のドアを開けるなり、
「裕也くんッ!」
「ユーヤお兄ちゃんッ!」
と、二人は座っていたイスやベッドから素早く立ち上がり、裕也の前にやってくる。
表情からは心配していたことがすぐに分かるほど不安そう表情を浮かべており、二人して裕也の表情や身体を調べ始めた。
「ちょっ、なんだよ! 何もされてないから安心しろよ!」
二人のこの行動の意味が分かっている裕也はそう言い、早足でベッドの方へ逃げる。そして、ベッドへ勢いよくダイブした。
アイリはそのまま裕也の後を追いかけ、同じように裕也のベッドにダイブ。
ユナは開けたままになっていたドアを閉めた後、裕也のベッドにやって来て、そのままベッドに腰を落とした。
「あの……それで……」
座るなり、アベルとの会話を聞き出そうと口を開くユナ。
それはアイリも同じらしく、身体を起こして、裕也を見つめる。
帰ってからすぐにこの内容について聞かれることは分かっていたとはいえ、少しだけ面倒くさくなってしまう裕也だったが、素直にそのことについて話すことにした。どっちみちいつかは話せることであり、セインの件も相談したかったからだ。
「怪しいか怪しくないかって言われると怪しい。けど、それを本人が自覚してやってるから、どうしたらいいのか分からないって感じだな」
「そうですか……。ってことはやっぱり……」
「ユナが考えてる通り、真犯人って確率が逆に薄くなったような気がする」
「……ですよね」
その時、アイリに肩をちょんちょんと突かれたため、裕也はそちらに顔を向けると、
「つまり、それってどういうこと?」
アイリがその言葉の意味を尋ねるように質問してきた。
「真犯人じゃなくなった、ってことだな」
「え、そうなの!? 怪しいからその追究に行ったんだよね?」
「そうだぞ。けど、王女様の命を狙おうとした理由まで見つからんかった。あの時は王女様の命を狙われたから、気が動転して、オレたちに暴言吐いたみたいだったし。今日は無駄に落ち着いてたぞ」
「……んー、よく分かんない」
「大丈夫だ、オレも分かってないから。勘がそう告げてる。それだけだよ」
――なんて、ドラマの影響が強いんだけどさ。
裕也は元の世界でよく見ていたサスペンスのことを思い出していた。こういう時に最初に疑われる人はたいてい無実である、と。ただ、被害者を殺そうとする動機があるだけなのだ。もちろん、作られた話と現実とでは大きな差があるほど違いがあるけれど、それでも本能が、「アベルではない」と告げていてたのだ。
その回答にアイリはあまり納得していなさそうな様子だったが、「はぁー」と情けないため息を漏らして、無理矢理納得する方向に持っていった。
「完全に振り出しに戻った。ってことですね」
ユナもアベルが真犯人と思っていたらしく、残念そうにため息を漏らす。
二人がそんな風にため息を漏らすため、裕也もつられたようにため息を溢した。
「そんな残念がるなっての。ったく、ため息が移ったじゃないかよ……」
なんて漏らすと、
「何か他の情報でも手に入ってるんですか? 現状、情報が何もないんですよ?」
と、ユナがムスッとした様子で切り返しの言葉を言い放った。
「情報ねー、あるのはあるんだけどさー……」
アベルに教えてもらった情報をこの二人に対して言っていいのか、裕也は少しだけ考え込んでしまう。自分がその情報をあまり信じてないのだから、この二人だったら絶対に反発すると分かりきっているからだ。
――それはそれで面倒なんだよなー。
どちらかは絶対に食いつき、それを宥めないといけないことが分かっている裕也にとって、面倒以外の何ものでもないのだから。
「裕也くん! なんで、そこで黙るんですか? もしかして、ロクでもない情報なんじゃあ……」
中途半端に黙った裕也をジト目で見つめるユナ。
「何々? そんなにロクでもない情報なの!?」
アイリまでもその情報に興味を持ったらしく、身体をガバッと勢いよく起こし、裕也のお腹辺りに手を置くようにして、裕也を見つめた。
ここまでノリノリな二人に対し、裕也は言わないという選択肢を取れるはずがなく、仕方なく話すことを決意した。
「アベルが言うには、変わった人がいるらしいんだ。怪しいじゃなくて、昔と比べて、性格とかが変わった人」
「変わった人ねー。そんな人いるかな……?」
と、アイリが今まであった人と現在の人を頭の中で照合し始めるも、
「分かんないや。ボクの中ではそんなに変わった人が分かんない」
そう言って、苦笑を溢した。
「まぁ、アイリがそう言うも仕方ないと思うけどさ。その人がまた意外な人なんだよなー」
「意外な、人ですか?」
ユナがきょとんとした表情で食いついてくる。そして、その人物を当てたいのか、「んー」と唸りながら考え始める。
アイリもユナに倣い、その人物を当てようと考え始めた。
――……別に謎解きのために出し惜しみしてるわけじゃないんだけどなー……。
このことを口に出しては言うのはたやすいものの、二人が真剣に考えているため、裕也は二人が考えを終わるのを待つことにした。
沈黙が一分ほど経過し、その沈黙を破ったのはユナのため息。
「一応、それっぽい人は思いつきました」
そう言うも、やはり確証がないのか、少しばかり不安そうな表情を浮かべている。
「あっ、一応ボクも……」
それを皮切りにアイリも手を少しだけ上げて、考えることを諦めるアピール。
「へー、じゃあ、言ってみようぜ。クイズみたいに出し惜しみするつもりないから、間違ってたら、すぐに違うって言うから」
ユナとアイリはその言葉にちょっとだけ安心したらしく、二人同時にその人物の名前を答える。
「セインさんですか?」
「たぶん、セイン」
お互いがお互いの回答を言った瞬間、二人して同じ答えに行きあたると思ってなかったらしく、二人はお互いの顔を見つめ合う。そして、すぐに裕也を見て、正否を求める。
裕也も二人ともセインに辿り着くと思っていなかったため、
「せ、正解……」
驚いた表情で素直に正否を答えた。




