(14)
裕也がそうやって頭を回転させていると、先ほどの原因を作ったアイナがまた口を開く。
「魔力の訓練の方はどうですか?」
これは訓練所を貸してくれた人物として当たり前の質問のだが、先ほどの原因があるため、裕也は一瞬嫌な顔をしつつも、
「ダメですね。素質がないんじゃないかなって思うぐらいダメダメでした……」
その表情を誤魔化すために咄嗟に落ち込んだものに変えて、そうため息を吐いた。
「そんなことないですよ! 最初だったからそうなっただけで、ちゃんと出来ます!」
と、ユナが声を荒げ、裕也に激励の言葉をかけた。
「うん! 最初はそんなものだから安心して! ちゃんとボクが使えるように手伝うからッ!」
ユナにつられるように、アイリまでも慌てた様子でそんな言葉をかけてくる。
裕也はそんな慌てた様子で励まし始める二人の反応に戸惑っていると、
「大丈夫だ。自分もユーヤくんなら出来ると思っているぞ。だから心配するな」
その訓練風景を見ていないミゼルまでもが応援し始め、
「みんながそう言っているので、きっと大丈夫ですよ! だから、無理はなさらないように頑張ってくださいね!」
三人の言葉から自分も励まさないといけないと思ったのか、アイナまでもが裕也にそう声をかけた。
――なに、この連帯感……。
「お、おう。が、頑張ります。ほどほどに……」
四人の連帯感に少しだけ引き気味になりながらも、裕也は四人の激励を素直に受け取ることしか出来なかった。いや、ここで落ち込んでしまえば、さらに面倒くさいことになると予想したからだ。
案の定、四人とも裕也が元気を出したと知り、少しだけ安堵の表情を浮かべていた。
――オレは簡単に落ち込んだフリも出来ないのか……。
この状況に裕也はそう思い、「はぁ」と胸あたりに溜まった重いものをため息として吐き出す。
しかし、今度は四人とも裕也を心配そうな目で見つめるも、声をかけることはなかった。それは一応、応援の言葉を受け取ってくれたため、これ以上言えば重荷になると判断したからだった。が、それでも励ましたいと思う四人はそれぞれが裕也を励ますことの出来る方法を思案し始める。
ここでも最初に思いついたのはアイナ。
「明日からは私も訓練に付き合いましょうか?」
そう言いながら、タオルで隠している胸を裕也の腕に押し付け。上目遣いをしながら見つめる。それは女性としての最大限の魅力を引き出すための行為。
「ちょっ、はぁ!?」
アイナからのまさかの大胆な行動に裕也は動揺してしまう。
それは、こういうことに対しての免疫がほとんどないからだ。あるのは、好意を持たれて告白されるまで。ただ、過去にこういう状況がなかったわけではなかったが、それでもなんとか回避してきた。
しかし、今回は相手が相手だけにそこまで無下な対応を取れることが出来ず、腕から引き離すことも出来ないでいると、
「大丈夫ですよ! 私たちが面倒を見ますから!」
そう言って、ユナが反対側の腕に胸を押しつける。
「そうだよ! 王女様は王女様で忙しいでしょ?」
『私たち』と言う言葉に納得したらしく、アイリまでもがユナの言葉に同意し、裕也の横から腕を回して抱き付いてくる。
この状況が気に入らないのか、アイナは少しだけ頬を膨らまし、チラッとミゼルを見つめる。こっちの味方に付いて。言葉に出さずとも、そう目で言っていた。
その視線に困ったようにミゼルは自分の髪をわしゃわしゃと掻き、
「まぁ、王女様は立場上、無理かもしれないな。自分で良かったら、治療の意味を含めて見てやってもいいぞ」
あっさりとアイナを見捨てた。
「なっ!? ミ、ミゼル先生!?」
「はい、なんですか?」
「あ、あの……私も……」
「無理はダメですよ? 無理じゃない範囲ならいいと思いますが……」
「……そうですね……分かりました」
アイナは裕也から腕から離れると、お尻を置くほどしかない段差の上に器用にかかとを乗せ、体育座りになってしまう。そして、ほんの少しだけ顔を膝に埋めつつも少しだけずらしており、隙間から裕也に助けを請うような視線を送っていた。
――ど、どうしろってんだ、これ……。
どう考えても立場上、無理であることが確定しているアイナへのフォローの言葉が見つからず、裕也はしばらく考え込まされてしまう。そして、考え込まされた結果、
「せ、セインさんの許可を貰ったら……いいんじゃないですか……ね……?」
そう言うことが精一杯だった。
が、アイナにとって、それは朗報だったらしく、パァッ! と顔が明るくなり、
「そうですね! 私、セインの許可を貰ってきます! いえ、貰います!」
と、勢い良く立ち上り、そう断言した。
「命令はダメですよ?」
「命令はダメだよ、王女様」
「命令で許可を貰わないように」
すかさず三人は口を揃えて、注意の言葉を口にした。
言いはしなかったが、裕也ももちろんそのことに気が付いていた。
まさか、三人から注意を受けるとは思ってもいなかったのか、アイナは再びショックを受けた顔になり、ゆっくりとお湯に身体を浸からせていった。最終的には鼻から上がお湯から出るぐらいまで下がり、不満を口ではなく泡で漏らし始める。
「ま、まぁ……正々堂々許可を貰えばいいんですから、とりあえず頼むだけ頼んでみたらどうですか?」
裕也がちょっとだけ可哀想になりつつも、そう言うことしか出来ず、仕方なくそう言うと、アイナは泡で「はい」と返事を返すのだった。




