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(5)

「裕也くん、素質の問題って言いましたよね? だから、まずはその素質から調べないと」


 呆れた口調で言うユナに賛同するように、三人は「うんうん」とそれぞれに首を縦に振っていた。


「――そういや、そうだったな。うん、忘れてた」

「しっかりしてくださいよ」

「はいはい、それで判別方法はどうやるんだ?」


 裕也はユナの説教を聞きながしながら、そう尋ねると、


「もう準備出来てるよ!」


 と、アイリが手を上げる。そして、その上げた手に持つ一枚の紙を見せびらかせるように、ヒラヒラと少しだけ左右に振っていた。


 ――よくある紙での識別方法かよッ!


 もっと面倒くさく、難しい判別方法を期待していた裕也は、そう心の中で呟いた。が、そんなことをなるべく表情に出さない様に、


「紙で判別出来るのか……ッ!?」


 思っていたこととは別に驚いた表情をして反応して見せる。

 その瞬間、周囲の空気が一瞬にして冷たいものに変わってしまう。それはまるで、裕也が嘘の反応をしたことがバレバレであることを分かるような雰囲気。


「……お兄ちゃん、目が驚いてないよ。別にいいんだけどね」


 持っていた紙を下ろしながら、ちょっとだけショックを受けた表情を浮かべつつ、その紙を裕也へと差し出す。

 裕也は差し出された紙を受け取りながら、


「なんか、すまん」


 と、素直に謝罪した。

 しかし、アイリはそのことに関して何も言うことはなかった。むしろ、無視し、アイナを見つめ、裕也へ説明するようにアイコンタクトを送る。

 アイナもそのことには触れず、その紙について説明をし始める。


「それは『魔力鑑定識別紙』と呼ばれるものです。いわゆる、どちらの能力が濃いのか。その判別をする紙ですね」

「……」

「それに魔力を送ると紙の色が変化します。赤が『精霊を使役するタイプ』、青が『自分の魔力で形成するタイプ』になります。が、ここで誤解があったらいけないので詳しく説明させてもらいますね」

「誤解?」

「はい。簡単に言えば、その真っ白い紙が全部赤に染まったり、青に染まったりするわけではない、ということです」

「え? どういうこと?」

「素質とは言っても、大半の人が両方の魔法を使えるんですよ。得手不得手と言う具合でしょうか? 割合によって、どちらかが適しているのか、と判断するだけです」

「へー、納得」

「一応、全員でそれをやってみましょうか! アイリ、まだ紙はありますか?」


 そう言って、アイリを見つめる。

 アイナがそう言うことを予想していたのか、アイリの手にはすでに四枚の紙が持たれており、それを一枚ずつ四人に配り始める。

 そして貰った人から、その紙に魔力を送り、紙の色を変化させ始めた。


「私はこれですね」


 そう言って、まずはアイナが自分の変化させた紙を裕也へと見せる。

 紙は三分の二が赤く染まり、残り三分の一が青くなっていた。つまり、素質的には『妖精を使役するタイプ』が濃いということを示す結果。


「ボクはこれだよー」


 今度はアイリが裕也へと自分の紙を見せる。

 アイリも『妖精を使役するタイプ』であることから、アイリと同じ結果になっていた。が、紙の大半を赤が占め、青はよく見ないと分からないほどの状態になっていた。


「アイリのすごいなッ!?」

「ボクは王女様より、素質が強いってことになるね! こんな風に個人によって変化があるのッ!」

「なるほどなるほど」


 裕也に自慢出来たことが嬉しい層に声を弾ませながら言っていたアイリから、今度はユナへと視線を移す。

 その視線に気が付いてから、ユナは自分が変化させた紙を裕也へと見せる。

 こちらはアイリやアイナと違い、青の変化が多く、逆に赤の変化が少なくなっていた。


「うんうん、妥当な変化だな」

「ですね。二人の紙の変化でなんとなく分かっていたと思うので、驚きなんてないことは分かってました」


 その反応がつまらないと言わんばかりに顔を横に逸らすユナ。もちろん、少しだけ拗ねていたのである。

 が、裕也はその反応を無視し、最後まで残ったミゼルを見た。


「ん」


 ユナと同じく、裕也の視線が向けられてから、その紙を上げるミゼル。


「え? ウソ……」


 思わず裕也が漏らしてしまうほど、ミゼルが魔力を送った紙は独特の変化――紙全体が青へと変化していたのだ。

 もしかしたら、端っこがほんの少しだけ赤に変色していないか、ミゼルからその紙を奪い取り、それを裕也は目を凝らして確認してしまう。しかし、その見た目が変わることはなかった。


「自分にはそっちの素質はないけど、その代わりがさっきの話で言った治癒の話さ。これで少しは納得出来るんじゃないかい?」


 ミゼルは裕也が驚くことが分かっていたらしく、口元に手の甲を当て、「くくく」と悪戯な笑みを溢し始める。


「た、確かに納得出来るけど……。うわあ、マジか……。って、なんで驚かないんだよ?」


 裕也はふと自分だけがショックを受けていることに気付き、三人を順番に見つめると、


「私はもちろん知ってましたから」


 と、苦笑いで答えるアイナ。


「王女様と同じ!」


 アイリもまた苦笑いを溢しながらの返答。

 ここまでは裕也も予想していた。

 同じエルフであり、救護の先生である時点でそのことを知っていて当たり前だと思っていたからである。

 しかし、この中で唯一部外者仲間であるユナの返答が想像出来ないため、裕也は「驚いたけど、すぐに納得しました」という発言を期待して、ユナを見た。


「え、えーと……、残念ながら気が付いてました」


 その裕也の視線の意味を察したユナは、遠慮気味にそう答えた。


「なっ!?」

「だ、だって! こういう特殊系の魔力を持ってる人はそれなりの特徴があるじゃないですか!」

「いや、知らねーよ! 初めて聞いたよ、それ!」

「私だって初めて言いましたよ!」

「おい、こら!」

「とにかく! そういうのがあるので、私は気が付いてたってことですッ!」


 そのことを突っ込まれたくないらしく、少しだけムキになった様子でユナは言い切り、それ以上は話したくないと言わんばかりに、裕也から顔を逸らした。

 ユナのその態度に、三人はやはり苦笑いを溢していた。


「はいはい、それはもういいからさ。ユーヤお兄ちゃんも早くやってよ。ボクたちはそっちを期待してるんだから」



 アイリのその言葉をきっかけに全員が「うんうん」と首を縦に振った。

 その期待に満ちた眼差しに、裕也はちょっとだけ引きながら、


「分かったよ、分かった! 今からやるよ!」


 そう言って、持つ紙に魔力を送り込んだ。が、その行為に慣れていないせいで、四人より少しだけ時間がかかってしまうが、無事に結果が現れる。


「え? なにこれ?」


 その結果を見た裕也は、きょとんとした顔で四人の反応を伺うと、四人とも今までに魅せたことない表情で驚いていた。


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