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 翌日、午前五時。

 裕也は半分眠気が覚めない状態で、アイナに頼んで用意してもらっている訓練場へと来ていた。いや、半強制的に連れて来られていた。

 ここまで連れて来たのはユナとアイリである。


「ほら、しっかりしてください。魔力が使えるようになる訓練を始めますよ!」


 目の前にいる一人――ユナが手をパンパンと叩いて、裕也の意識を前に集めようと行う。


「ふぁーい」


 しかし、眠気が強い裕也は欠伸をしながら、それに答える。


「ユーヤお兄ちゃん、本当に訓練をする気があるの?」


 目の前にいるもう一人――アイリは少しだけ呆れた様子で、両腰に手を当てていた。


「ないに決まってるだ……ふぁ……だろ」


 裕也は当たり前のようにそう答える。

 その答えを聞いた二人はちょっとだけショックを受けた表情を浮かべ、お互いに顔を見合った後、盛大にため息を漏らす。


「なんで、そんなやる気がないんですか? やる気があるから、王女様にこの場所を使えるように頼んだんでしょ?」


 と、裕也のやる気がない理由わけを聞く質問に、


「時間を考えろ。それでなくても、昨日寝るのが遅かったんだぞ。だから、やる気がないんだよ。もうちょっと遅かったら、やる気が出たかもな。ばっちり睡眠取れてるはずだし……」


 寝癖が付いた髪をガシガシと掻きながら、あっけらかんと言った。


「ふぇ? そうなの?」


 アイリはちょっとだけ意外そうな反応を取ったため、


「当たり前だろ。それでなくても、真犯人の事とか、王女様の事とか、今後の事とか……あー、頭が痛くなるほどの悩みが溢れ出てくる。その悩みについて色々と考えてたら、自然と寝るのが遅くなったんだから」


 昨日、寝る前に自然と頭が考えてしまったことを少しだけ誤魔化し、二人にそう説明すると、二人は「へー」と納得したような声を漏らす。

 が、すぐにアイリが手を上げる、


「はい、ユーヤお兄ちゃん質問があります!」

「なんだ?」

「王女様の事って何?」

「命が狙われないか、っていう心配だよ」

「なるほどなるほど。それなら納得だよー」


 ――少し誤魔化してるけどな。


 そう言って頷くアイリを尻目に裕也は心の中で呟く。

 本当は命の事ではなく、魅惑の事だった。アイナがこれ以上裕也に惹かれていき、セインにどんな悪影響が行くか分からないため、そのことについて悩み込んでしまったのだ。もちろん、未来のことなのでいくら考えても答えは出ず、「その場のノリに任せよう」という自己回答になったのだが……。

 しかし、アイリはそれだけでもものすごく納得したらしく、


「だったら、こんな朝早くから無理じゃない? ユナお姉ちゃん」


 と、今回の元凶であるユナにそう問いかける。

 ユナはドキッとした表情を浮かべ、おそるおそる裕也を見た。

 怒りよりも眠気の方が強い裕也は、少しでも自分の恐ろしさを見せつけるべく、冗談で睨み付けると、


「だ、だって! あれですよ! 聞き込みとかするんですよね!?」

「するけど?」

「だったら、その時間を多くとらないとダメじゃないですか! 一週間――もう六日ですか? ううん、そんなことはどうでもいいんです! とにかく私が言いたいのは――」

「『時間が少ないから、急いだ方がいい』って思ったって言いたいんだろ?」

「さすがは裕也くんです」

「だからと言って早すぎだ。せめて七時頃にしてくれよ。その時間帯なら起き慣れてるから、ここまで眠気が……ふぁあああ……酷いとは思わないし……」

「うぅー、分かりましたよー。もう一回、七時頃……いえ、八時頃に出直しましょう」


 しょぼんと落ち込み、裕也の背後にあるドアに向かって、トボトボと歩き始めるユナ。

 そんなユナを見ているアイリは「あーあー」と小さく呟き、少しだけ非難するように裕也を見つめた。口の動きや言葉に出さないまでも、「止めないとダメだよ?」と言われているような気がしてしまうほど。


 ――このどっちつかずめ。


 子供だからこその悪気のない反応に、裕也は疲れたようにため息を吐き、自分の横を通り過ぎたユナの服の襟をガシッと掴み、引き止める。


「うぐっ! な、なんですか?」

「ここまで来ておいて、何にもせずに戻るのが面倒だ。だから、ちょっとだけ練習してから戻ることにする。それでいいだろ?」

「……大丈夫なんですか?」

「大丈夫に見えるか?」

「いえ、まったく」

「だろ? これから出る欠伸やちょっとしたやる気のなさは許してくれ。それなら問題ないよな」

「無理に――」

「良いからやるぞー。ユナー」

「ッ! 頑固なんですから」

「はいはい、分かった分かった」

「『はい』と『分かった』は一回で十分ですよ!」

「はいはい、分かった分かった」

「本当に分かってるんですか!?」

「分かってるって。こういうやり取りはいいから、早く練習しようぜ」

「もう、しょうがなくですよ!」

「はいはい」


 掴んでいた襟を離すと、ユリは元居た位置へ戻っていく。

 その表情は自分のことを気遣ってくれていることが分かり、喜びに満ちた笑顔。裕也の雑な返事など気に必要性がないほどのものだった。


「さすがはユーヤお兄ちゃん! そう言うとボクは最初から思ってたよ!」


 アイリは他人行儀のように親指を立てる。


 ――遠まわしに止めるように言ったのは、アイリのくせに。


 自分は関係ないとでも言いたげな様子のアイリに呆れつつも、


「そうだろそうだろ。オレという人間を見くびるんじゃないぞ」


 と、適当にその場のノリに合わせて、裕也はそう言っておくことにした。


「はーい。今度はボクのお願いも聞いてもらおっと」

「はいはい。今度な、今度」

「なんだか雑な返し方だよー」


 「およよ」という変な泣き真似をし始めるアイリを横目で見つつ、


「漫才は止めて、練習するぞー。ほら、ユナ仕切れよー。オレには分からないんだから」


 裕也はユナにそう促す。

 そうでもしないと話が進みそうになったからだ。

 ユナは裕也とアイリのやりとりに一通りの苦笑を溢した後、裕也の指示に頷くのだった。


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