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(6)

 裕也が出した紙の判定結果はちょうど半分に分かれていた。つまり、結果から示される答えは、両方どちらでも素質があるということ。


「――って、なんでそんなに驚いてるんだよ」


 裕也も最初はちょっと驚いてしまったものの、ミゼルのように特殊なタイプの人は紙の色が全部染まるパターンを考えると、たいしたことはない。そう思っていた裕也にとって、四人の反応は異常なものだった。


「私、こんな結果初めて見ました……」


 その結果を見たアイナは、他の三人にも同意と「見たことがあるか?」 と確認するために顔を向けると、


「ううん、ボクもない。……あっ、ボクの場合はこんな風に誰かの結果を見ることが少ないんだけど……」


 アイリは首を横に振る。そして、一番この中でこの結果を見た可能性が高いであろうミゼルを見る。


「いや、ない。自分自身、こんな結果は初めてだよ。可能性的にあり得ることは分かっていたけど……」


 ミゼルもアイリと同じように首を横に振る。

 そして、全員の視線がユナに向けられるが、


「な、ないですよッ! 先生がないのに、私が見たことがあるわけないじゃないですかッ!」


 と、慌てた様子で答える。

 その回答に全員が「それもそっか」という表情になってしまう。


「この結果を見たことがあるかどうかは実際どうでもいいや。問題なのはそこじゃない」


 裕也は持っている紙をヒラヒラと動かしながら、面倒くさそうにため息を溢した。


「問題って何?」


 その問題についての回答を求めるようにアイリが裕也に首を傾げる。


「だから、オレがどっちの方法で覚えたらいいのかって話。判定結果に任せようと思ったのに、余計に分からなくなっただけじゃないか」

「あ、それもそうだね。そのためにやったんだもんね!」

「そうそう。んで、どうすればいいと思う?」


 その質問はアイリだけではなく、全員への質問として投げかける。

 四人とも、その判定結果に身を委ねようとしていたことは裕也と同じらしく、それぞれが考え始めてしまう。

 一分ほど、無言が続いた後、


「もう面倒だから両方覚えたらいいじゃないか」


 ミゼルが考えることを放棄し、そう提案を出した。

 その考えに誰も辿り着かなかったのか、


「あ、それいいかもッ!」


 と、アイリが「おお」と声を漏らし、


「それもありですねッ! そんなこと、私、思いつきもしませんでした!」


 アイナはそのことを褒めるように拍手をし、


「さすがです、先生!」


 ユナは尊敬した目で見つめていた。

 ミゼルは三人の反応に「え? え?」とちょっとだけ困った反応をしつつ、


「そ、そうだろ? お、おう! そうするべきだッ!」


 指を裕也へと突き付ける。

 命令口調で言うミゼルだったが、裕也はミゼルの目が助けを求めていることを見逃していなかった。というよりも、状況的にもノリでそうなった感しかしなかったため、裕也はジト目で睨み返す。

 裕也から見捨てられたと察したミゼルは、コホン! と喉を一回鳴らし、


「ま、まぁ……、これはユーヤくんが決めることで、自分が言うべきではなかったな。さぁ、選ぶといい」


 背中を反対に向けて、この状況を全て裕也へと丸投げした。

 それまでテンションが上がっていた三人はハッとして、


「そ、それもそうですね! さあ、どうしますか?」


 ユナがそう詰め寄り、


「うんうん、ユーヤお兄ちゃん、早く決断するべきだよッ!」


 それに乗っかり、詰め寄るアイリ。


「早く決めましょう! 悩む時間がもったいないですよ!」


 アイナまでもが裕也へと詰め寄る。


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! そんないきなり提案出されたところで時間がないんだから、二つの種類を同時も覚えられるわけないだろッ!?」


 残り五日しかない状況で無謀なことを言い始める四人に向かって裕也がそう吠えると、


「大丈夫ですよ! 気合でなんとかなります!」


 ユナは疑いを持たない様子で根性論を言い放ち、


「ユーヤお兄ちゃんは物覚えがいいから、すぐに出来るようになるよ! 簡単な魔法ならだけど!」


 『ACF』の能力があることを知らないアイリはそう励まし、


「やれるに決まってるじゃないですか! 私が認めた人間なんですから!」


 魅惑能力によって惹かれていることを知らないアイナは照れながら、自信満々に言い、


「やれるって! 挑戦して、駄目なら諦めることにしよう」


 ミゼルは相変わらず他人事のようにそう言った。


 ――ああ、駄目だ。逃げられない。


 この状況下、裕也は逃げる手段を見つけることが出来なかった。それは間違いなく、言い訳しようと言い包められ、実力行使で逃げようとすれば魔法で捕獲される。『ACF』が上手く働いているのか分からなかったが、そういう想像が頭の中に浮かんでしまったからだ。

 それにミゼルの言い分も少し納得してしまったのはウソではない。時間が足りない中で、やれることは全てやっておきたい。その想いが少なからずあった裕也は、


「分かったよ、分かった! やってやるよ! こんちくしょう!」


 半分ヤケクソ気味にそう四人に言った。

 すると、四人は案の定、


「さすがです、裕也くん」

「ユーヤお兄ちゃんならそう言うと思ってたよ!」

「頑張ってくださいね!」

「うんうん、挑戦することは良いことだ!」


 口々に喜んだ声を上げる。

 しかし、ここで四人は一つだけ誤算があった。

 この四人のことなので、今すぐ訓練に励むと思っていたらしく、準備を開始しようとしていたが、


「もう今日はしないぞ。帰る。サボった時間分はちゃんとやったし、部屋で仮眠してから、聞き込みしにいかないといけないから。王女様、先生、今日はありがとうございました」


 と、裕也は時計を指差し、アイナとミゼルに一度頭を下げてから、ドアの方へ向かって歩き始める。

 時刻は六時半。

 当初から約束してあった時間から三十分オーバーしたものの、ギャラリーのせいで訓練出来なかった時間を考慮したとしても、ちょうどいい時間になっていたのだ。

 四人とも改めて時計を見て、「あっ」と残念そうに声を漏らすも、裕也の言い分が間違ってないと思ったのか、その言葉に反論することはなかった。

 そして、裕也とユナ、アイリは自室へ、アイナとミゼルはそれぞれの部屋に戻ることになった。


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