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 ミゼルを乗り越えた裕也はキッ! と振り返って、鬼を睨み付ける。そして、小声で「くそっ」と自分の躊躇いや無力さ故にミゼルを救えそうにないことを恨んだ。


〈しょうがないよ。私からすれば、あの薬を飲んだ時点からどんどん蝕まれてたんだし……〉


 妖精が裕也を励ましの言葉をかけるも、裕也はそれを簡単には受け入れることは出来なかった。いや、その気持ちそのものは受け入れることは出来たが、自分の中で納得することが出来なかったのだ。


 ――そんなことより、鬼から先生の意識を取り戻す方法はないのか?


 一度倒すべき標的を見失うも、再び裕也を発見した鬼は裕也に向かって突進してくる。そしてまた、ただ殴り倒そうと裕也へと殴り掛かり始める。

 が、先ほどと同じように裕也はその動作から位置を見切り、余裕を持って躱していく。


〈取り戻す方法はなさそうかな……。うん、もうちょっと前なら薬だけを矢で射ぬくって方法もあったかもだけど……。

 ――もう遅いな。

〈消化されたからこそ、あの姿になっちゃったんだろうからね……。残されたのはつまり……〉

 ――言わなくてもいいよ。


 妖精に言われなくても、ミゼルの意識がなくなってしまったこの状態で、無事に助ける方法など全く思いつくことが出来なかった裕也は、そのことを心の中でどこか覚悟してしまっていたため、驚く必要はなかった。


〈ねぇ、そんなことよりどうしたの?〉


 落ち込む内容から話題を変えようとしてくれているのか、妖精がそんなことを言い出したため、


 ――そういう励ましはいらないから安心してくれ。


 と、少しだけ不機嫌そうに答えた。

 まさか、そんな風に捉えられると思っていなかったのか、妖精もまた慌てた口調で、


〈違う違う! フォローするためにかけた言葉じゃなくて、急に覚醒したみたいに自分の魔力を使えてるから尋ねただけだよ!〉


 純粋な質問であることを伝えた。

 裕也もまたその質問に対して、「え?」と答えることしか出来なかった。

 妖精の言っている言葉の意味自体は『自分の魔力によって肉体強化を行っている』と言っていること自体は理解出来たが、そんなつもりは一切なかったためである。


 ――いやいや、これ妖精の肉体強化の影響だろ?

〈私がかけた肉体強化なんてとっくの昔に効果消えてるよ?〉

 ――はぁ!? いつ解けたんだ!?

〈意識がミゼルの時にだよ?〉

 ――ずいぶん早い段階に解けたんだな……。

〈直撃してたら、すぐに解けちゃうはずだったんだけど、ユーヤが上手く回避するからちょっとずつ乱されて、緩やかに解除されたって感じだね〉

 ――それを補う感じで、自分で自分自身の強化をしちゃってたってことか?


 妖精はそこで一旦口を閉ざした。

 その間も裕也は鬼の攻撃を避けつつも、倒れているユナたちに鬼の攻撃の被害が向かないように調整しながら、妖精に聞きたいことを考えていた。


〈私たちに魔力を与える原理だと同じ感じの放出だと思うよ? そのものの違いが、『妖精と交流出来るのか』『放出した魔力を自分が使うエネルギーとして変えられるのか』だから。この壁は意外と厚いようで薄かったりするの〉

 ――そんなものか……。って、なんでオレ体力が減ってないんだ? こんなにも動いてるのに、息切れもしてないし……。

〈それも自分の魔力による肉体強化と無意識の内に疲れないような動き方をしてるせいだと思うけど……。というかさ、それを私に聞く? それはあっちに倒れてる女の子に後から聞いた方がいいと思うけど〉


 そう言って、裕也は妖精が言葉で示す人物――ユナをチラッと見た。むしろ、このメンバーで聞けるのがユナしかいなかったから、それが分かっただけだった。


 ――それもそうだな。


 そのことにあっさり納得する裕也。

 そこで、ふと思いつくことがあった。


 ――もしかして、今のオレなら自分の魔力を使って、矢を形成出来るのか?


 それはミゼルを倒すために必要となってくることであり、それが出来なかったら、体力の限界が来るまでは、今のように攻撃を避け続けないといけないことを暗示していた。


〈無理かな〉

 ――無理なのか……。


 今の自分になら出来る可能性が少しはあると期待し、その言葉を妖精の口からも賛同を受けることで自信を持とうとしていた裕也は一瞬の内に落胆してしまう。そして、その落胆さのせいで、鬼の攻撃が軽く頬を擦ってしまう。


「あぶっ!」


 裕也はそう漏らした後、慌てて気持ちをさっきまでのような冷静なものへと切り替える。少しの動揺で頬を擦る程度まで動揺するとは自分自身でも思っていなかったからだ。


〈だ、大丈夫?〉


 妖精もまた自分の発言で、さっきまで余裕で躱していた裕也がここまで動揺すると思っていなかったらしく、妖精もまた焦った声を出していた。


 ――だ、大丈夫! ちょっとだけ期待した自分がバカだったってことで……。

〈ごめん! 本当は少し期待していいんだよ? ユーヤの言い方が、『自分一人の力で矢の生成』だったから無理って言っただけだし……〉

 ――その通りだけど、オレ一人の力じゃ生成不可能って話なのか?

〈もったいぶらずに言うと、そういうことだね!〉


 この発言だけ、申し訳なさそうな口調の中に少しだけ自慢した気な雰囲気が含まっているような気がした裕也だったが、そのことはスルーすることにした。


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