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(7)

「これで許してもらえますか?」


 そうアイナが裕也へと尋ねるが、「あっ!」と声を漏らし、


「すみません。私もですね。いえ、疑っていたというわけではありませんが、こんなにも簡単に他人を疑ってしまうような状況にした私自身にも非があります。ごめんなさい」


 座っていたイスから立ち上がり、深々と頭を下げる。

 その様子を見た裕也とユナ、この場にいる全員が一斉にセインへと視線を向けた。それは、今までのことで簡単に頭を下げることを嫌っていたからだ。

 しかし、今回セインはなにも言わなかった。いや、状況が状況だけにアイナの謝罪が必要だと分かっていたのだろう。

 さすがの裕也もここまでされてしまっては怒ることも出来ず、


「分かった。これでこの件は治める。だから、もう王女様もこの件に関しては謝らないでほしい」


 まだ心の中で静かに燃えていた怒りを無理矢理宥めることにした。

 が、これは自分一人の意見であるため、一緒に疑われたユナとアイリを見る。 

 ユナはコクッと頷き、アイリに至ってはまだユナの身体に顔を埋めているため、どう思っているか分からなかった。が、首を横に振ることはなかったので、同意したとして話を進めることにした。


「それはそれで、次の問題はオレたちの身の潔白を証明出来るものが必要になって来るのか……」

「そうなりますね。種族が違うという理由で疑うのは申し訳ないのですが、この状況ではそれがないと納得出来ませんから」

「分かってる。けどなー……」


 アイナの言葉を聞きながら、裕也は腕を組み、「うーん」と唸った。

 一応、考えるフリをしているだけである。

 なぜなら、いくら考えても身の潔白を証明出来るようなものが何一つないからだ。


「ほ、ほら見ろ! 言った通りじゃないか!」


 裕也の考える様子を見て、アベルはさっきまでの仕返しを含めて、指を差す。


「あん?」


 その言葉にイラッとした裕也がアベルを睨み付けるとほぼ同時に、


「アベル殿、少し静かにしていただきたい。今話しているのは、王女様だ」


 と、セインがアベルを睨み付けて、強制的に黙らせた。そして、口を開いたついでに、


「しかし、タイミングが悪いのは確かだ。今まで王女様が狙われることはなかった。つまり、これが初めての暗殺。だから、お前たちが疑われることも当たり前だと思ってほしい」


 今まで暗殺がなかったことを知らせる。


 ――んー、なんかタイミングとかの問題じゃないような気がしてきたな……。


 その報告を聞いた裕也は、なんとなくそう思ってしまった。いや、思わされてしまう。

 意図的なものではないと、こんな絶妙なタイミングで暗殺をしようなどと上手く出来るはずがないからだ。


 ――つまりは、この中に犯人がいる……ってことか?


 裕也は周囲を簡単に見回す。

 この場にいる全員が裕也へと注目していた。その視線は先ほどまでの敵意はなく、どちらかというと警戒に近いもの。そして変な言い訳をすれば、すぐに捕まえてやる、という意思が身体から溢れ出ていた。


「それでどうですか? 証明出来るものはありますか?」


 アイナとしても急かすつもりはないのだろうが、周囲の空気を敏感に感じ取っているらしく、申し訳なさそうに裕也へ尋ねた。


「いや、ない。そもそも、そんなタイミングで狙われた以上、オレたちに打つ手がないからさ。何をどう言い訳しても、それを崩すことが出来ない」


 裕也はがっくりと項垂れながら、素直に自分の考えを口にした。

 逆にそれが通じることを願って。

 なぜなら、自分の魅惑能力が上手く働いてくれるならば、ある程度の逃げ道が作れると思ったからだ。

 疑われることを観念したことにより、周囲の視線が敵意のものから同情のあるものへと変わっていくのを裕也は感じることが出来た。そして、そのタイミングで、


「だから、猶予が欲しいんだ。真犯人を捕まえる猶予を」


 キッと決意ある目でアイナを見つめる。

 裕也の悲哀に満ちた目から、いきなり決意ある目に変わったことにより、アイナはドキッとした様子で目が一瞬泳ぐ。


 ――よしっ、上手くいった!


 その泳いだ瞬間を見逃さなかった裕也は心の中でガッツポーズを作った。が、そんな様子を見せることなく、


「それで捕まえることが出来なかったら、オレは死刑でもなんでもいいよ。猶予を貰って、何も出来なかったら、オレが悪いんだしさ」


 今度は自嘲を含めた笑いを溢す。

 さすがに疑われている張本人がそこまで言うと思っていなかったのか、この場にいる全員がざわざわと騒ぎ始める。

 その中にはユナとアイリも含まっていた。

 二人して、「裕也くん!?」と「ユーヤお兄ちゃん!?」と驚いた顔をして、裕也の名を呼ぶ。

 しかし、それ以上、口出しをさせたいために、自分の手の平を二人の元へ向けて出す裕也。


「まだ決まったわけじゃないけど、猶予を貰うんだ。その間に王女様が狙われないとは限らない。その危険を分かってて、頼んでるんだ。これぐらいじゃないとみんな、納得しないだろ?」


 裕也は周囲を見回した。

 完全に納得している者、しぶしぶ納得している者、反応はさまざまだが条件が条件だけに異論はあまりなさそうだった。

 一人を除いて。

 その一人はもちろんアベルである。


「そんなことを言って逃げるのじゃろう!」


 アベルでなくとも誰かがそんなことを言うだろう、と予測していた裕也は、


「逃げないさ。その間、オレたちは城から一歩も出ない予定だし」


 そう答えた。

 裕也からそんな回答が出てくると思っていたらしく、アベルだけでなく全員がまたびっくりした表情を浮かべる。


「外に出ないでも真犯人を捕まえることが出来るのですか?」


 と、代表してアイナ。


「狙撃した人物は捕まえることは出来ないけど、その裏の人物なら捕まえることが出来ると思う」

「どういうことですか?」

「いや、簡単な話だよ。この中に狙撃した人に、今日オレたちがここに掴まったことを密告した人がいるってだけだから」

「み、密告した……人……?」


 裕也の説明にアイナは驚き、その言葉を信じられない様に繰り返した。

 繰り返された言葉に裕也はためらうことなく、「うん」と頷いた。


「そ、そんな……」


 即答された返事に対し、アイナは悲しそうな表情を浮かべながら、この場に残された人たちを見た。

 瞬間、また部屋の中がざわざわと騒がしくなってしまう。


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