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(6)

「問題はその聞く人だな」


 腕を組み、裕也はアイリを見つめる。


「どういうこと?」


 アイリは裕也の言葉の意味が分からず、首を傾げつつ、真似して腕を組んだ。


「手当たり次第に聞いても良い情報ってのは手に入らないだろ? だったら、それなりの情報を持っている人に話を聞いた方が真犯人の的を絞れるんじゃないかって思ってな。んで、その話を聞くにふさわしい人物を知ってるか?」

「あー、そういうことね! 分かった! とは、言っても……あまりお城のこと分かんないんだよね」

「まぁ、子供だからな。そう簡単にお城の情勢とかいろいろと教えるはずがないかー」


 もしかしたら、のつもりで聞いたはずだったが、心のどこかでそのことに少しだけ期待していた裕也は自然とがっかりしてしまう。


「ご、ごめんね……」


 裕也の様子から期待されていることを知ったアイリは、顔を伏せ、申し訳なさそうに上目遣いをしたら謝罪した。

 そんなつもりは一切なかった裕也は、


「わ、悪い悪い。そんな落ち込ませるために言ったわけじゃないから元気を出してくれ!」


 と、慌ててフォローを入れた。


「地道にそれっぽい情報を持っている人から話を聞けってことになりますね。いえ、最初から、それが正解なんですよ、きっと」


 裕也とアイリの二人を気遣うようにユナがそう言いながら、落ち込むアイリの頭を撫でる。


「それもそうだな。うん、そうしよう」


 裕也がそれに賛同すると、ガラガラと救護室のドアが勢いよく開き、また勢いよく閉められる。そして、カツカツと裕也たちが居るベッドの前を一人の女性が通り過ぎようと歩いていくが、カーテンが開かれていることに気付いたらしく、チラッと裕也たちへ視線を向け、


「やっ、人間――おっと、失礼。ユーヤ君とか言ったかい? ようやく起きたようだね。気分はどうだい?」


 足を止めると、顔の横に自分の手を上げ、「よっ!」と裕也へかけた。


「はぁ……、おかげさまで……」


 裕也からすれば、全く見覚えのない人物。

 しかし、この部屋に「失礼します」の言葉をかけず入ることが出来、この場にふさわしい白衣を着ていることから、救護室の先生であることはすぐに想像出来た。が、なんとなくこの場に似つかわしくない雰囲気であったため、そう言う反応しか出来なかったのだ。

 それは外見が救護室の先生ではなく、科学などの先生のようなボサボサに乱れた水色の髪の毛、きっちり着ておかないといけない白衣をだらしなく羽織っていたからである。しかも、口にはなぜか棒の付きのアメを咥え、それを上下に振っていた。


「うんうん、ならいいよ。王女様によろしく言われてるから、安心しな。色々することはあるだろうけど、もうちょっとゆっくりしていくといい」

「はぁ」

「ん、何かおかしい? その『はぁ』は反応が困った時の言葉だろう?」

「せ、先生でいいんですか?」


 と、本人ではなく、ユナとアイリへ尋ねる。

 二人ともその質問に対し、少しだけ苦笑いを溢し、


「間違いなく先生だよ。だらしないけど……」


 アイリがぶった切り、


「でも腕はいいみたいです。見ただけで、裕也くんが倒れた理由に気付いてましたし」


 ユナはそれを帳消しにするように褒めた。

 二人のそれぞれの回答に先生は困ったように頭を掻き、


「アイリ、最後の言葉はいらないから。ユナちゃんだっけ? 倒れた理由に気付くのなんて、長年救護の先生をしてたら分かるもんなんだよ」


 少しだけ不愛想にそう言った。

 アイリに対しては少しだけ真面目な注意だったが、ユナに対しては少しだけ照れが入っているように裕也は感じた。


「治療の方ありがとうございます」


 何をしてもらったのか分からない裕也だったが、とりあえずお世話になったことは間違いないはずなので頭を下げながら、お礼を言うと、


「いや、自分は何もしてないよ。とにかく元気になって良かった良かった」


 そう言って、裕也にさほど興味を持った様子もなく、イスに座り、机の上に散らばった資料を面倒くさそうに左右に山積みにし、スペースを作り始める。


「あっ、そうだ!」


 そこで何かを思い出したように、手をパン! と一回叩くアイリ。

 自然と裕也とユナはアイリの方へ顔が向いてしまう。


「ユーヤお兄ちゃん! ここに話を聞ける人がいるよ!」

「え? 先生?」

「うん! だって、先生は見た目こそは若作りしてるけど、本当はおばあ――」


 その瞬間、裕也の背中にゾクッと寒気が走り、


「何か言った? アイリ」


 と、今まで関心を示そうともしなかった先生はイスを回転させ、三人の方へ身体を向け、冷たい目と怒気がアイリへ向けられる。


「お婆ちゃんって言おうとした」


 普通ならば遠慮して途中で止めさせられた言葉は言わない物だが、アイリは迷うことなく、その言葉をはっきりと言った。


 ――け、ケンカ売ってるのか?


 裕也はそう思ってしまうほど、アイリは無垢な笑顔で先生を見ており、悪気なんてものを一切感じていない様子だった。


「お姉さん」


 先生は正しい言葉として、アイリにそう言わせようとするも、


「お婆ちゃん」


 と、即座に言い返す。


「お姉さん」

「お婆ちゃん」

「お ね え さ ん !」

「五百歳になるお婆ちゃん」

「年齢まで言うな! ユーヤくんとユナちゃんにバレただろ!」

「でも、事実じゃん」

「そうだけど言うな! ったく、最近のガキはしつけがなってない」

「しつけされた覚えもないけどねー」

「はいはい。って、何を驚いてるんだい、二人は?」


 言い直す気がないアイリは放っておくことにしたらしい先生は、話題を逸らすように驚いている裕也とユナへ話しかけた。


「ご、五百歳って本当なんですか?」


 そう尋ねたのはユナ。


「……え、ああ。バラされたから隠すつもりはないけど、そうだよ。それがどうかした?」

「え、あの……エルフってそんな長寿なんですか?」

「長寿? 自分より上の人はいくらでもいるけど? っていうより、自分はまだそんなに年じゃないよ? アイリは『お婆ちゃん』って言ってるけど、まだ若い方なんだけど……」


 『お婆ちゃん』と言われることも言うことも心底嫌なのか、口に咥えていたアメをガリガリと噛み砕きながら、忌々しくそう言った。


 ――まだお婆ちゃんじゃない?


 そのことから不意に気になったが出来た裕也はアイリへ、


「アイリさ、今何歳?」


 と問いかけた。

 その問いに対して、アイリはきょとんとした顔で、


「ボクの年齢? そんなの聞いてどうなるの?」


 そう質問し返されるも、


「良いから答えろって」


 その質問を無視し、アイリへ即答を求める。


「んー、意味が分かんないけど……分かった。百二十歳だよ! まだまだ子供だね!」


 あっけらかんとした様子で裕也が質問の答えを答えた。


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