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(8)

 裕也はその名前を出されて驚くよりも、がっかりしたように肩を落とした。


「当たり前だろ、それは」


 裕也にとって変わったであろう人物がセインであることは当たり前だったからだ。だからこそ、こう発言することしか出来なかった。

 アベルは勇がそう言うと思っていたのか、首を即座に振る。


「お主が考えているような意味ではない」

「はあ? どういう意味なのか、ちゃんと分かってるのかよ」

「当たり前じゃろう」

「じゃあ、教えてくれ」

「戦争の影響で変わった、と思ってる。違うか?」

「……ッ! まぁ、その通りだけど、それ以外の要因がないだろ」

「要因は知らん。が、そんな感じがするだけじゃ。十分な情報じゃないのか?」

「……調べる価値はありそうだけど……」


 ――どう考えても、あんたの疑いが晴れないんだよッ!


 真犯人かもしれない人物からの情報なので、あのセインがアベルの言うように変わったと思えるほど変わったと、裕也は思うことが出来なかった。むしろ、自分に向いている標的を外すように言っているのかもしれない。そう思う方が裕也の中では合点がいくような気がした。

 が、裕也の考えはアベルには分かっていることが分かっているらしく、


「信じる、信じないのはお主の勝手じゃ。あとは好きにするんじゃな」


 と、疑われていることに関して追求することなく、ぶっきらぼうに言い放つ。そして、イスを机の方へ向けて、さっきまでしていた作業を再開し始める。

 裕也は少しだけその作業に関して興味が湧いてしまったが、覗き込むのはさすがにマズいと思ったため、


「何をしてるんだ?」


 あえて、そのことについて尋ねることにした。


「お主には関係あるまい」


 さすがに機密事項なのか、そのことに口を割ることはなかった。

 最初から素直に教えてくれるとは思っていなかった裕也だったが、ちょっとだけ期待はしていたため、がっくりと肩を落としてしまう。


「まぁ、いいや。話すことはこれだけかな……。っと、そういや、あんた変身魔法で老人っぽくしてるんだよな?」


 ふと思い出した言葉を裕也は漏らすと、アベルは肩をビクッと震わす。そして、少しだけ怒った様子で裕也へと振り返る。


「どこでそれを?」

「ミゼル先生が教えてくれたよ」

「あいつか……。簡単に口を滑らせおって……」


 そのことが気に入らないらしく、舌打ちをするアベル。


「分かってると思うが、そのことを誰にも――」

「言うわけないだろ。それだけの意味があってやってるんだからさ。でも、一つだけ言いたいのは、変身しなくてもいいんじゃないかってことだよ」

「何?」

「睨むなよ。余計なお世話なのは知ってるけどさ」

「余計なお世話じゃ」


 裕也が話す前にその会話を切り捨て、再び机の方へ身体を向ける。

 しかし、裕也は構わず会話を続けた。


「あんたは他人の目をどう思ってるかは分からないけど、オレはあんたには実力があるから重役の一人に選ばれたんだと思う。だから、そろそろ本当の自分を見せてもいいんじゃないか?」

「……」

「そう思うってことだけ言っておくよ。変身魔法まで使われてちゃ、怪しさ倍増だしな。話してて思ったんだけど、そこまで悪い人には思えなかったし……」

「甘いな……」


 ボソッと呟かれる一言。

 裕也はその言葉は上手く聞き取れず、


「え? 何か言った?」


 聞き返すも、


「何も言っておらぬ」


 と、冷たい返事が返ってきてしまう。

 その言葉に裕也は少しだけムッと来てしまうも、何か言ったところで現在いまのアベルはこの態度を崩さない。そう思えるだけの自信があったため、追究することなんて出来なかった。


「そうかよ。じゃあいいや。聞きたいことはこれで全部だと思うから、オレは他の人の聞き込み行くよ」

「そうじゃな。真犯人が見つからぬことを祈っておく」

「皮肉な発言をありがとう。真犯人候補の一人さん」

「ふん、勝手に疑っておくがよい」

「言われなくても疑ってるっての。でも、変わった人の情報はありがとうな。信憑性ゼロだけど、他の人にも聞いて回ることにするよ」

「勝手にせい」

「はいはい」


 裕也はベッドから立つと、一回だけ背伸びをして、ドアの方へ向かって歩く。そして、ドアノブを掴んだところで、


「ちょっと待て」


 と、アベルに呼び止められてしまったため、裕也は「ん?」とドアノブから手を離し、腕を組んでから、


「なんだよ?」


 さっきのお返しの意味を含めて、不機嫌そうに尋ねた。


「お主はワシら、エルフのことをどう思う? 今朝もハーレムみたいな状態で大変だったみたいじゃが……」

「エルフをどう思う? どういう意味だよ」

「言葉通りじゃ。お主の思った通りのことを話してくれればよい」

「……意味がわかんね……」


 アベルが何を思い、どういう考えでそんなことを聞いて来たのか、全く分からない裕也は首を傾げつつも、その問いに答えることにした。それは、なんとなく言っておかないといけないような、そんな直感が働いたからである。


「良い人たちだと思うよ。ユナやアイリが言ってたように温厚で、優しくしてくれる。だから、居心地はいい」

「そうか。それが取り柄じゃなからな」

「ただ」

「ただ?」

「あんたじゃないけど、もうちょっと警戒は必要かもな。あんたみたいに敵意を出せってわけじゃないけど、心を開き過ぎだ。オレが特別なのかもしれないけど」

「ふむ、そうか」

「……聞いた理由は?」

「秘密じゃ」

「おい」

「……」


 そして、またアベルは沈黙し、カリカリと紙にペンを走らせる音だけが部屋に響き渡り始める。

 その背中からは「もう話すことはない」というオーラを感じ取ることが出来た裕也は、


「ったく、本当に勝手な奴だな。もう用がないみたいだし、オレは行くぞ!」


 再びドアノブを掴み、部屋の外に出た。

 もちろん、アベルから引き止めの言葉がかかることはなかった。


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