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(4)

 教室に着いた裕也とユナは、裕也の机を境界線にして向い合わせにしてイスに座っていた。

 ユナは教室の光景が珍しいのか、落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見回している。

 その様子を見ながら、裕也は頬杖をつき、飽きれた様子でユナを見つめていた。


「もう教室を見回すのは止めにしないか? なんとなくこの世界の住人でないことは分かったけど」

「あ、やっぱり分かります? 裕也くんもさすがじゃないですか。ほんのちょっと声をかけるだけで、残っていた同級生さんたちを教室から追い出すんですから」

「したくてしたんじゃないっての。でも、オレに人の居ない教室を使えるだけの権力がないから、そうするしかなかったんだよ」


 ユナのからかいの発言に対し、裕也は視線を逸らしながら答える。が、その表情は少しだけ暗いものとなっていた。

 それはこうなることが分かっていたからだ。分かっていたからこそ、あっさり残っていた数名の同級生を追い出すことに出来た。理由なんて何でもいいのだ。話すだけで出て行ってくれるのだから。


 ――たぶん、これもユナの説明で分かるんだろうな……。


 なんとなく全てが繋がっているような気がした裕也はそう心の中でぼやく。


「とにかくだ、何から話してもらおうか。ちなみに知ってること、全部吐いてもらうからな?」


 ちょっとだけ威圧的に言うと、


「分かってますよー。そのためにここに来たんですから」


 ユナはその威圧に屈することなく、明るい声で答える。

 明らかに二人の間にある温度差に裕也は気付いていたが、注意をすることはなかった。注意をしたところで、ユナはきっと変わらないような気がしたからだ。そういう子なのだろう、と思うことで流すことした。


「じゃあ、まずは何から話しましょうか?」

「そりゃあ、名前から」

「ユナです」

「フルネーム」

「ありません」

「そうか。じゃあ、次に行こう」

「はい」

「何者なんだ?」

「天使です」

「神様の使いってやつ?」

「はい」

「ふーん」

「あれ? それだけですか?」

「この世界の住人じゃないことは分かってるから、何でもいいかなって思って」

「じゃあ、なんで聞いたんですか?」

「そういうことははっきりさせておきたいじゃん」

「なるほど。納得です」


 感心するように手の平に手を落として、行動でも納得したことを表現するユナ。

 対照的に、裕也は「はぁ」と面倒くさいことを隠すことなく、ため息を漏らす。


「次、行くぞ」

「はい」

「その天使様がオレに何の――ああ、異世界に連れて行きたいんだっけ?」

「今、思い出しましたね?」

「うるさい。そういうツッコミいらないから。とにかく、その理由を教えてくれ」

「きっと驚くと思いますよ? そんな態度取っていられないと思いますけど、大丈夫ですか?」

「ほう。じゃあ、驚かせてみろよ。聞いてから、ユナの望む反応を取ってやるから。内容によるけどな」

「ふふっ、それは私に対する挑戦状ですね! 良いでしょう、受け取りましょう!」


 絶対に裕也が驚く自信があるらしく、ユナは裕也に向かって、指を突き出す。

 その突き出した指が気に入らない裕也は、手でバシッと叩いて、自分から焦点をずらす。ユナの口から「いたっ」と声が漏れたが、無論のこと無視である。


「もう。分かりましたよ。説明を始めますよ」


 心配の言葉も、反省の言葉もない裕也に少しだけむくれながらも、ユナは言葉通り、説明をし始める。


「まずは何から話しましょうか……。うーん。そうですね、まどろっこしいのは嫌そうなので重要なことから言いましょう。裕也くんは本来、この世界に生まれる人間ではなかったということです。つまり、今から連れて行く世界こそが、裕也くんが本来生まれるはずだった世界なんですよ? 分かりました?」

「……」

「……」

「もう一回。簡潔に」

「いいですよ。裕也くんが存在する世界はここではなく、これから行く異世界です。思った以上に簡潔にまとめることが出来ましたね!」


 自分でもこんなにも簡潔にまとめられると思っていなかったらしく、ユナは自慢そうに胸を張る。

 が、裕也はそんなことを突っ込む余裕なんてなかった。

 今まで不機嫌を現すかのように頬杖を付いていた手から顔がずり落ち、慌てて体勢を立て直す始末。もちろん、先ほどまでの頬杖ではなく、背筋を伸ばすような形の座り方で。


 ――予想を超え過ぎだろ……。


 『異世界に行って、世界を救ってくれ』というよくあるパターンではなく、『住む世界が違うから、本来の世界に帰れ』と言われる展開に裕也は言葉を失ってしまっていた。むしろ、この世界で築いた全てのものが偽物とまで言われたような気分だった。


「そのせいで裕也くんは無駄にモテるわけですよ。この世界ではありえない異能と魔力を持ち、それが使える世界ではなかった。その放出する術がなかった魔力が、発散させるという目的の元、モテるという方向で発揮されているというわけです」

「なっ、そ……、そんな影響で……」

「それ以外あり得ないじゃないですか。だから、『きっと、驚くと思いますよ』って忠告しておいてあげたのに……」

「い、言ったけど……そ、そんなことより、本当にオレは違う世界の人間なのか?」

「いえ、こちらの世界の人間ではあることは間違いないですよ?」

「え?」


 先ほどと言っていることが違うユナの言葉に、裕也は首を傾げ、


「でも、さっきは――」


 と聞き返すと、


「生まれるはずだった世界が違うっていうだけで、こちらの世界に生まれた時点でこちらの世界の住人であることは間違いないですよ。だから、裕也くんが疑問に思っているであろう両親や祖父母に関してですが、本当のご両親という認識で大丈夫です」


 裕也が聞こうと思っていたことを先読みし、全てを答えた。

 その言葉が聞けただけでも裕也は少しだけ心の中が落ち着くような気がした。その答えだけで、今まで歩んできた人生が偽りではなく、『本当の自分で選んだ道だった』と思えたからだ。

 が、同時に新たな疑問が浮かび上がる。

 それは、この話題の一番重要な『異世界に連れて行きたい』という天使が、今頃になって現れたのか? ということ。

 それを聞こうと口を開く前に、


「異世界に連れて行きたい理由ですよね? ちゃんと教えるので安心してください」


 ユナはにっこりと微笑み、そう言った。


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