(2)
ドアから入ってきたのは、アイナ。
それに入口の前にはミゼルが立っており。
「はいはい、全員持ち場に戻れー。王女様の命令だ」
と、今も手を叩きながら、裕也の訓練風景を見ている人たちにそう指示するミゼル。
さすがにアイナの指示だけあってか、渋々といった様子で見ていた人たちは、ぶつぶつと小声で文句を言いながら去っていく。
「な……なんで?」
裕也は二人が訓練所に本当に来ると思っていなかったため、そう呟いてしまう。いや、ミゼルに至っては『もしかしたら?』の可能性は考えていたものの、アイナに至っては絶対にないと思っていたのだ。それは、あのセインが許さないと勝手に思い込んでいたからだった。
「えへへ、セインを説得して許可を貰ったので来ちゃいました。あ、ちなみにセインは用事があって、今日は来ませんよ?」
目の前までやって来ると、裕也の呟きに対する答えを笑顔で答えるアイナ。
遅れて到着したミゼルは、
「昨日と同じ護衛だね、自分は」
なんて面倒くさそうしながら、少しだけ恥ずかしそうに答える。
「せ、説得ってどうやったんですか?」
アイナの回答に対し、ユナがそう尋ねると、
「普通に説得しましたよ?」
と、即座にアイナが答えた。
「普通に?」
「はい、普通にです」
「その普通に、を教えてくださいませんか?」
「普通は普通ですよ。『セイン、ユーヤくんの訓練風景を見に行きたいです。いいですよね?』って頭を下げようとしたら、即座に許可してくださいました」
「……そ、そうですか……」
「はい!」
指一本立てて、アイナは満面の笑顔を浮かべる。それはもう清々しいぐらいに。
それに対し、裕也とユナは少しだけ引きつった笑いを溢し、アイリに関しては空笑い、ミゼルは「はぁ」と呆れた様子を隠すことなくため息を吐いた。
「まぁまぁ、そんなことより! 訓練の方はどうですか? 順調ですか?」
この話は終わりと言わんばかりに、手を叩くと裕也へアイナはそう質問。
が、全然順調じゃないため、即座に首を横に振った。
「そう……ですか……。もしかして先ほどの……」
今ではアイナの命令により誰にも居なくなった部屋の外を一瞥し、そのことを確認するために裕也を見る。
それが事実である以上、隠すことは出来ないため、裕也は遠慮することなく首を縦に振った。
「申し訳ありません。これもみなさんに知らせておくべきでしたね。まさか、二日目でこんな風に人気が出るとは思わなかったので……」
「あ、いや……、それはしょうがないです。まさか、こんなに人が来るとオレも思ってなかったし……」
「ですよねー。いったいどういうことなんでしょうか?」
その原因が分からず、頬に片手を置き、悩み始めるアイナを余所に、その原因が分かっている裕也は、
「さ、さあ……?」
なるべく不自然じゃないように、そう答えることしか出来なかった。
「なんで、みんなが裕也くんの魅力に急に気が付いたのかは別として、訓練の邪魔になっていたギャラリーを排除して頂いてありがとうございます。これで安心して訓練することが出来ます」
裕也では話題転換が無理だと思ったのか、誰よりも先にユナがそう言って、アイナとミゼルに頭を下げた。
「いえ、こちらこそご迷惑かけてすみませんでした」
と、アイナが頭を下げようとしたため、
「王女様、セインみたく言いたくありませんが頭を下げたらダメです。バレたら、また怒られますよ?」
途中でその肩を掴むようにして、アイナの行動をミゼルは阻止した。
そのことに気が付いたらしく、「あっ」と声を出し、
「そうですね。また怒られるところでしたね。本当は下げたい気分なのですが、それはなしということでお願いします」
申し訳なさそうに頭を下げることなく謝罪。
そのことが分かっている裕也とユナはあっさり了承の頷きを、アイナへと見せた。
「じゃあ、そういうことで訓練しようよ! ようやく静かになったことだし、ちょうどいいよね!」
やっと修業が出来るようになったことで、自分の出番がやってきたことが嬉しいのか、張り切った様子でアイリは四人へ伝える。
「そうだな、始めるか」
その言葉にそう答えると、裕也はアイナへと近付く。
ユナたちは自然とその様子を見るために、裕也の前に自然と三人が並ぶ形なってしまう。
――ちょっと緊張するなー……。
ユナとアイリは指導という立場のため、緊張する必要は全くなかったのだが、アイナとミゼルは観客の立場。そのせいか、さっきよりも一層緊張してしまっていた。
裕也の内に眠る魔力の解放をしようとアイナが裕也の手を触った途端、そのことに気が付いたのか、
「大丈夫だよ。そう簡単に成功するものじゃないし……。だから、そんなに緊張することないよ」
裕也を優しい言葉をかけた。
「そ、そうだよな」
「緊張しちゃうのは分かるけど、リラックスした状態じゃないと良い結果は生まれないものだよ」
「……大人の考え方だな」
「えへへ……そう? まぁ、年齢的にはそうだからねー。あ、でも――」
「分かってるよ。見た目の判断で良いんだろ?」
「うん、その通り!」
「とにかくやるか。そろそろユナが文句を言いそうだしな」
「うん!」
「聞こえてますよー。まったく、まるで私が鬼教官みたいになってるじゃないですか!」
裕也の言葉に対し、ムスッとした反応を示し、頬を膨らませていた。
そのやりとりにアイリは楽しそうに笑いながら、
「頑張ってください。出来ないからといって、めげなくても大丈夫ですからね」
と、アイナと同じく優しい言葉をかけ、
「失敗したところで気にしてないさ。むしろ、気が付いたことを教えてやるぐらいだよ。頑張ってきな」
ミゼルもまた興味がないようなフリをしつつ、裕也に応援の言葉をかける。
三人の言葉により、肩の力が抜けた裕也は、アイリを見つめて、魔力の放出を始めるように首を縦に振る。
その合図を見たアイリもまた首を縦に振り、
「じゃあ、やるよー」
裕也の手を握り、自分の魔力を送り、裕也の魔力を放出させた。




