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(6)

 そんな三人の元に近付く一人の重役がいた。

 その重役だけは裕也たちに感謝の視線を送るものではなく、逆に敵意を剥き出しにしたまま状態で、


「これはお前らがやったのではないのか?」


 と、とんでもないことを口に出す。


「は?」

「え?」


 裕也とユナはその言葉の意味が一瞬、理解出来ず、間抜けな返事を返してしまう。

 それは周囲の重役たちも同じだったようで、「へ?」と間抜けな顔をしていた。しかし、その言葉の意味を理解したのだろう、その重役と同じように今まで同じように敵意の視線が放たれ始める。そして、近くにいる重役たちとコソコソと何か話し始めた。


「何言ってるのさ! ユーヤお兄ちゃんは王女様を助けたんだよ!? なのに、その逆に狙うってどういうこと!!」


 アイリはその発言と周囲の重役の陰口に苛立ちを隠さずに、そう大声を上げて反論した。

 しかし、その言葉が来ると予想していたらしく、


「アイリ、お前が手伝ったという可能性だってあるのではないか?」


 その重役はさらに酷い言葉をアイリへ問いかける。

 さすがのアイリもそこまで言われるとは思っていなかったのか、


「そ、そんな……なんでボクが、そんなことを……ッ!」


 青ざめ、そして今にでも泣き出しそうな震え声でそう反論した。


「アイリよ、お前はいつも金に困り、物を盗むことばかりしておる。だから、金で王女様の命を売った、とも考えられるのじゃよ」

「なっ!? そ、そんなことをするわけないじゃん! 王女様の命を売るなんてこと、絶対にするわけがない!」

「日ごろの行いが悪いせいじゃ。もし、日頃の行いが良ければ、こんなことを言われんでも済んだじ――」


 その重役は最後まで言い終わることなく、顔面に右ストレートを食らい、少し後ろの床に尻餅を付いて倒れ込んだ。


「お前は何を言ってんだよ!」


 右手を振り下ろしていた状態で、裕也は大声で怒鳴りつけた。


「貴様ッ! な、ほ、本当――」

「本当じゃねぇよ!」


 また最後まで良い終わる前に、今度は髪の毛を無理矢理引っ張る。そして、無理矢理頭を床に額をくっつけるようにさせ、


「オレたちが狙撃した犯人とグルって話は、今しなくていい。けど、先に謝れ! アイリを傷付けたことを謝れ!」

「な、なんじゃと!?」

「確かに盗むのは犯罪だ。けど、王女の命を救った一人であるアイリに、お礼を言わずに犯罪扱いしてんじゃねぇよ! 信用がないのも分かるけど、今はそういうことじゃない! お礼も言わずに開口一番で傷付けてんじゃねぇ!」

「うるさい! お前らの言うことなんぞ――」

「じゃあ、実力行使してやるよ!」


 アイリを傷付け、泣かせたこの重役に対しての怒りで頭がいっぱいになっていた裕也は、髪から手を離して、服の襟を掴む。そして、床から頭を引き離すと、浮き上がった頭を床へ全力で叩きつけようとしていると――。

 それは横から入ってきた鎧に包まれた手によって、阻止されてしまう。

 裕也は睨み付けるようにして、その手の人物――セインを見た。

 その視線に気が付いたセインは、


「やめろ。自分の立場を悪くするだけだ」


 と、冷静な声で裕也に怒りを抑えるように声をかけた。

 しかし、怒りに満ちている裕也にとって、その言葉は重役を守る言葉にしか聞こえず、


「なんだよ、あんたもこいつの味方なのかよ!!」


 大声で怒鳴りつける。

 が、セインの方は首を横に振り、


「違う、そういうことではない。王女様の指示だ。とにかく話を聞け。私が言う言葉より、今までの言動から信頼出来るだろう?」


 顔を王女の方へ向ける。

 その言葉に裕也はしぶしぶとその重役から手を遠ざけた。セインの言葉はともかく、アイナの自分たちへの親しみある今までの言葉は信用出来ると感じたからだ。

 だが、すぐにアイナの方へ顔を向けることはなかった。

 まずは傷付いたアイリの方が心配になってしまったからである。

 しかし、アイリの表情を見ることは出来ず、泣いているのかどうかも判断することは出来なかった。

 それはユナが、アイリを自分の方へ身体ごと向かせて、片腕で耳を塞ぐようにして抱き締めていたからである。

 けれど、裕也には泣いているだろう、と思う確信だけはあった。それは、抱き締められているアイリの肩が震えていたからだ。


「アイリ、大丈夫か?」


 裕也は素早く近付き、アイリの頭を撫で始める。ユナがアイリを抱きしめている今、裕也に出来ることはこれぐらいしかなかったからである。


「うん、大丈夫だよ。ボクは大丈夫」


 きつく抱きしめられているせいか、こもった声でアイリは答えた。が、その言葉も裕也に対する答えではなく、自分を励ますかのような言い方。


 ――くそっ!


 セインに実力行使を止められた現在、裕也に出来たのはその重役を睨み付けることだけだった。

 そのもどかしさに拳をギュッと握りしめていると、


「アベル、謝りなさい。いえ、疑った者、全員謝罪しなさい」


 今までに聞いたことがない冷たい声で、アイナがそう言った。 

 それは今まで裕也たちにかけていたツッコミがしやすい言葉ではなく、もはや命令だった。

 アベルと呼ばれた重役はその命令に納得がいかない様子で、


「なぜですか!? よそ者を疑わずに誰を疑うのですか!?」


 と、身体は怯えながらも口では負けないような声で不満を露わにした。


「それはまた違うでしょう! いえ、疑うのは仕方がないことです。ただ、ユーヤさんが言ったように順番が違います。だから、疑った者は全員謝罪しなさい!!」


 瞬間、アイナから怒りが含まった威圧が放たれる。

 裕也には感じることが出来なかったが、その威圧は魔力の爆発。王女が持つ膨大な魔力を練り、逆らった者を攻撃する準備をしたのだ。

 それを感じることが出来た裕也を含む全員がそれに怯えたのは言うまでもない。


「す、すまなかった。王女の命を救ってくれた恩人たちよ。無礼な態度を許してもらいたい」


 さすがのアベルもそこまでして逆らうつもりはなかったらしく、素直に謝罪した。

 それにつられるように、


「すまない」

「ごめんなさい」

「申し訳なかった」


 全員の謝罪が口々にかけられる。この場にいる全員によって。


「すまなかった。私も疑っていた。命令ではあったが、先にお礼を言うつもりであったことは言わせていただく。本当にすまなかった」


 その中にセインも含まっており、全員の謝罪が終わった後に最期の締めとして、謝罪したのだった。


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