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(5)

「じゃあ、忘れ物も渡してもらったことだし、オレたちは行かせてもらうな」


 裕也はそう言って、この場から逃げようと試みる。

 それは、さっきからずっと胸騒ぎが最大まで高まったせいだった。これ以上、関わっているとロクでもないことが起こるという直感。それを言い出しそう人物の間を通り抜けるのはマズいという判断もあり、裕也はあえてレオナとセインの間を通り抜けて、裏門へ向かい始める。

 しかし、それはレオナとセインが裕也の腕を掴むことで阻まれてしまう。


「え?」


 まさか、二人に阻まれるとは思っていなかった裕也は、驚きの声を自然に出してしまう。

 裕也が二人の顔を確認すると、二人とも申し訳なさそうな表情をしており、


「まだ、忘れ物があるそうですよ、ユーヤさん」


 と、レオナに言われてしまう。


「わ、忘れ物?」


 まったく心当たりがない裕也は引き攣った声で、その言葉を自分の口で答える。


「はい、忘れ物です」

「いや、そんなものないでしょ? 貸してもらってたトリスは返そうとしたけど、貰いましたし。他に返そうとしたものなんてないですよね? あ、もしかしてユナが何か忘れ物でもしたのか?」


 裕也は二人から逃げるように、バック。そして、先ほどまで居た位置に戻り、ユナを見る。

 このタイミングで自分に振られると思っていなかったらしいユナは、


「え!? わ、忘れ物なんてしてませんよッ! そもそも、私はちゃんと自分の空間に片付けてますッ! 忘れ物するなんて、裕也くん以外ないですッ!!」


 絶対に自分は忘れ物をしていないというアピールを高い声でアピールし始める。

 予想外な声の高さに裕也は思わず耳を押さえてしまう。が、驚きからこのような高い声になることはなんとなく分かっていたため、怒ることはなく、


「だよなッ! 忘れ物なんてしてないよなッ! もう王女様も酷いなー。そんな冗談を言うなんて!」


 と、そのことが冗談であることを強調して、そのことを流そうと試みた。

 しかし、レオナは非情にもそれが冗談ではないことを伝えるために首を横に振る。


「そういうわけでアイリから話があるそうですよ。ね、アイリ」


 そう言って、アイリにその話を振った。

 レオナからその話をするように言われたアイリは、過去最高の笑顔を見せていた。もちろん、裕也からすれば悪魔の笑顔であることは間違いない。

 そんなアイリがゆっくりと口を開く。


「ねーねー、ユーヤお兄ちゃん。ボクとのある約束したの覚えてる? アベルの部屋での約束」


 開口一番の言葉は、過去に約束した質問のことだった。


「約束?」

「うん、覚えてない?」

「……ちょっと待ってくれ。思い出す」

「いいよ。ちゃんと思い出してね」


 裕也の言葉にアイリはにっこりと同意を示す。

 が、残念ながら裕也はそのことをしっかりと覚えていた。


 ――アベルの部屋ってことは、あのタイミングの時のしかないんだよな……。


 そのタイミングとは、アベルが隠していた日記の時のことである。暗号化されていた日記を読むために、アイリがアベルの魔法に無理矢理干渉させ、無理をさせてしまった時のこと。あの時以外、裕也はアイリと約束した覚えがなかった。その時にした約束が、『今度、お願いを聞いてね』という約束。


 ――このタイミングで来るかよ、普通ッ!?


 あの時は無理をさせてしまったため、その約束をすることに躊躇いなどなかったが、今はタイミング的に最悪な状況であることは間違いなかった。なぜなら、そのお願いは絶対に断れないからである。そして、そのお願いが間違いなく最悪なお願いであることは確定されたようなものだったからだ。

 そんな裕也の表情から思い出したことを読み取ったらしいアイリは、


「ユーヤお兄ちゃんもユナお姉ちゃんもその時のことを思い出したみたいだねッ!」


 と、嬉しそうに言った。

 裕也はそのことを確認するために振り返ると、アイリの言う通り、ユナも口元を押さえて、その時のことを思い出したような反応をとっていた。


「というわけでボクのお願いを言うねッ!」

「ちょっ――」

「うん、待たないよッ! ボクも一緒に連れて行って!」

「なッ!」

「お願いなんだから、これは守らないとダメだよねーッ! えへへ!」


 裕也の制止の言葉を待とうとせず、アイリはこればかりは譲れないとばかりに早口でそう言って、裕也を追い詰め始める。


「ま、待て待て! 制止をかけてる場合じゃないだろッ! そんなクソ重要なことをあっさりと受けれてたまるか!」


 が、裕也も負けずにそう言って、そのお願いを答えられないことを伝える。そして、助けを求めるようにレオナとセインを見た。

 裕也が二人を見た瞬間、即座に二人は裕也から顔を逸らす。


 ――これもすでに話し合い済みかよッ!


 二人の反応を見た瞬間、裕也はそのことを即座に理解する。

 いや、こんな反応をとられてしまえば、誰でも分かってしまうことは必然だった。

 つまり、それはユナもそのことを分かってしまい、


「あ、あの……二人ともいいんですか?」


 と、思わず尋ねてしまう。

 ユナの質問に対し、


「まぁ、色々とありまして……。そのことを了承しないといけなくなったと言ってしまった方がいいかもしれませんね……」


 レオナは非常に申し訳なさそうに言った。


「予知能力でも出てたしな。抵抗はしたが……。うん、すまない」


 セインに至ってはそのことが最初から分かっていたにも関わらず、抵抗してみたもののダメだったことを教えてくれた。

 二人も抵抗したことを知った裕也はこれ以上、助けを求めることは出来ず、むしろ簡単に頭を下げて、お礼を述べることが精一杯だった。


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