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(3)

 三人は兵士によって、王の間に連れて来られた三人は王女を正面にするように立たされていた。その横には兵士や重役のような人物が立っており、裕也とユナを品定めするかのように見つめ、敵意をむき出しにしていた。

 その敵意むき出しの視線に、裕也は少し気分が悪くなりそうだった。


 ――分かっていたことだけど辛いな……。


 裕也は吐きそうになった気持ちを必死に押さえながら、ここまで酷いと思っていなかったことを後悔した。そして、同時にアイリの存在がどれだけ自分たちにとってありがたいものなのかを痛感するのだった。


「エルフの街へようこそ。先ほどはいきなり牢屋に入れるという不躾な行為をして申し訳ありません。エルフの王女である私――アイナが謝罪いたします」


 アイナは座っていたイスから立ち上がり、頭を下げようとすると、


「王女様! 王女様であるあなたがそう簡単に頭を下げてはしてはなりませぬ!」


 と、アイナに一番近い場所に立っていた槍と盾を持った護衛兵によって、制止の言葉がかけられる。

 そのせいでアイナが下げようとしていた頭は中途半端な所で止まり、再び頭を上げるはめになってしまう。


「ですが、『謝罪』というものは頭を下げるものですよ? 一番上の者が頭を下げなければ、誰が頭を下げるのですか?」


 ごく当たり前の質問に対し、


「それは分かっております。ですが、王女様が頭を下げる必要はないということです。そう簡単に頭を下げては、他の種族にバカにされてしまいます!」


 不満を隠すことなく、そうアイナへ進言する。


「別にいいじゃありませんか。私の方はそんなことは特に気にしません。良いことは良い、悪いことは悪い、ただそれだけははっきりしたいだけです。だからこそ、謝罪するのでしょう?」

「そうですが……ッ! 分かりました!」

「何がですか?」

「人間たちよ、今回のいきなりの部下たちの非礼すまなかった。王女様に変わり、自分がお詫びする。これで許してもらえないだろうか?」


 あくまでアイナが謝罪することだけは許せないらしく、護衛兵が頭を下げる。

 同時にこの人がこの城の兵隊の中で一番偉い人なんだ、と裕也は気付くことが出来た。そうでなければ、『部下たち』やアイナに進言が出来るはずがないからだ。


「まったくセインも強情なのですから」


 アイナは右頬に手を置きながら、「あらあら」と困ったように息を吐く。そして、裕也とユナを見つめた。

 それはセインの謝罪の件に関する回答を求めていることだと気付いた二人は、


「裕也くん、どうします?」

「どうしますって……。許す、許さないの問題じゃないだろう? 状況が状況なだけに当たり前の行動をとったとオレは思ってるし……」

「で、ですよね!」

「ん? どういうことだ?」

「いえ、なんでもありません! 大丈夫ですよ、気にしないでください。私たち、気にしていませんから!」

「ちょっ、おい! 何を勝手に――」


 ユナの言葉の端に感じた違和感を追求しようと思ったのだが、それすらも叶わず、ユナが勝手にそうアイナへと申告。

 その回答が分かっていたアイナはにっこりと微笑み、セインに至ってはホッとしたような表情を浮かべていた。


「それでじゃ、人間たちよ。そちらはこのエルフの街へ何をしにやってきたのじゃ?」


 場の空気が少し穏やかになりつつあったところで、横に並んでいる重役の一人が一歩前に出て、裕也たちへ問いかけた。

 そして、穏やかになりつつあった空気は一瞬にして、再び凍りついたものへと変わってしまう。

 その質問に裕也はユナの方を見つめた。

 それはバカ正直に「王女を虜にするために来ました」と言うわけにはいかず、他に思いつく説明が分からなかったからだ。


 ――観光って言葉で納得するような状況でもないしな……。


 だからこそ、ユナにその質問の回答を託すことにしたのだ。

 ユナもそのことが分かっていたらしく、裕也の方を見ることもなく、


「観光です」


 と、あっさりと答えた。


 ――……マジかよ。


 裕也の視線は一瞬にして冷めたものへ変わる。

 いくらユナでも、この状況でその回答はふさわしくないと分かっていると思った裕也の期待をあっさりと裏切ったからだ。

 そして、その重役の方を見つめる。

 思いっきり納得してない様子で、ユナを睨み付けていた。そして、その文句を言おうと口を開く前に、


「そうでしたか!」


 パン! とアイナが胸の前で手を叩き、


「観光のために来てくださったのに、このような無礼を働いてしまって申し訳ありません」


 そう納得していた。


 ――そ、それでいいのかよ!?


 さすがのアイナでさえ、絶対に納得していないだろうと高を括っていた裕也は、その場でガクンと肩を落としてしまうほど驚いてしまう。

 セインと呼ばれた警備兵は「情けない」とでも言うような深いため息を溢しながら、面倒くさいという気持ちを隠さずに再び申告し始める。


「ウソという可能性を考えてください、王女様」

「あ、それもそうですね。それで……名前は分かりませんが、ウソなのですか?」


 そうユナに尋ねると、


「ユナと言います、王女様。お見知りおきを。それと観光はウソではありません」


 自分の名とその言葉の真偽を迷うことなく答える。


「ですって! よかったわね、セイン!」


 王女はその言葉が本当であると知って、少しだけはしゃいだ様子でセインを見つめた。

 セインはそんな王女の反応に目を見開き、口も開いた状態で見つめた後、またもやため息を吐いた。そして、


「そうか。ならば良い」


 と、もう何もかも諦めた様子で流した。

 いや、そうでもしないとやっていられないとでも言いたげな雰囲気で。

 その様子を見ていた裕也は、セインに対して思わず同情してしまっていた。というより、なんとなく立場が似ているような気がしたからだ。

 が、セインはこう言葉を付け加えた。


「もし、観光をしている際に変なことをやれば、その時は容赦しないということを覚えておいていただきたい」


 それが最終警告とでも言わんばかりの様子で。


 ――まぁ、当たり前だよな。


 王女がいるこの場での追及はもう無理だ、と判断したからこその言葉だと受け取った裕也は「うんうん」と頷くことしか出来なかった。というより、同情してしまっているせいで、それが当たり前の言葉だと思ったからだ。

 そんな勝手な同情をしている裕也とユナをセインは鋭く睨み付け、警戒している様子は一向に変わることはなかった。


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