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(1)

 街の中に無事に入れた三人は、街の中で一番暗い場所にいた。

 暗いどころかか湿気も多いため、ジトッとした場所。

 そして、三面は完全に石で造られた壁に飛び込められており、残りの一面は鉄の棒が等間隔で並んでいる。さらに、その一面の外には木の棒のような物を持った一人の兵士が立っていた。

 中にはあるのは木の壁で隠されたトイレと木で出来たベッドのみ。プライベートも何もない部屋。

 そう、三人は無事に牢屋に閉じ込められていた。


「……なんでこうなった……」


 そう呟くのは裕也。


「本当になんでこうなったんでしょうか……」


 そのことに賛同し、ユナも同じく呟く。


「なんでだろうねー」


 アイリも同じように不思議そうに二人の言葉に答える。

 その瞬間、裕也とユナの冷たい視線がアイリに向かって飛ぶも、アイリは近くのベッドに置いてある木の毛布に潜り込むことで、その視線から逃れた。

 が、すぐに顔だけ出し、


「しょうがないじゃん! すぐに戻って来るなんて思ってなかったんだもん!」


 アイリも「信じられない!」と拗ねた口調で二人に不満を漏らす。

 その言い訳を聞きながらも、裕也とユナは視線を外さなかった。そして、情けないことを現すかのようにため息を溢す。


「まー、あれは予想外だったからー」


裕也がそう漏らすと、


「そうですねー。まさか落し物を拾いに戻って来た所を捕縛魔法で一発でしたからねー。アイリちゃんでも回避は無理ですね」


 ユナの言葉に反応するように、アイリが自分の手を握ったり閉じたりしながら、その手に向かってため息を吐いた。


「ごめんなさい。ボクが落し物を拾ったりするから」


 そして、頭をベッドにつけるようにして謝罪した。

 裕也とユナは一度顔を見合わせた後、アイリに顔を向けると二人して首をゆっくり横に振る。


「いや、アイリは悪くないよ。ごめんな、さっきは睨んだりして……」


 と裕也。


「落し物があったら、私でも拾っちゃいますからね」


 ユナもアイリの行動が間違っていないと頷きながら答えた。

 そのフォローが少しだけ嬉しかったらしく、毛布から飛び出し、ユナへと抱き付く。まるで子供が母親に抱き付く様に。

 ユナもその抱き付きを受け止めると、


「助けてくれてありがとうございます。成功失敗は置いておくとしても、手伝ってもらったことには変わりないですからね。巻き込んでごめんなさい」


 背中をリズムよく叩いて、落ち着かせようとしていた。


「その通りだな。本当にありがとうな。感謝してるよ」


 裕也も「うんうん」と腕を組み、ユナの言葉に同意していると、


「うるさいぞ。少しは静かにしろ」


 と、外に立っている兵士に注意されてしまう。

 その注意に対して、裕也とユナは再び顔を見合わせると、


「すんませんっしたー」


 と、裕也はぶっきらぼうに答え、


「ごめんなさい」


 ユナはいつも通りに謝罪した。が、ここで頭を下げなかったのは、ユナが取れる唯一の抵抗だった。

 アイリに至っては、ユナに甘えていたせいか、謝ることはなかった。


 ――まったく酷い展開になったなー。


 兵士に注意されてしまったため、口には出さず、心の中でそう呟いた。

 この世界に来た時から、いつかはこうやって捕まる日が来ると裕也は思っていた。それは、アニメや小説などでありがちな展開だからだ。

 しかし、まさか初日に掴まってしまうとは思ってもいなかった。

 流れ上、『どうにかなる』または『どうにかしてくれる』と高を括っているものの、それでも不安が隠せるわけがなく、自然とユナの方を見つめてしまう。

 ユナはその視線に気付き、首を傾げた。


 ――うん、この調子だとユナに頼るのは無理そうだな。


 裕也の考えに気付いていないユナを見て、すぐにそう思う。

 だからと言って、この世界に来て初日の裕也には外部に助けてくれそうな知り合いの一人もいない。


 ――あ、あれ? ぜ、絶体絶命?


 今度は未だユナに甘えているアイリを見つめる。

 アイリもまた裕也の視線に気が付くも、ユナと同じように不思議そうに見つめ返してくるばかり。そして、裕也の視線の意味に気が付いたのか、笑顔でにっこりと笑みを浮かべる。

 この牢屋の中で一輪の花を咲かせるかのように。


 ――そうじゃねぇよーッ!!


 思わず、牢屋の壁を殴りたい衝動に駆られてしまいそうになった裕也だったが、握り拳を作ることで、必死で耐える。


 ――も、もう駄目だ……。


 そもそも万引き犯の常習犯っぽいアイリを助けてくれるような人物がいるはずがない、と気が付いた裕也はがっくりと項垂れる。そして、深い深い絶望に満ちたため息を漏らした。


「さっきからどうしたんですか? チラチラとこっちを見て来て」


 アイリを抱いたまま、ユナが裕也の隣に近付いて来て、かなり小さい小声で尋ねる。

 アイリもまたそれに同意し、頷いていた。


「これからどうなるんだろう、って考えてたんだよ。あんまり話すと怒られるぞ」

「きっとなんとかなりますよ! そういう星の元に裕也くんは生まれて来たんですから!」


 ユナはそう言って、裕也の手を握り、元気付け始める。


「うんうん、星の元かどうかはわからないけど、どうにかなるって! ユーヤお兄ちゃん、これぐらいで落ち込まないでよッ!」


 アイリもまたユナが掴む手の上に自分の手を重ねて、そう励ます。


 ――こんな状況でなんてお前らはそんな前向きなんだよ―ッ!


 叫びたいのは必死に堪えながら、


「そ、そうだな。そうだよな。うん、なんとかなるさ。もう静かにしてよう。それがいい」


 裕也は思っていない言葉を言いつつ、二人が重ねる手に自分の手を重ねて、少しだけ引きつった笑いで答える。

 二人はその引きつった笑いを『必死に元気を取り戻そうとしている』と勘違いしたらしく、深く追究することがなかった。

 そして、同時に奥の方からカツカツ! と渇いた靴の音が聞こえ始める。それも一人ではなく、大勢の兵隊を引き連れて。

 その音に聞いた裕也は自然と身体を強張らせてしまう。同時に頭の中で最悪な展開――『死刑』の想像をしてしまうのだった。


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