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(5)

 ――なんだ、これ?


 今まで感じたことがない悪寒に裕也は思わず辺りを見回し始める。しかし、異変はない。が、その悪寒はずっと続いままの状態。

 そんな周囲を見回し始めた裕也の様子を見ていたアイナが、


「どうかしましたか?」


 と、不思議そうに尋ねてくる。

 しかし、その感じている悪寒に対する的確な表現が出来ない裕也は、「いえ……、あの……」としか答えられなかった。

 その時、アイリが一人の兵士に向かって駆け出す。

 いきなりのそのダッシュに誰もが呆気に取られているうちに、


「ごめんね! 蹴るよ!」


 大声で叫んだ謝罪の言葉が放たれる。

 謝罪の言葉が言う前に跳び蹴りの体勢になっていたアイリは、その兵士の腹部に蹴りが撃ち込まれ、持っていたランスと盾が地面に盛大な音を立てて落ちる。

 いきなりの行動に全員が固まっている間に、


「ユーヤお兄ちゃん! アイナ!」


 そう言って、裕也と王女であるアイナを呼び捨てにしながら指差す。

 即座にその言葉の意味を理解した裕也はアイリへと飛びつくように近付くと、落ちている盾を拾い、アイナの元へ近付こうと走る。しかし、盾の重さが重さのためか、本来よりスピードは落ちてしまっていた。

 そのことを瞬時に判断したアイリは、


「アイナ、頭を下げて!」


 と、次の指示を出す。

 アイリのその指示にアイナは疑うことなく、座っていたイスの上で丸まるようにして、頭を手で庇う。

 すでに意識を取り戻していた重役、兵士、セインたちは裕也とアイリの行動に対して、


「反逆じゃ! そやつらを止めろ!」

「王女様を守れ!」

「王女様に近付かせるな!」


 口々に叫び始める。

 その言葉に従うように、兵士たちがアイナに近付く裕也に襲いかかろうと駆け寄ってきていた。

 目の前には警備兵であるセインも立ち塞がり、


「王女様は殺らせん!」


 とランスを構えて、裕也を突こうと腕を引いていた。


「邪魔するな! オレは――」

「裕也くんの邪魔をさせさせるわけにはいかないんですよ!」

「セイン、邪魔!」


 裕也の言葉を途中で遮り、ユナとアイリの言葉が裕也へ迫ろうとしているセインと兵士たちへぶつける。

 その言葉の通り、裕也の前方を除く周囲がいきなりパァン! と空気が弾ける。攻撃しようとランスと構えていた兵士はあっけなく吹き飛ばされ、偶然にも盾を構えていた兵士も大きく後退してしまう。

 そして、前方に居たセインに対しては横からセインのがら空きの腹部に向かって蹴りを撃ち込む。

 しかし、警護兵としてアイナの側にいるだけあってか、即座にそれに反応し、持っていたランスを手放し、腕でその蹴りをガードした。しかし、持っていたランスを離してしまったことにより、裕也への攻撃は失敗することとなる。


「今だよ! って、間に合わないから投げて! 窓の方!」


 アイリのその言葉を頼りに裕也は持っていた盾を横ではなく、盾に回転するようにして投げつける。

 投げる瞬間、『ACF』が発動したらしく、裕也の思っていた以上のスピードで窓へ到達。

 それと同時に窓がパリーン! と割れ、パキィン! と何かを弾く音が周囲に響き渡り、ドゴッ! と鈍い音を立てて、壁に突き刺さる。

 そして訪れる無言。

 裕也とアイリを除く全員が、何が起きたのか分からず、盾とアイナを交互に見つめていた。


「ふぅ、なんとか間に合った」


 そんな場の緊張をほぐすように、アイリが裕也に向かって、ピースを送る。

 裕也もそれに応えるように、ピースを送り返す。


「ッ! 兵士たちよ、今の攻撃を放った不届き者を捜し出せ!」


 一番にセインがそう兵士たちに命じると、


「「はっ!」」


 と、兵士たちはそれに答え、入口の方へガチャガチャと慌ただしい鎧が擦れる音を立てながら駆け出す。

 しかし、セインはその様子を見ることなく、アイナの元へと駆け寄り、


「大丈夫ですか、王女様!」


 未だに身体を丸めている王女の手を掴む。もう危険が終わったことを知らせるかのように、優しく、その手をアイナの頭から離していく。


「せ、セイン?」


 王女はその声に反応し、ゆっくりと顔を上げていく。その顔は恐怖のせいか、涙が目から零れ落ちていた。


「はい、そうです」

「……もう大丈夫なのですか?」

「はい。たぶんですが、大丈夫でしょう」

「その根拠は?」

「それは――」


 アイナへの説明を盗み聞きしようとしていると、ユナとアイリが裕也の元へやって来て、


「ユーヤお兄ちゃん、お疲れ様! そして、王女様を助けてくれてありがとう!」


 この場にいるエルフたちを代表するかのようにアイリが頭を下げた。


「本当にお疲れ様です。いきなり大活躍ですね!」


 『王女を守った』という偉業を裕也がいきなり成し遂げたことが嬉しいらしく、にこにこと笑みを溢している。

 が、実際裕也はそんなことはどうでも良かった。今、裕也が一番聞きたいことは何が起きたのか、ということだったからだ。

 その質問が表情に出ていたのか、


「暗殺だよ」


 と、アイリが簡潔に答えた。


「暗殺?」

「うん、王女様を狙撃しようとしたんだろうね。ボクたちが感知出来る範囲外から」

「マジかよ。いや、狙われるだけの理由はあるか」

「そうだね。それより、よくユーヤお兄ちゃんは感知出来たねー」

「え、ああ……なんか、ゾクッとした寒気が背筋に走ったから……。って、それを言うなら、アイリもだろ? エルフの感知範囲外から狙撃しようとしたんだろ?」

「ふぇ? ああ、うん。ボクはエルフの中でも感知範囲が広いみたいなの。あ、これはシッね? バレたら面倒だから」


 アイリは口元に指を置いて、裕也とユナへ秘密にすることを望んだ。


 ――ま、当たり前だよな。


 アイリが秘密にする理由がなんとなく分かったような気がした。

 狙撃さえも反応出来る広範囲感知能力は便利であり、アイナの身を守るには持ってこいの能力。それをセインたちが見逃すはずもなく、バレてしまえば、兵士になるように言われる。そのことをアイリ自身が分かっているため、秘密にして欲しいということが。

 裕也も子供であるアイリを兵士にしたいわけではないため、


「分かった。もし、何か言われたら、上手く誤魔化すことにしよう」


 と頷き、ユナの方を見た。

 ユナを見たのは、ユナにもそのことを確認するためである。

 しかし、ユナは森で見たような難しそうな表情をして、アイリをジィーっと見つめていた。


「ユナ? どうした?」

「あ、いえ……アイリちゃん、すごいなーって思って感心してました」

「聞こえてたのは聞こえてたのか。アイリの能力のことは秘密だぞ?」

「はい」


 ユナの難しそうな表情は変わらないままだったが、自分の質問にはちゃんと答えてくれたため、ひとまず裕也は安心することが出来た。


 ――全然、そのことで悩んでないってバレバレの反応しやがって……。


 ユナの表情からすぐに分かった裕也だったが、あえてそれは無視し、


「――というわけだ。アイリ、安心してくれ」


 そうアイリに言うと、


「うん、ありがとう」


 ユナの視線に戸惑いつつも、アイリはそう答えた。


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