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(11)

 二人の様子を見ながら、裕也は頬を掻き、


「別に二人は付いて来なくてもいいんだぞ?」


 と、二人が怒りそうな言葉をワザと口にした。

 それは、二人がそこまで嫌悪感を強くしている状態の中で、無理に付いて来てもらう必要性を感じなかったからだ。

 もちろん、その言葉にユナはキッ! と裕也を睨み、


「そんな事言わなくてもいいじゃないですか」


 と、再びムスッとした表情になってしまう。


「アベルのこと嫌いなんだろ?」

「はい、嫌いです」

「じゃあ、来なくていいじゃん」

「そういう裕也くんはどうなんですか?」

「嫌いだけど?」

「ほら、やっぱり! でも、裕也くんは無理して行くんですよね?」

「オレは自分で招いたことだからな。だから行くだけで、行かないで良いなら行かないさ」

「私は裕也くんの側にいることに決めたんです! だから、行くんですよ!」

「……あっそ」


 何を言っても付いて来る気だと判断した裕也はこれ以上の押し問答をしてもしょうがないと思い、流すことにした。もちろん、面倒くさいという雰囲気を出したままで。そして、気分を変えるべく、両手でお湯をすくった後、顔にバシャバシャとかける。


「まぁ、あれだ。ユナは無理矢理でも付いて来るだろうけど、アイリは無理するなよ。あんなこと言われれば、心に傷が出来てもしょうがないしな」


 顔に付いている水滴を落とすべく、右手で顔を拭いながら、裕也とユナの会話を聞いてはにかんでいたアイリにそう促す。

 アイリは「んー」と困ったように唸った後、


「そうだね。無理しないようにする。その判断は行く前の気分で決めることにしてもいいかな?」


 上目遣いをし、裕也に尋ねた。

 そのことに対し、最初から異論がなかった裕也は、


「別にそれはいいんだけどさ。なんで、そんなにオレたちと一緒に居たがるんだ?」


 と、気になったことを尋ねることにした。

 朝の時点でアイリが魅惑能力のせいで虜になっていることは分かっていたが、それ以上に違う理由があるような気がしたからだ。

 その質問に対し、アイリは「ふぇ?」と一瞬、びっくりした後、俯く。そして、足を伸ばして、軽くパシャパシャと足をばたつかせながら考え始める。こうしてアイリが出した答えは、


「ユーヤお兄ちゃんとユナお姉ちゃんが優しいから……かな……」


 自分でもその理由が見つからないのか、なんとも適当なものだった。


「そっか。じゃあ、一緒に居たいよな」


 そのことが分かった裕也は深く追究するようなマネをせず、そのまま流そうとすると、


「つ、追究しないの?」


 と、アイリに逆に質問されてしまう。


「したところで答え出ないだろ?」

「う、うん。だけど……」

「居心地のいい人の側にいたい。そう思うのはごく普通のことだ。まぁ、なんとなくだけど……アイリも付いて来そうな気がしたから、それを聞いただけさ。悪いな、変なことを聞いて」

「ううん、気にしないでよ。それだけボクのことを気遣ってくれてる。それが分かって、ボクは嬉しいんだから!」

「私にはそんなこと言ってくれないんですね」


 裕也とアイリが良い雰囲気になっている中、その不満を口にして、間に入ってくるユナ。


「何を言ってるんだか……」


 ユナの発言に裕也は呆れ、アイリは少しだけおかしそうにクスクスと笑みを溢す。


「私にだって優しい言葉を少しはかけてくれていいと思います」

「優しい……って、どんな言葉を?」

「優しい言葉は優しい言葉ですよ」

「何に対しての?」

「ほら、そこは……『ユナも一緒に来てほしい』とか?」

「ユナも一緒に来てほしい」

「……感情が一切こもってない棒読みなんていらないです」

「実際、嫌なら来なくていいし。なんならアイリとお留守番しててもいい。そう思ってるしなー」

「うー! なんで、そんなこと言うんですかぁ! もうっ!」

「そんなこと言われてもなー」


 裕也は困ったように頬を掻いた。

 それはユナがなんでこんなにも自分に突っかかってくるのか、それが全然分からないからだ。アイリには優しい言葉をかけるだけの理由があったからかけただけであり、もしその理由がなければ言わなかった。それをはっきり断言出来る自信があるほど。


 ――まさか……な……。


 そこで裕也の頭を過ぎったのは、魅惑能力のことだった。

 元の世界の人間、アイリとアイナ、先生、この大勢の人を虜にしたのだから、ユナもその能力にかかっていてもおかしくない。そう思ったのだ。

 しかし、そのことを教えてくれたのはユナであり、教えるということはそれなりの対策をしているはずだと思ったため、すぐにその考えを否定。そして、機嫌を悪くしてしまった理由を考えるも、今までの自分の発言は間違っていないと思い、その答えを見つけることは出来なかった。


「ま、まぁまぁ……二人とも仲良くしようよ。気持ちいいはずのお風呂場でケンカなんてするものじゃないんだから。ねっ?」


 裕也の様子から場を和めないといけないと思ったのか、アイリはユナに顔を向けるように上を向き、そう話しかける。


「……はぁ、分かりました。アイリちゃんに免じて許してあげますよ。せっかく気持ちの良いお風呂に入っていることですしね」


 一回ため息を吐くと、ジト目で裕也を見ながら、仕方なくという気持ちを隠すことなくその言葉を裕也にぶつける。

 何が何だか全く分からない裕也は、過去の経験からこういう時の女の子の発言をまともに受け取ってはいけない、と分かっていたため、その言葉はスルーすることにした。


 ――意味が分からないから、一番面倒なパターンだな……。


 自分が悪いと思ったら、ちゃんと謝る裕也にとって、ユナが怒っている理由が分からないため、そう思ってしまうのだった。

 三人はその後、自然と無言になってしまい、響くのは身体を動かすごとに水音が聞こえるだけの状態になってしまう。

 裕也からすれば、その状況はさらにさっきのことを考えさせられることになってしまい、あまり気持ちの良いお風呂とは言えない状況。なんとなくこの場所から逃げたくなった裕也は、勢いよくお湯から身体を上げ、


「さっ、オレはそろそろ――」


 そう言いかけた時、ガラガラと大浴場のドアが開かれる。

 裕也は言いかけていた言葉を喉に飲み込み、アイリとユナも自然とそのドアの方へ視線は集められ、入ってきた意外な人物へ向けられることとなった。


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