(3)
「アイリと王女様の件については分かったけど、『素晴らしい味方』って意味はいったいどういうことなんだ? それが皆目見当もつかないんだけど……」
セインの説明を聞き、すでにバレていることは理解出来た裕也だったが、アイリが言っていた『素晴らしい味方』という発言自体は、今の会話の中からは全く読み取れなかったため、裕也はそのことをアイリに尋ねた。
尋ねられた瞬間、申し訳なさそうな表情から一瞬にして自慢したそうな表情へと変わり、「ふっふーん」と声を出した。
「そういう反応は良いから答えろって。というより、バレてた件に対して、もう少しだけ申し訳ない表情をしとけよ」
その様子が少しだけイラッとしてしまった裕也は、そう毒づく。が、セインがアイリのことを本当の王女様として認識していることを思い出し、注意されるかと思い、セインを見る。
しかし、セインはそんな様子を見せることはなく、裕也と同じように呆れを越したような表情でアイリを見ていた。
セインもまた裕也に視線を向けられたことにより、裕也の思っていることに気が付いたのか、
「ここで注意すれば、今までのことが水の泡になる。だから、アイリが元の位置に戻るまでは注意はしない」
と、答えられる。
そのため、裕也とユナはこれからもアイリに対しての接し方が今まで通りで良いことにホッとしてしまう。
「まぁ、注意されたとしてもボクが文句言うんだけどねー。ボクが認めてるからいいの、いいの!」
まるで他人事かのような物言いで答えるアイリ。
そんなアイリを見ながら困ったようにセインは目頭を手で覆う。本当の立場になった時に、この状態では駄目だと思っているようだった。
「はいはい、この話は終わり終わり! ボクもちゃんとしたら、ちゃんと出来るんだからさ! そんなことよりもセインが『素晴らしい味方』って言った意味の方が気になるでしょ?」
この話では自分の位置が悪くなりかねないと分かっているため、アイリはこの話から逃げるように裕也に問いかける。
「その通りだけど……」
「まぁ、ユーヤお兄ちゃんとユナお姉ちゃんに答えてもらってもいいんだけど、たぶん分からないと思うから、もうボクの口から答えるね?」
「アイリが答えたいじゃなくて?」
「……違いますぅ! 変なところで茶々いれなくていいの! ほら、言うよ! だから、静かにして聞いてねッ!」
「はいはい」
「セインはね、『予知能力』を持ってるらしいの!」
「……え?」
その言葉が信じられず、裕也は聞き直す意味も込めて、そう自分の意思とは別にそう口が漏らしていた。
「だから、未来が視えるの! だから、ユーヤお兄ちゃんがここに来るのが分かって、ここに先回り出来てたんだよッ!」
今度は分かりやすい言葉でそう言った後、自分たちがこの場にいる意味をアイリは裕也たちに教える。
が、そのことが未だに信じられないユナが、
「アイリちゃんが言ってることは本当なんですか?」
と、その能力を持っている張本人であるセインへと確認を行った。
「まぁな。そんな大した能力は持ってないが、そういう能力を持ってるというのは事実だ」
セインはユナの質問にあっさりとした様子で答える。
そこで、裕也はふと思うことがあった。それはセインがそういう能力を持っていながら、今まで隠し通していたかということだった。能力によるメリット・デメリットは置いとくとして、その気になれば自分たちの力になってくれることは、現在の様子を見ている限り、間違いないはずだったからだ。
「『どうしてその能力を今まで使わなかったのか?』って考えてるんだろう?」
そんな裕也の考えを見透かすかのように、セインは裕也に意地悪く問いかける。
予知能力という能力を持っていることは知ったばかりとはいえ、そのことを言い当てられるとは思っていなかった裕也は、ビクッと身体を震わせてしまう。
「まさか……今のも予知能力ですかッ!?」
セインが言い当てたことに対しての裕也の反応を見ていたユナが、驚いた反応をとった。
そんなユナの反応にセインは笑いながら、
「今のは予知能力じゃない。ユーヤがそういう反応をとることがそんなものを使わなくても分かってたってだけさ。それは王女様やアイリも分かってたんじゃないか?」
そう言って、二人へ顔を向ける。
二人ともセインの言い分が間違っていないことを認め、首を縦に振った。
「ほらな?」
そして、そのことを納得させるかのようにユナにウインクをするセイン。
予知能力でそのことが分かったのだと早とちりしたユナは、そのことが恥ずかしかったのか、俯いてしまう。
「そんなことよりも、セインさんが今オレの考えを言い当てたことを尋ねていいかな? オレはそっちの方が気になる」
ユナの件はこのまま話し続けたとしても、ユナが恥ずかしい思いをするだけのため、裕也はそう言って、そのまま流すことにした。
セインは裕也の質問に対して、最初から隠すつもりがなかったのか、素直に頷く。
「最初に言ったように、私の予知能力は大した物じゃないんだ。全部が全部見えるわけじゃなく、断片的な物しか視えない。つまり、ユーヤたちがここに来ることが分かり、ミゼルを倒すことは分かっていたとしても、そこまでの仮定が分からなかった。そんな不十分な知識を教えたところで、変な風に手を抜かれて、その未来が外れられても困る。だから、私は犯人候補も受け入れてたってことだ」
「なるほど。というより、最初から怪しんでたのは分かってたんだ……」
「そういう行動を取っていたってのは事実だが、予想外にそれをミゼルが乗ってきたことが予想外だったがな」
「ここまで聞いて分かったことは、オレたちはセインさんの手の上で転がされていたってことだけは分かった」
「結論的に言えば、そうだったのかもしれないな」
セインは自分の思惑通り動いてくれたことがちょっとだけ嬉しそうに笑っていたが、対照的に裕也はそのことが気に入らず、情けないため息を一つ溢した。