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(9)

「これが私の知っていること全部だよ」


 先生はもう言うことはない、そう言わんばかりに左足の上に右足を乗せ、口を閉ざす。

 なんとなくとっつきにくい感覚を受けていた裕也にとって、これ以上は何も話さないと判断したため、


「すみません。ありがとうございました」


 と、頭を下げる。

 それにつられるようにユナとアイリも、


「ありがとうございます」

「先生、ありがとうございました!」


 と同じくお礼を述べ、頭を下げる。


「いやいや、やめてくれ。自分は王女様の命令……あれはお願いだっけ? それに従ったまでさ。だから、そんなお礼なんていらないよ」


 軽く手招きするごとく右手を上下に振り、お礼の言葉を拒否する先生。


「全員にする予定ですよ。というよりも、情報を教えてくれるんですから、それぐらいのことはしないとダメだと思いますけど……。あ、もちろん知らなくても言いますよ?」


 裕也はそう言いながら軽く笑う。

 その瞬間、先生の顔が赤く染まり、プイッと顔を逸らしてしまう。


「そ、そうかい。それならいいんだけどね」

「え?」

「いや、なんでもないさ。もしかしたら、自分だけに言うのかって勘違いしちゃっただけだよ」

「さすがにそれはないですよ。確かに結構良い情報を貰いましたけど」

「あれだね、不思議なもんだよ。あまり関わりたくないと最初は思っていたのに、こんな風に話しちゃうなんてね」


 先生は頬を指で掻きながら、お礼の件から話を逸らすようにしみじみとした様子で呟く。

 その呟きに対し、


「うんうん、それは分かるよ! ボクだって、最初はエルフの街に連れて行くつもりなんかなかったんだよ? なのに、なんとなく頼みを聞いてあげたいって気持ちになっちゃったんだよねー」


 と腕を組み、そのことに賛同し始める。

 その言葉を耳にした先生は意外そうにアイリを見つめる。


「そうなのか? てっきりいつもの人懐っこいせいで……」

「人は選ぶよー。というより、それをするのは同じ種族のエルフだけだよ? こんなピリピリとした状況の中で、他の種族をエルフの街に入れるような馬鹿な真似はしないってばー」

「ほむ、なんでだろうな?」

「分かんない。分かんないけど、力になってあげたい。そう思っちゃったんだよねー」

「それには素直に賛同しようじゃないか」


 アイリと先生はそのことについて悩み始めていた。

 そんな二人の様子を見た後、視線だけをユナへと向ける裕也。が、先にユナが見ていたらしく、お互いの視線が合うと、ユナはウインクしてみせる。

 裕也が考えている通りの結果だということを知らせるように。


 ――み、魅惑能力のせいか、やっぱり!


 『ACF』と同じく現時点では制御することが出来ない魅惑能力が二人をすでに虜にし、それが原因でこんな風に簡単に口を割らせたり、手伝わせたりしていることに気付いた裕也の口から空笑いが漏れてしまう。

 その笑いがアイリと先生には聞こえたらしく、訝しげな表情で裕也を見つめるも、『同じように悩んでいるから空笑いが溢れた』と思ったのか、すぐに視線を外す。


「考えても分からんな」


 と、先生は組んでいた足を下ろし、考えることを放棄。


「そうだねー。分からないものをいつまでも考えてもしょうがないよね!」


 アイリもすぐに納得して考えることを止め、裕也とユナの方を向き、


「変なこと言っちゃったけど、気にしないでね!」


 と、二人へフォローを入れ始める。


「お、おう、分かってるさ、うん。助けてくれようと思った気持ちが大事なんだからさ」


 その原因が分かっている裕也は、なるべく平静を保ちつつ、そのフォローの言葉をさらにフォローすることだけだった。

 ユナも同じ考えに至ったらしく、困ったような笑いを溢し、


「こ、これからどうしましょうか? 真犯人に近い人物の情報は早くも得られたわけですけど……」


 と、その話題を逸らす。


「んー、確証じゃないから、その確証を得られることが出来るような情報を集めるしかないよな。って、先生の前で話すようなことじゃないだろ」


 顎に指を置きながら考え込み、もっともなことを言った後、ユナに注意を促す。先生は特に気にしていない様子で話していたが、そんなフリをしている可能性があったため、気を使ったのである。

 そのことに気が付いたユナは「あっ!」と声を漏らし、自分の口元を隠した。

 そんな二人の様子を見ていた先生は、


「だから、そんなに気にしなくていいってば。疑われても仕方ない思想だし。自分自身、どうでもいいと思ってるから、ユーヤくんたちに話したんだし」


 そう言いながら、白衣のポケットから球体の飴玉を取り出す。そして、包みを破り捨て、それを口へ向かって投げ入れる。


「一応ですよ」


 先生がそう言うことは分かっていた裕也は間髪入れず、そう言った。

 その言葉の真意が読み取れていないのか、先生は首を傾げる。


「友達であることは変わりないんですから、それぐらいの配慮は必要だと思っただけですよ。オレだったら、知ってる人悪く言われるのは嫌な気分がしますし。だから、そう言っただけで、先生がどう思ってるかは別です」

「……うん、そういう思いやりは大切だね」

「でしょ?」

「ああ、ありがとう。って言っておこうかな?」

「いいですよ。所詮、自己満足ですから」


 別にお礼を言われたいわけではなかった裕也はそう言い切り、ユナとアイリを見て、


「そろそろ出ようか。いつまでもここに居てもしょうがないし。他の人にも聞き込みしないとな」


 そう言って、二人の間をすり抜けるようにしてドアの方へ向かい歩き始める。


「そうですね」

「うん、分かった!」


 ユナとアイリも裕也の行動の従うように、その後を付いて行く。

 そして裕也はドアを開けると、先生の方へ身体を振り返らせ、


「朝からご迷惑おかけしました。失礼します」


 と、学校でいつもやっていたように頭を軽く下げて、救護室から出る。


「本当にお世話になりました」


 ユナも同じように頭を下げ、お礼を述べる。


「先生、またねー!」


 アイリに至っては子供らしい挨拶を行い、救護室から出た。

 そのことを確認した裕也が空けていたドアを閉める。


「自分の気持ち、ユーヤくんにはバレてるような気がするなー……」


 救護室にたった一人残された先生は、口の中にある飴を転がしながら、背もたれに脱力した背中を凭れさせる。そして、大きくため息を一つ吐いた。心の中に溜め込んでいた重い気持ちを吐き出すように。


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