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(13)

 ミゼルも身体を洗い終わると、全員がお湯に浸かりにやって来る。

 そして、誰かが指示するわけでもなく、裕也を中心にして右にユナとアイリ(ユナの膝の上)、左にはアイナとミゼルの順番で座られてしまう。


 ――せ、せめて、女子同士で集まれよ。


 こうなることを予想していなかったわけではなかった裕也だったが、気持ち的にはそう突っ込まずにはいられなかった。

 しかも、四人とも誰とも喋ろうともせず、することは裕也をチラチラと伺うばかり。まるで、裕也から何かの話題を求めているかのように。

 が、裕也にはそんな話題を考える余裕などなく、唯一取れる行動は――。


「結構、長時間入ってたからのぼせそう。オレ、上がりますね」


 そう言って、この状況から逃げようとすることだった。

 さすがの四人もこれを言われたら、引き止める術はない。ミゼルでさえも先生上、体調不良を引き止めるほどバカじゃない。そう考えた裕也は逃げ切れると思っていた。

 が、そこで意外なことが起きてしまう。


「ミゼル先生」


 アイナが指をパチンと鳴らすと、


「はい、分かってますよ。お手のものです。ユーヤくん、ちょっとこっちに来てくれるか?」


 そう言って、裕也を手招きした。


「え?」

「いいから早く」

「……え?」

「はーやーく!」

「…………はぁ」


 裕也は言われるがまま、お湯の中をジャブジャブと進んで近寄る。


「はい、身体を屈めて」

「はぁ」


 そして、言われた通りに身を屈めると、ミゼルは裕也の額に手を置く。その直後、裕也の身体にあった熱が一気に消え去り、お湯に浸かる前の寒さが裕也の身体を包み込んだ。

 いきなりの起きた体温変化に、


「さむっ!」


 と漏らし、急いでその場に顔だけを出すようにしてしゃがみ込む。


「よし、これで大丈夫。長風呂に付き合えるな」


 裕也の様子を確認したミゼルは少しだけ黒い笑いを溢す。

 その表情からハッとしてアイナを見ると、アイナもまた王女にはふさわしくない意地悪をする時に浮かべる表情を浮かべていた。


「良かったですね、ユーヤさん」


 しかし、そのことを隠すように笑顔になる。

 ユナとアイリはそんな二人の行動に対し、苦笑いを溢し、それに巻き込まれないように身体を少し動かして距離を取っていた。気付かれないように本当に少しだけ。


 ――な、なんで……ッ!


 自分の中では最高に良いアイディアだと思っていた裕也にとって、まさかその場で治されると思っていなかったため、思わず引きつった表情になってしまい、


「そ、そうですね……。ありがとうございます……」


 そう言いながら、素直に元座っていた位置に戻った。

 裕也が元の位置に戻るタイミングを見計らったように、


「それで、現在どんな感じですか?」


 と、裕也に尋ねた。

 自分に何を尋ねているのか、その言葉の意味に気付けた裕也は自然と部外者であるミゼルへ視線が向いてしまう。


「大丈夫ですよ、ミゼル先生は。こちら側の人間ですから」


 すると、アイナもまた裕也の視線の意味に気が付いたのか、そう付け加える。


「そうですか。じゃあ、言いますけど……やっぱり先生の言う通り、アベルが怪しいってみんな言ってました。真犯人探しの進展としては全然進んでないけど、明日はそれを本人に尋ねようかと思ってます」


 アイナが誰でも信じやすいという性格に少しだけ不安を持ちつつも、現在の進展は簡潔に話すと、


「そうですか。一日目はこんなものでしょうね」


 もうちょっと進展していることを期待したのか、ほんの少しだけ残念そうに呟いた。


「でしょうねー。あくまで王女様のお願いだから、みんな話してくれるだけで、知ってること全部は話してくれてるわけじゃないですしね」

「そうなんですか?」

「そんなものですよ。人望なんて時間をかけないとダメですから。何よりも種族が違いますからね」


 魅惑能力を持っているからと言い、それがすぐにかかるわけじゃないことだけは体験から分かっている裕也にとって、最初から全て上手くいっていくと思っているわけではなかった。


「自分は信用してるんだけどな」


 そう小さく呟くのはミゼル。まるで、自分もその一人であることが気に入らない様子で、「むー」と唸り始める。


「ボクも信用してるよ?」


 それに乗っかるようにアイリまでもそう言い始めてしまう。



「私も信用していますよ?」


 二人にさらに乗っかるようにアイナまでも言い出す。

 その原因が分かっている裕也は少しげっそりした様子で、


「分かってますから。三人ともオレのことを信用してくれているのは。アイリ、王女様、先生を除くって言えば分かりますか?」


 わざわざこんな面倒くさいことを言った。

 それだけで三人は満足したらしく、アイリは「そっか」と喜び、アイナは「ありがとうございます」とお礼を述べ、ミゼルは照れくさいのか鼻を鳴らす。


「私も信用してますよ?」


 そんな中、この三人に張り合うようにユナがそんなことを呟く。


 ――お前もか、ブルータス!


 ユナだけはそんなことを言ってこないと思っていた裕也は、頭の中に浮かんだ言葉を心の中で漏らした。


「分かってるって。ユナが一番にオレを信じなきゃ、誰が信用するんだよ。なぁ、アイリ?」


 そうアイリに尋ねると、


「そ、そうだよ? うん! ユナお姉ちゃんが一番信用してなきゃダメだよ!」


 アイリもまたユナがそんなことを呟くと思っていなかったらしく、慌ててそう答える。そして、敵意を少し含んだ視線でユナを見上げた。

 アイリだけではなく、アイリとミゼルも同じような視線でユナを見ていたことを言うまでもない。

 この状況はさすがにマズイと思った裕也は、


「ここにいるメンバーは信用しているから安心しろって!」


 いつの間にかに始まってしまった女の戦いに宥めるような発言をすることしか出来なかった。

 四人ともあまり納得した様子ではなかったが、


「そうですよね」

「うんうん、そうだよそうだよ!」

「そうですね」

「ああ」


 などと一応納得した返事をそれぞれが答えた。


「とにかく、信用云々の話はこれで止め。よし、終わりだ!」


 そう言って、裕也は無理矢理強制終了させて、次の話題に持っていこうと、頭の中をフル回転させる羽目になってしまう。


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