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「じゃあ、オレたちがここに来てる理由もちゃんと分かってるんですよね?」


 セインが予知能力を持っている以上、ここにいる理由を知ってこそだと思った裕也は、わざとらしくそのことをアイリ、レオナ、セインに尋ねた。


「はい、旅立つつもりなんですよね?」


 その質問に一番に口を開いたのはレオナだった。

 裕也は思ったように、レオナからは寂しげなオーラが身体から溢れ出ていた。


「はい。というより、目的がありますから」

「知ってます。だから、止めように止める言葉が見つかりません。せめて、もう一度お礼を言わせてください」

「お礼を言われる筋合いはないんですけどね……。どっちかって言うと、先生を助けることが出来ずに殺してしまった『殺人犯』ですから」

「……」


 裕也が少しだけ自虐心を込めて言うと、レオナはちょっと困ったような表情になりながらも、それを否定するように首を横に振る。


「今さらながらに私、思うことがあるんです」

「思うこと?」

「ミゼル先生は最終的にあの薬に自我を飲み込まれたじゃないですか。それで魔法は使わなかったんですよね?」

「その通りですけど……」

「もしかしたら、それ自体が……ミゼル先生が鬼を制御もしくは鬼に乗っ取られたフリをしていたのじゃないかって」

「……え? なんで?」

「まぁ、それは……ちょっとした理由からなんですが……」


 その理由が分かるように、レオナはユナとアイリを交互に見つめる。

 その目配せから、全員がその意味に気付く。


「だから、そういう理由を考えるとミゼル先生は裕也に殺されたかったのかもしれないなって……」

「そんな、まさか……」

「私だったら、あんな異形な姿になってしまったら、やはりユーヤくんに殺されたいって思いますから。『逃げたい』なんて言ってたのは、そう言ったらユーヤくんたちが立ち塞がることは確定です。つまり、それは布石。本音は『止めて欲しい』『その手で殺してほしい』って考えたのじゃないかなって……。あくまで例えばの話ですどね」


 なんて言いながら、レオナは自分が言った言葉に困ったような笑いを溢した。

 裕也をフォローしようと思ったが、あくまで可能性の話のため、何のフォローも出来ていないことにちょっとショックを受けているように感じる裕也。


「もしかしたら、そうかもしれないね。今さらだけど、なんとなくそんな感じがしないでもないし……。それに、ボクがもしあんな風に人を殺して、人の道を外して死にたいって考えたら、迷わずにそれをユーヤお兄ちゃんに頼みそうだし」


 そんなレオナの言葉に賛同し、アイリまでもがそんなことを言い始める。

 アイリがそんなことを言ってしまったためか、


「私も王女様やアイリちゃんの言う通り、裕也くんに頼むでしょうね。先生がそんな風に考えていたかどうかは分かりませんが、そういう状況になってしまった場合は間違いなく……」


 ユナまでもがそんなことを言いながら、裕也の服の一部を掴み、クイッと引っ張る。

 まるでそんな日がいつか来るような雰囲気を裕也は思わず感じてしまうほど、その言葉には重みがあり、


「縁起でもないことを言うなって。今回は……今回はこうすることしか出来なかったけど、今度はちゃんと助けてみせるからさ」


 と、ユナの発言に引っ張られるように裕也は自然とそんな言葉が口から出てしまった。


「で、ですよねッ! 私も先生と同じ気持ちになるかもしれないってことにしといてくださいッ!」


 ユナはハッとした様子で、さっきの言葉が冗談であったことのように逃れる。

 が、この場にいる全員がユナの本音であることに気が付いていた。しかし、その発言を本人が逃げたため、追究することは敵わず、


「それよりもユーヤお兄ちゃん、忘れ物があるよ」


 アイリがポケットからトリスを取り出す。


「え? 忘れ物じゃないだろ、それ」


 アイリが取り出したトリスは本来借り物であり、エルフの街では国宝の武器。そんなものを勝手に持ち出すわけにはいかないため、裕也が部屋にワザと残してきたものであった。だからこそ、忘れ物では断じてないはずなのだ。


「そんなの知ってるよ」

「だったら――」

「これはユーヤお兄ちゃんにあげるって言ってるの」

「……は?」


 その発言に裕也とユナの時間がほんの一瞬止まってしまう。それだけアイリの発言は驚くべきものであったからだ。

 しかし、すぐに時間の経過を取り戻した裕也は、


「聞き間違いだよな。うん、もう一回言ってもらえるか?」


 そして、改めてその発言を求めた。


「うん、これあげるね」


 そんな裕也の聞き間違いをあっさりと打ち砕き、さらには国宝を『これ』と言って、無理矢理裕也へと差し出す。

 口調からそれが本気であることを悟った同時に、思考が混乱した裕也は差し出されたトリスはあっさりと受け取ってしまう。


「ゆ、裕也くんッ!?」


 裕也があっさりとそれを受け取るとは思ってもいなかったユナが呼ぶと、裕也の思考は回復。そして、自分が受け取ったトリスを返却しようとするも、アイリからは『絶対に返さないでね』と言いたげな殺気にも似たオーラのせいで、返却することが出来なくなってしまう。

 だからこそ、この件についてレオナに顔を向ける。『これで本当に良いのか?』と尋ねるために。


「まぁ、本当の王女様が決めたことですし……」


 すると、レオナはこの件に関して、関与出来ないと言わんばかりに突き話されてしまう

 今度はこの中で一番力がありそうなセインを見るも、


「諦めろ。この話に関してはもう十分に話し合った結果の結論だ」


 レオナと同じように突き放される。いや、言葉通り、この件に話し合ったことが分かるような諦めのため息を大きく一つ溢した。


「わ、分かった。素直に貰うよ。あ、ありがとう」


 そんな二人の反応から、どうしようも出来ないことを理解した裕也は素直にトリスを自分のポケットにしまう。

 ユナはそんな様子を見ながら、裕也をジト目で見ていたが、最終的には折れて、セインと同じように盛大なため息を一つ溢した。


「うんうん、それでいいの。だいたいユーヤお兄ちゃんの武器は現在、それしかないんだから、それがなかったらユナお姉ちゃんに負担がかかることを自覚してよね!」


 そんな元凶であるアイリは呑気そうにそう言って、裕也が返却しようとしたことを周りの空気を考えずにそう言った。

 確かにアイリの言う通りではあるものの、裕也からすれば当たり前のことを当たり前のようにしただけだったため、そのことに反論したくなってしまった。が、そのことを突っ込んでも、なんだかんだ丸め込められることは分かっていたため、反論することはせず、


「そうだな。気を使ってくれてありがとう」


 と、アイリの心遣いをお世辞で褒めることが精一杯だった。


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