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「こういうことになりました。本来ならば、同胞であるみなさんを疑うべきではないと分かっています。ですが、タイミングなどを考慮してもおかしいと思うのは確かです。だからこそ、彼らに力を貸してあげてください。『命令』という形で言いたくないので、先に言っておきます。怪しいと思ったこと、疑問に思ったことは彼らに素直に話してください。そして、このことをこの城内で働く人たちにも連絡してください。いいですね? よろしくお願いします」


 アイナはイスから立ち上がると、この場にいる全員にそう頭を下げた。

 頼みという形で言ったものの、重役たちからすれば、この発言は『命令』に近かったのか、不満を言う者はいなかった。

 そして、そのお達しを城内にいる全員に伝えるべく、全員がこの王の間から出て行き始める。

 しかし、王女はこの場に重役たちがいなくなるまで、頭を上げることはなかった。

 そして、最後の一人が去り、この場に残されたのは裕也、ユナ、アイリ、セインになって、ようやく頭を上げる。そして、疲れたようにドサッと勢いよくイスに座り込んだ。


「王女様、お疲れ様でした」


 今度はセインが頭を下げる。


「しょうがないわ。状況が状況だから」

「そうですね」

「それにこの場にいる人たちだから言っておくけど、私もあの重役の中に密告者……いいえ、主犯格がいると思っていますから」


 アイナからそんな言葉が発されると思ってもみなかった裕也とユナは、


「マジかよッ!」

「そうなんですか!?」


 と、驚きの声を漏らしてしまう。


「そんなに驚くことじゃないでしょう? ユーヤさんたちも疑っていたのですから」


 そんな驚きに対し、アイナは意外そうな声を上げた。


「だって王女様がそんなことを言うなんて思っても――」

「みなかったですか?」


 裕也の回答に被せるようにアイナは言って、苦笑いを溢す。


「エルフの王女様だから、みんなの前では建前で言っていることもあるのです。ううん、そうしないと足並みが乱れるでしょう?」

「な、なるほど。上が乱れたら、確かに下にも影響しますしね」

「そういうことです。他の種族は分からないけれど、私は戦争回避派なのですよ? だから、裕也さんのようなエルフじゃない人をなるべく疑って、しこりを残したくないのです」

「人間であるオレがもし死んだなんて、人間の街に知れたら、戦争になりかねないってことですからね」

「はい」


 裕也とアイナが話していると、


「あ、あの……いいですか?」


 ユナはおそるおそる手を上げた。


「何ですか、ユナさん」


 ユナはにっこりと微笑み、ユナへ顔を向ける。


「なんで戦争回避したいんですか?」


 そう尋ねると、


「それは私が答えよう」


 セインがそう名乗り出る。

 まるで、そのことは自分の役目であると言わんばかりに、さっきまでいた位置から一歩を前に出て。


「お、お願いします!」


 そこまでされたため、ユナはアイナではなく、セインに向かって、慌てて頭を下げる。


「別にそこまでされる覚えはないのだが……。まぁ、良いだろう。ユナさん、私たちエルフはなんて言われているか、知っているよな?」

「はい! 温厚で魔力感知出来る範囲が広い、索敵とかに有効な種族ですよね!」

「そうだ。その性格が災いしてな、私たちは戦争に向かない種族なんだ」

「え……そうなんですか?」


 ユナはふざけた様子もなく、真面目にそう答えた。

 瞬間、全員が「え?」と間抜けな声を漏らし、ユナに一気に視線が向けられる。

 「え? え?」と全員の視線が向けられたことに、ユナは一気に動揺し、その意味について、「うーん」と悩み始めてしまう。


「ユ、ユナお姉ちゃん、本当に分からないの?」


 と、動揺を隠しきれない様子で声をかける。

 その呼びかけにユナは「あ、あはは……」と困った笑いを漏らした後、


「ごめんなさい、分からないです」


 と、セインに向かって謝罪した。

 セインもさすがにここまでの説明をしないといけないとは思っていなかったのか、自分の髪を掻き上げながら、息を吐く。


「温厚だと言っただろう? つまり、それが戦争に向かない要因なんだ」

「え、でも……兵隊ありますよね?」

「あるにはある。みんなを守るためにな。が、戦争になると別だ。戦争とは『命の奪い合い』。個人の性格によるが、殺すことに躊躇うことの人が多いんだ」

「ってことは――」


 ここまで来て、ようやくユナは察したらしく、アイナの方を見た。

 アイナはその視線の意味を肯定するように頷く。


「どう考えても戦争になった場合は、エルフは一番に落とされる確率が高いってことだな。オレが言うのもおかしいけど……」


 アイナとセイン、アイリには悪いと思いつつも裕也はそう言った。いや、そんな無慈悲なことをこの三人の口から言わせたくなかったのだ。


「そんな……」

「しょうがないさ。だから、王女様が殺されたとしても、その怨みで戦争を吹っかけることは出来ない。出来るのは出来るけど、『負ける』と分かってるから行動として動けないってことさ」

「――ッ!」

「最悪な展開だな」

「どうするんですか? もし、狙撃した犯人を捕らえたとしても、死刑とか出来ないじゃないですか!」

「死刑にしなくても、牢屋に入れとくことは出来る。違うか?」


 そう言って、セインを見つめる。

 セインは驚きと苦虫を潰したような表情を浮かべて、


「よくそこまで考えが回るな。まぁ、その通りなんだがな。もしかしたら、世界平和のための人質として使えるかもしれないが――」


 その返事を聞くようにアイナを見るも、アイナは首を横に振る。それは許さないとばかりに真剣な表情で。


「――だそうだ。やれるのは、『捕らえておく』だけということになるな。もちろん、囚人としての扱いにはなるが……」


 少しだけ残念そうな表情で答える。


「それが王女様の良い所なんだけどねー!」


 囚人の扱いに不満があるセインに対して、アイリは笑顔でそう言った。その部分を尊敬しているらしく、とても嬉しそうだった。

 が、セインもその部分は納得しているらしく、「それもそうだな」と漏らす。

 それに、「ですね」とユナも続く。

 もちろん、裕也も「そうなのかもな」と腕を組み、頷いた。


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