(19)
妖精の話の流れから、裕也の中でもその生成の方法のやり方はだいたい予想が付いた。
裕也がその生成方法に妖精も裕也が気付いていると思っていらしく、
〈そういうこと。私がユーヤの魔力を矢の形に固める形でコーティングする方法を取るってことだね〉
と、勝手に話を進める。
しかし、裕也は一つだけ不安なことがあった。これもまた何か小説か漫画の設定の一つであり、確定ではないため、そのことを尋ねてみることにした。
――オレの魔力と妖精の力を借りるって、魔力的に干渉し合わないのか?
その質問に対し、妖精は一時沈黙した後、
〈分かんない〉
そうあっさり答えられてしまう。
――おいおい、まさか……。
〈うん、知らないよ? そもそも、こんな方法を取るのはユーヤが初めてだし〉
――やっぱりかよ!
〈当たり前でしょ? そもそも両方の素質を持つ人が少ないんだもん。過去何人か居たけど、その人たちはその時の指導係によって選ばれて、片方を極めていったんだもん。ユーヤみたいに両方使おうって人は珍しいの!〉
――オレを異端児みたいに言うなよ!
〈異端児みたいなものじゃん! この世界の住人でもないんだし!〉
――……それもそうだな。
この世界の住人でないことを指摘されれば、異端児みたいなものであることは間違いではないため、裕也はこれ以上言い合いを続けることは出来なかった。
妖精もまた言い過ぎたと気付いたらしく、
〈ご、ごめんなさい。悪口言ってるわけじゃあ……〉
と、しょんぼりした声で裕也へ謝罪した。
しかし、裕也はそのことにショックを受けているわけではなく、当然と思っているため、
――別に気にしちゃいないんだけどな。返せる言葉がなくなっただけだし……。
そう言いながら、困った笑いを返し、
――それはいいから、早くその調整をしてくれ。じゃないと、体力の限界が来そうだ。
落ち込む前に早く挑戦するように促した。
本当は体力的にはまだ余裕があった。それは鬼の攻撃が単調かつ大振りな一撃が多いためだからであり、もう少し頭を使われていたら間違いなく体力の限界は来ていたに違いない自信が裕也には合った。
〈分かった! じゃあ、矢を作るイメージをして! その不安定さを私が矢の形に圧縮するから!〉
――おけ、分かった。
裕也は頭の中は右手に矢が納まるような形で矢を生成する想像を行う。やり方としては一昨日の紙で矢を作るようなイメージである。そのイメージと感覚はしっかりと身体に刻み込んであるため、魔力を送るだけのイメージはあっさりと出来た。
そして、そのイメージ通り、裕也の手の中に少しだけ重さのような加わり、軽く一瞥する。すると、そこは歪な形の矢とは言えない物が形成されており、攻撃に使うには程遠いものだった。
〈うん! ここまで出来てたら、あとは任せて!〉
妖精はそう言うなり、その歪な形の矢をちゃんとした矢へ研磨しようと動き始める。
が、その研磨が終わる声がなかなか届かないことに裕也は少しだけ違和感を覚えてしまう。それだけ妖精単体での矢の生成が早いからである。
――出来そうか?
だからこそ、心配の声をかけざるを得なかった。
〈んー、頑張ってはいるんだけどね。やっぱりユーヤの言う通り、少しだけ魔力同士が干渉し合ってるみたい。それよりも一番の問題は――〉
ちょっと溜めたようにそういう妖精。
裕也はその意味が分からず、その反応に困っていると、裕也では答えられないと分かったのか、
〈ミゼルの近くに居られると、さらに乱れて出来なくなるの!〉
と、少しだけ怒りの混ざった口調で注意されてしまう。
――あ、すまん。
裕也もまた反射的にそのことについて謝るも、
――って無理だろ! このオレしか狙われない状況で、ここまで近接戦闘をされたら離れようにも離れられないっての!
即座にこの状況から逃げることが出来ないことを教えるように、怒り返してしまう。
〈なっ、そんなことぐらい私だって分かってるよ! だから、この状況から逃げるための打開策も考えてるもん!
――どんなだよ!
〈ユナって子を起こす。アイリ様とレオナは私たちと同じタイプだから起こしてもしょうがないからね〉
――うん。妥当な判断だ。それで、いつ起きるんだ?
〈……〉
そこで妖精は無言になってしまう。
その無言だけで、裕也はその目途が立っていないことに気付くも、おおよその時間は分かると踏んで、
――いつなんだ?
と、さらに追究した。
〈ミゼルがかけた魔法が、私たちに干渉するような仕組みになって、なかなか上手くいかない。もう少しだけ時間をもらったらいけると思うけど……〉
追究されることを悟っていたらしく、妖精はあっさりとそう言った。もう何もかもうまくいかない。そう言わんばかりの諦めの境地に達した言い方だった。
裕也もまたそこまであっさりと諦めた口調で言われてしまうと、急かすことも出来ず、
――そうか。まぁ、なるべく早く頼むな。
そうかけてもしょうがない応援をすることしか出来なかった。
〈両方ともなるべく頑張る。私にはそれしか言えないから〉
そしてまた妖精は無言になった。
今度は矢の研磨とユナを起こすことに真剣になっていることが肌で分かってしまうぐらいの空気だったため、裕也は鬼からの攻撃をどうやって体力が持つように躱し続けるかを考え、行動に移すことしか出来なかった。