(1)
あれから四日後――。
裕也とユナはこそこそとお城の廊下を歩いていた。その姿は一種の泥棒に近い歩き方である。
『あの……裕也くん』
こそこそと歩きながら、ユナの声が裕也の頭の中で響く。それは予め言っておいたように念話で会話するように、ユナに打ち合わせで言っておいたからである。
――なんだ?
そんなおそるおそる問いかけてくるユナに、裕也は少しだけ不愛想に答える。それは、昨日からずっと答えていることを、また答えないといけないと思ったせいだった。
『本当にいいんですか? こんな風にこっそり抜け出して……』
――いいんだよ。一応、オレは人殺しだぞ?
『……アイリちゃんと王女様は許してくれてたじゃないですか。セインさんに限ってはかなり褒めてくれていたような……』
――それはそうだけど……。なんか違う気がするんだよなー。
『よく分かりません』
――いいのいいの。それに、オレたちは各王を誘惑して、世界を救おうとしてるんだぞ? そんな旅をしてるオレたちが、このエルフの街を救ったとして、祝われながら旅立ってみろ。今後やりにくいこと限りない。
『確かに祝われるってことは、他の種族の人たちに知れ渡る可能性がありますけど……。それは拒否したら、別に無理に開かないような気も……』
――あー、もう! とにかく嫌な予感がするんだから、外に出れるまでは静かにしてろよッ!
『はいはい、分かりましたよーだッ!』
裕也の不機嫌そうな言い方に、ユナも少しだけ不機嫌そうな声でそう答える。
裕也がこっそりと抜け出したい理由は先ほどユナに説明したことが理由であることは間違いなかった。が、一番の理由は胸の中にある嫌な予感が原因だった。この嫌な予感は『ACF』により確定で起こることは間違いではなかったのだが、その内容までは分かってはいない。分かってはいないのだが、少しでも面倒なことからは逃げ出したかった裕也からすれば、こういう選択肢しかとれなかったのである。
そんな嫌な予感は未だに頭の中で警報を鳴らしつつも、裕也たちは順調に廊下を進んでいた。
それはレオナの暗殺の件が完全に解決したことにより、警戒をする必要がなかったため、警備兵を深夜まで配置させる必要がなかったからである。だからこそ、あの事件解決までの一週間の時よりも廊下を歩いている警備兵の数がウソだと思えるほど減っていたのだ。
しかし、全然いないわけではない。
裕也たちが曲がり角に差し掛かったタイミングでひょっこりと曲がり角から一人の警備兵が顔を出す。
絶妙なタイミングで姿を現してきたため、裕也はぶつかりそうになるも、ギリギリで身体を踏んばらせ、それに耐える。
『……ッ!?』
ユナもまたそのタイミングに裕也の身体にぶつかり、声を漏らしそうになるも、予め注意されていたことにそのことも含まっていたため、口を手で押さえることで必死に耐える。
警備兵は廊下の真ん中まで来ると、首を左右に振って確認し、そのまま裕也たちが来た方向へ何事もなかったかのように歩き始める。
その様子を二人は息を潜めて見送った後、ほぼ同時に静かにため息を漏らす。
――危なかった……。
裕也がそう念話で漏らすと、
『本当ですね。あと少しでぶつかって、バレてたじゃないですか。心臓に悪いんで、堂々と行きましょうよー』
ユナの情けない声と共に提案が出される。
――見つかった時と言い訳は?
『外の空気が吸いたかった、とかでいいんじゃないですか? そんなに怯えなくても』
――『あなた方は王女様を守った恩人です。何かあったら大変なので、護衛させて頂きますね』なんて言われるお節介の警護兵の存在を思いついた。
『……ありえそうですね』
――だろ? それ以外の言い訳は?
『え、えーと……』
――考えてる間に足止めとくのも嫌だし、進むぞー。
ユナがこれ以上思いつかないことは分かっていたため、裕也はそれだけ言うと、返事は聞かずに歩を進め始める。
その行動に対し、ユナも『あ、はい!』と否定することはなく、裕也の後を考えながら付いて来る。が、言い訳は思いつかないらしく、ずっと『うーん、と……』などと唸っていた。
先ほどのこともあり、歩をゆっくりにし、周囲を警戒しながら歩み続けた結果、なんとか裕也たちの目的地であるお城の裏口の扉の前へと到着することが出来た。あとはこの扉を出た後の裏門からこっそり抜けるだけ。
が、ここまでの警備兵たちとの出会いの確率を考えると、それほど大した問題でもないため、裕也たちは自然と気が抜けてしまう。
『短いようで長い道のりでしたね……』
ホッとしたような物言いのユナ。
雰囲気からして先ほどの言い訳の件はすでに考えることを止めてしまっているらしい。
そのことにしてちょっとだけ追究するという意地悪をしてやりたかったが、それはそれで面倒にになったため、
――そうだな、本当に長かったような気がするよ……。
と、それに乗っかっておくことにした。
二人はそう言いながら、裏口の扉に目をかけ、なるべく音を立てないように扉を外に向かって開ける。
しかし、その時点で裕也たちの思考もとい行動は全停止してしまう。正確に言うと停止ではなく、強制停止させられてしまったのだ。
なぜなら、扉を開けた先には絶対にバレないように気を付けていた人物――アイリがそこにいたからだ。
その隣にはレオナとセイン、二人の姿もあった。