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(9)

 裕也が部屋を出て行った後、アベルは小さく息を吐く。

 その息の吐き方はホッとしたようない息の吐き方だった。

 そして、再びベッドの方へイスを回転させ、


「これで良かったのじゃろう? ワシらの願いを叶えるためには」


 と、誰もいない場所へ声をかける。

 その言葉をきっかけとして、ベッドと壁の隙間からスゥ―と全身を黒の外套と頭にはフードを被った人物が姿を現す。その人物は顔をアベルの方へ向けることなく、ベッドの柵に腰を掛けており、その返答に頷く仕草を行う。


「しかし、とっさにこんなことを思いつくとは、お主もロクでもない奴じゃのう。誰かの入れ知恵か?」


 その質問の答えを待つべく、アベルは一旦口を閉ざす。

 しかし、その黒づくめの男は何の仕草をせず、ただジッとしているだけで質問に答える様子は一切ない。

 返答がないことを理解したアベルは、


「まぁ、よい。なぜ変わった男としてセインの名を出させたかったのか、その理由を知りたいところじゃが……それも秘密なのじゃろう?」


 黒づくめの男はその質問に対しては首を縦に振り、秘密であることを伝えた。


「ワシにぐらい教えてくれたらよいものを。とにかくじゃ、あの件はなんとかしてみる。それでよいのじゃろう? そのための用意が忙しいのじゃから、用が済んだら出て行け。あの人間もしばらくは来まい」


 そう言って、再びイスを回転させ、机の方へ身体へと向ける。そして、ユーヤの時と同じようにカリカリとペンを走らせ始めた。

 黒づくめの男はその言葉に同意し、腰かけていたベッドから腰を離れさせると、ユーヤと同じようにドアの方に向かって歩き始める。そして、ドア近くまで移動していたかと思うと身体を少し浮かせ、アベルの方へ振り返る。瞬間、その場から消えたかと思うようなスピードで背後からそのアベルの心臓辺りに向かって、イスの背もたれごと破壊して心臓を右腕で貫く。


「なっ!」


 そんな声を漏らしつつ、振り返ろうとするアベルの頭を空いている手で机に叩きつける。同時に貫いている腕に抜き、手に持っていた心臓をアベルの目の前で握り潰す。

 間髪入れずやられた行動にアベルは声を出すことが出来なかった。いや、目の前で起きた行為に一瞬にして、絶望してしまい、声を出す余裕がなかったのだ。なぜなら、アベルの頭の中に、自分はもう助からないという答えが浮かんでしまったからだ。


 しかし、今まで共犯者として一緒にやって来たのに、なんでこんなことをされるのかが分からなかった。しかし、その思考も一瞬にして止められてしまう。

 黒づくめの男の次の行動が、机に押し付けていた頭から髪の毛を掴み、今度は持ち上げたからだ。そして、アベルの全身を魔法で微塵に切り刻んだせいである。噴き出す血と千切れた肉片をワザと部屋全体にぶつけるような設定にして。

 そして、黒づくめの男は手に掴んでいた部分の肉片を手から離し、ぶらんと両腕を落として、しばらくその場に立ち尽くす。自分のやるべきことが済んだ、と言わんばかりに深呼吸を一回行った後、ドアではなく窓に近付き、その窓を使って脱出するのだった。


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