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「ちょっと王女様!?」


 予想外のお願いだったらしく、珍しく慌てた声を出すセイン。

 それもそのはずなのだ。

 人間である裕也にそんなことを頼めば、エルフという種族の恥さらしになってしまう。それにこのことを他言された場合、同胞すらまとめ上げることの出来ない王女として、他の種族が攻めてくる可能性があるからだった。

 しかし、アイナはそのことを気にしていない様子で、


「ダメですか?」


 と、真剣な表情で裕也を見つめる。


 ――まぁ、そうなるよな。


 この流れ上、なんとなくそんなことをアイナが言い出しそうなことを分かっていた裕也は、


「いいですよ。なりゆき上、そっちの方が良さそうですし……」


 仕方ないと言わんばかりの疲れた表情で、面倒くさそうに髪を掻きながら承諾した。

 そう言ってくると分かっていたアイナは、「うんうん」と嬉しそうに笑っている。

 対照的にセインは「おい!?」と言いたげに、裕也を凝視していた。


「そ、それでいいのか? 疑いは完全に晴れたんだぞ?」


 というセインの質問に、


「良いも何も犯人を見つけられるのか? セインさんたちが」


 裕也はあっさりと質問を返した。

 その質問にセインは口を閉ざし、考え始める。が、すぐに答えが見つかったらしく、


「無理だな」


 首を横に振り、心底情けないため息を漏らす。


「だからさ。温厚なエルフたちに同胞を疑い、真犯人を見つけられるとは思わない。だから、手伝う」

「しかし――」

「オレたちをハメようとした奴を許せない気持ちがあるから、一種の私怨だと思ってくれれば、それでいいよ。そうなったらどっちも都合がいいはずだし」

「そうか、すまないな。本当ならばわれらの問題だ。協力は惜しまないことを約束しよう」

「うん。それでいいよ」


 裕也とセインがお互い納得したと分かったアイナが、


「じゃあ、お二人とも手を出してください」


 と命じた。

 その意味が分からない裕也は言われるがまま、右手を差し出す。

 それはセインも同じだった。裕也が出したから、その流れで自らの右手を裕也に向かって伸ばす。

 すると、アイナはその二人の手を掴みながら、


「同盟でいいのかは分かりませんが、『そういうことでよろしくお願いします』の握手です」


 無理矢理、手を繋がせ、握手させられる。お互いがちゃんと繋がないことを考慮して、自らの両手を使い、上と下から押さえつけてまで。


「よ、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそだ」


 その言葉に従い、裕也がそう言うとセインも似たように返事を返す。

 アイナだけは満足そうに頷き、


「あっ、ちゃんと誤解は解かないといけませんね! 今すぐに全員に裕也さんたちが犯人ではなかったことを連絡しないと!」


 と、思い出したように一回手を叩き、セインを見つめる。

 セインもまたその指示に従うように頷き、急いで部屋から出ていこうと、ドアの方へ向かい始めたため、


「ちょっ、ちょっと待ってください!」


 と、裕也が慌てて引き止める。

 セインは裕也の言葉に襟を引っ張られたかのように急に止まり、裕也の方へ振り返る。

 アイナもまた不思議そうな表情で、裕也を見つめた。


「それ、まだ秘密にしてもらっていいですか?」

「えっと、それはどういう意味ですか?」


 と、アイナが裕也へ質問。


「いや、同胞の中に真犯人がいるって知った途端、全員が全員怪しくなって、この城の住人達の陰口みたいなのが始まると思うんですよね。もし、それを通達した結果、間違いの情報でオレたちが混乱して、真犯人を見つけられないってことを防ぎたいんですよ」

「言われてみれば、ありそうですね……」

「だから、それまではオレたちを犯人扱いにしている状態にしてもらいたいんですよ」

「どうしますか?」


 アイナは納得したように頷き、セインを見て、意見を求めた。


「……その提案を受け入れましょう。そちらの方が私たちにとっても都合がいいでしょうから」


 ほんの少しだけ悩んだ様子を見せたセインだったが、すぐにその提案に乗ることを決めた。


「分かりました。じゃあ、私たちと裕也さんたち――」

「あっ、ユナとアイリにも秘密でお願いします」


 アイナの結論を遮るように言った裕也の言葉に、アイナとセインは不思議そうに裕也を見る。


「いったいどういうことですか?」


 その意味が分からないらしく、アイナが裕也に尋ねた。


「アイリは子供だから口を滑らせる可能性があるのは当たり前として、ユナも同じですよ。犯人でもないのに犯罪者扱いされて、ムキになって口を滑らせる可能性が少しだけあります。それも防ぎたいんです」

「そういうことですか。裕也さんがそう言うのでしたら、そうなのでしょうね」


 アイナは困ったように笑い、またセインを見る。

 さすがのセインもこれには悩む必要がなかったらしく、即座に頷き、その提案も了承。


「じゃあ、三人だけの秘密ってことにしましょう」


 話をまとめる形でアイナがそう言うと、裕也とセインは首を縦に振りながら、「はい」とお互いが返事をして、この話は終わる。


 ―良かった、上手くいって。


 裕也は自分の提案が通ったことに、内心でホッとしていた。

 それは、ユナに秘密にすることが一番重要な問題だったからである。

 現状、アイナはほぼ裕也の魅惑能力にかかった状態。まだ確実とは言わずとも、二、三日も一緒に居れば完全に落とすことが出来るはずだった。つまり、それはエルフの街にいる理由がなくなった=アイナを狙った真犯人を見つける理由もなくなったことを意味する。

 戦争阻止が目的であるユナからすれば、真犯人探しは余興の一つみたいなもの。

 もし、効率重視で進めるのであれば、ユナはこの街から逃げ出すことを考えるはずだった。

 それでは状況は悪化したとしても良くなることはない。しかも、下手をすればアイナが王女の座から引きずり下ろされることになり、もう一度代わりに王女になった人物を落とさなければならないという二度手間になる可能性もある。

 そのことを考慮して、裕也はこの提案を出したのだ。

 そんな裕也の考えを知らないアイナは、ニコニコと満足した表情を裕也へと向けるのだった。


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