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(3)

 アイリは裕也の膝辺りに手を置くと、


「これからボクの魔力を送るから、ジッとしててね。それで後はボクに言われた通りにやってみて。いい?」


 少しだけ真面目な雰囲気で言われてしまったため、裕也は口の中に溢れてしまった唾を飲み込み、頷く。


「じゃあ、いっくよー! えいっ!」


 その掛け声と共に裕也の全身の毛穴という毛穴がゾワッと開くような感じがあり、全身が急に暑くなり始める。暑くなるといえ、夏場のような気持ち悪いような暑さではなく、春から夏に変わる時に味わうような暑さ。


 ――これがその状態か?


 自分の両手を見るものの、そこには漫画でよくあるような自分を包み込むような膜は一切ない。

 そのため、この訓練場に設置してある空調設備が壊れたのか、と誤認してしまいそうだった。


「どんな感じ?」


 アイリが裕也へそう尋ねてきた


「いや、特に何にも……あっ、暑いぐらいか?」

「うんうん。間違いなく魔力の放出は出来てるから安心して。じゃあ、それの制御に入ろうか」

「って、見えなくていいのか?」

「見える?」

「ほ、ほら、魔法を使ったら色とか付いてるだろ? そういうのはないのか?」

「ないよ」

「え? ないの!?」

「うん、ないよ」

「で、でも……ユナは……」


 地図の時にユナが自分の指先に色を付けて、表現してくれたことがあったため、ユナに確認する意味を込めて見つめる。


「私……? あー! これですか?」


 途中で裕也の言いたいことを理解したらしく、人差し指を立てて、指先に色の着いた魔力を出現させてみせる。

 そのことが言いたかった裕也は、


「そ、それだ! それ! これとは違うのか?」

「うん、それはまた別だよ」


 あっさりと裕也の疑問をぶった切るアイリ。


「ユナお姉ちゃんがやっているのは、自分の意思で魔力に色を着けて、見せてるだけだもん。本来、『魔力』というものは無色なの。そこのところを理解してね?」

「……マジかー。勘違いしてた……」

「しょうがないよー。って、そんなことよりも制御しないと魔力が駄々漏れの状態だから、精神的に辛くなるよ? そうは言っても、ユーヤお兄ちゃんは魔力量多いから、すぐにはならないけど」

「お、おう。そうだよな! んで、どうやるんだ?」

「えーとねー。とりあえず立ったままで楽な姿勢になって」

「分かった」


 何かの漫画で読んだことがあった裕也はそのことを思い出しながら、立ったまま全身の力を抜いていく。足には『立つ』という命令を残しているため、力が抜けていく感覚はなかったたが、両腕は次第に重力に従うようにどんどん重くなっていくのを感じ始める。

 そして、自分の意識は自然と腹式呼吸のせいか、腹部へと集中されていった。


「うんうん、良い調子だよー。じゃあ、今度は自分が感じてる体温をどこでも良いから、その部分に集中させてね。一番、感覚として分かりやすい部位は……」

「利き手がいいですよ」

「そうそう! 利き手に集中させた方がいいよ」


 二人の指示をぼんやりとした頭で聞きながら、言われた通りに全身に感じる暑さをゆっくりと利き手である右手へと集中させていく。が、一向にそこに集中する気配はなかった。それどころか、全身にどんどん気だるさが集中していくばかり。


「大丈夫だから、落ち着いて。焦ると逆に魔力が乱れて、放出量が増えるだけだから」


 アイリの言葉に裕也はハッとして、もう一度腹部に意識を集中させて、リラックスした姿勢から始める。そして、腹部から右手へ意識を集中させる。


 ――こ、こんな感じか?


 意識を完全に右手に集中させてしまっているせいか、右手だけが異様に暑くなるような感覚が伝わり始める。正確には暑くなるというよりも熱い。そんなレベルになっていた。しかし、次のアドバイスが二人から聞こえず、言われた通り、その感覚を維持するように努める。

 が、突如として足を膝かっくんされてしまったかのように、ガクン! と力が急に入らなくなってしまう。


 ――な、なんだ!?


 意識的に全身の力を抜いていた状態から、本当に全身の力が入らなくなる異常事態を脳が察知し、慌てて身体を動かそうと指示を送る。が、その指示さえも身体は受け付けることなく、その場に膝から崩れ落ちるように倒れ込んでしまう裕也。


 ――いたっ!


 手さえ動かないため、思いっきり顔面からダイブする形となり、顔に痛みが走るも口でその痛みを伝えることは出来なかった。いや、口さえも喋るという指示を拒否した結果、脳でそう思うことしか出来なかったのだ。

 いきなり、裕也が崩れ落ちると思っていなかったらしく、


「ゆ、裕也くん!?」

「ユーヤお兄ちゃん!?」


 と、二人の悲鳴に近いような驚き声が裕也の耳に入った。

 そして、地面を通して、二人が近付いてくるのが分かったが、裕也はやはり喋ることが出来ない。逆に今まで保っていた意識がどんどん暗闇に飲まれていくような感覚が押し寄せていた。


 ――眠た……いのか……?


 よく分からない感覚に脳はそれを眠気と誤認したらしく、瞼が自然と閉じられていく。そして、どんどん耳も遠くなり始める。


「やばっ! はや…魔力のほ…しゅつ……ないと……!!」

「お、……が…し…ま…」

「……、まか……」


 二人の焦る声は響くもほぼ聞こえなくなり、そのせいかどうでもよくなってしまう。

 だからこそ、裕也はその眠気に身体を委ねることにした。

 それが今、一番大事だと思ったから……。


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