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「謝罪するよりも先に行動に移すとしましょう。殺す、殺さない。それは裕也くんが最終判断で見つけてください。そろそろ時間もないですから」


 ユナは裕也の方を見ることなかったが、少しだけ震えた声でわざと強がった口調で裕也へそう言った。

 裕也もまたその言葉の意味を確認するために、ユナから視点を鬼へと移す。

 すると、その鬼は自分に巻き付いている魔法の鎖を魔法による手段ではなく、自らの筋力によって砕こうとしていた。


「マジかよ」


 裕也は魔法による攻撃は魔法によってしか何とか出来ないという先入観があったため、そう漏らしてしまう。


「本来はあり得ないことなんですけどね」


 ユナはミゼルを殺すと言ったことの方がショックだったらしく、鬼がやっていることに対してはそれほど驚いた様子はなく、裕也の呟きに答えた。


「やっぱりあり得ないことなのか」

「はい。きっとあれは先生の魔力の使い方が、『自分の魔力を使うタイプ』だったからこそ出来ているという具合ですね」

「ああ、そういうことか。確かに『精霊に肉体強化してもらった状態:』と『自分の魔力で肉体強化した状態』では、また少しだけ感覚が違ったからな」

「あれ? 二つの方法で魔力を扱えるようになったんですか?」


 裕也の発言から、ユナは裕也が二つの魔力を扱えるようになったことに気付いたらしく、これには少しだけ驚いた様子で裕也を見た。が、すぐに鬼へと視線を戻す。


「いんや、扱えてはない。扱えるというより、無意識の内に魔力を肉体に振り分けたって状態だな」

「『ACF』によるものですかね……」

「わかんね。でも、その可能性が高いのは否定しないけどな」

「まぁ、それはいいんですけど……」

「おう」

「どうやって倒すつもりなんですか?」

「……トレスで撃ち抜く」

「どこをですか?」

「……」


 裕也はそこまでは深く考えていなかったため、沈黙してしまう。いや、沈黙したのはユナだけであり、


 ――どこを打ち抜けばいいんだ?


 と、精霊に尋ねていたにすぎない。


〈どこをって……。狙うのは魔力の放出部。つまり、心臓よりちょっとずれた胸の中心あたりを打ち抜くしかないでしょ〉


 精霊も裕也がどこを打ち抜くかを分かっていると思っていたらしく、声が完全に呆れ返っていた。


 ――あ、そこね。分かった。


 裕也は精霊の言葉に納得した後、


「魔力の塊がある場所。まぁ、胸の中心だな」


 まるでそこを狙うことが分かっていたかのような口調でユナの説明に答えてみせた。


「はいはい。精霊さんにでも聞いたんですね」


 が、ユナは今の沈黙で裕也が精霊に聞いていることをお見通しだったらしく、予想以上に冷たい声で返されてしまう。

 まさか予想以上に冷たい声でそう言い返されると思っていなかった裕也は、ドキッと心臓を跳ね上がらせた後、困った笑いで返事を返すことしか出来なかった。

 瞬間、バキッ! という音と共が響き渡る。

 ハッとして裕也は鬼を見ると、鬼を拘束していた鎖が一つ砕け散ったことを知らせる音だと気付く。それも束の間、一つ壊れたことがきっかけとなってか、全部の鎖が次第に壊されていき、あっという間に鬼は自由の身になってしまう。


「裕也くん! 攻撃はどうしたいのか分かりませんけど、私にやってほしいことは理解してるつもりです! 早くやることをやってください!」


 そう言って、ユナは鬼に向かって飛び出す。

 その行動力の早さは裕也がこれから出す指示すら聞く間さえ与えないスピードだった。


〈さすがだねー。しかも、即座に肉体強化と知覚を上げる魔法まで使ってる。本当に自分のやるべきことを分かってる証拠だね〉


 精霊はユナが自分にかけた魔法を瞬時に見抜き、その行動に対して、素直に褒めた。


 ――そうだろそうだろ!


 自分が褒められているような感覚で頷いてしまう裕也。


〈ユーヤのことを褒めたわけじゃないんだけどね〉


 精霊は裕也の返事に冷たくあしらう。

 当の本人であるユナは、精霊に褒められていることには一切気付いていないようで、鬼の標的を自分に向けるために、鬼の顔面に少し大きめの火球をぶつける。

 その火球は見事に鬼の顔面にヒット。見事に自分に標的を向けることに成功した。


「やっぱり……」


 が、少しだけ悔しそうな声を漏らした。

 その声がばっちりと聞こえていた裕也は、今の攻撃が本当にダメージを与えるために攻撃を行ったことに気付いてしまう。


「殺すことには躊躇ってたくせに……」

〈そういう意味での攻撃ではなかったけどね。とにかく、その説明も私たちがやるべきことをやりながら説明してあげるから準備して〉


 未だに準備をしない裕也に少しだけ焦った口調でそう言う精霊。

 裕也はその指示に素直に従い、自分の右手を少しだけあげる。そして、訓練時にやっていた紙に魔力を送る感覚だけに集中し始めた。


〈うんうん、いい感じ。形は気にしなくていいから、全力で魔力を放出してね! ここまで距離が離れていたら、何の影響も受けないからね!〉


 裕也は精霊のその指示に従い、形はとりあえず気にすることは止め、魔力の放出することだけに集中。すると、右手にどんどん重さが加わり始める。


〈うん、これだけあればダメージを与えられるはず! 私も研磨始めるね!〉


 その言葉が意味する言葉は魔力の放出のストップと受け取った裕也は、魔力の放出を止め、その場で待機状態には入る。そして、自分が放出した魔力の塊に目を向けると、巨大な球体がどんどん圧縮されていく様子が見えた。


 ――なぁ、さっきの質問に答えてもらっていいか?


 この隙に裕也は先ほどの質問に答えてもらうことにした。それが気になってどうしようもなかったからである。


〈さっきの? ユナちゃんの攻撃?〉

 ――それ。

〈単純にダメージがどれだけ与えられるかの確認だよ。こうやって私たちが作業している間に、こっちの意図に読まれてしまった場合のことを考えてね。その時はまたユナちゃんが攻撃しないといけないから〉

 ――なるほどな。確かにノーダメージっぽいけど、あれが先生だったら――」

〈火傷確定の威力だね。まぁ、それだけ防御力が高いことを分かってたみたいだけど〉

 ――そっか……。


 裕也はそこまでユナが考えての攻撃だとは思っていなかったため、褒めるという意味合いを込めて、ユナを見た。

 鬼と対峙しているユナは、裕也たちに視線が向かないように動き方――鬼の背中が裕也たちに見えるようにしながら、攻撃よりも回避に専念していた。


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