(9)
「二人の漫才は終わりにして、そろそろ街に行こうよ。ついさっき警備兵さんたちが通ったから、しばらくは大丈夫だからさ」
そう言って、アイリは街の方へ向かい、歩き始める。
裕也とユナもその後を素直に付いて歩く。が、二人とも少しだけ複雑そうな顔を浮かべていた。
その理由はもちろん一つしかない。
「ったく、ユナのせいで漫才扱いされたじゃないかよ」
「はぁー」と深いため息と共に裕也がそう呟くと、
「誰のせいだと思ってるんですか?」
負けずとユナもそう言い返す。
そのことが事実だけに裕也は「うぐっ」と軽く唸ってしまうも、
「あそこでツッコミを入れなきゃよかっただろッ」
と、やはり言い返す。
現状負け確定の裕也を勝者確定であるユナは再びジト目で見つめながら、
「はいはい、そうですねー。私が悪かったですよーだ」
プイと顔を裕也がいる反対側へと向けて、軽く挑発した。
その態度にイラッときてしまった裕也は再び言い返そうとすると、
「あのさ、静かに出来ないの?」
軽く苛立った様子でアイリが二人の方へ顔を向ける。
「あ、悪い」
「ごめんなさい」
アイリの予想していなかった反応に、裕也とユナは反射的に謝ってしまう。ユナに至っては頭も下げての謝罪だった。
「くだらない言い合いはもうしないでよ。それでなくてもエルフは敏感なんだから。正直言って、バレても知らないよ? かなり耳の良い人には、この時点で聞こえる人だっているんだから」
その忠告に二人はシュンと小さくなってしまう。
分かっていたことなのに、それを『アイリがいるから安心だ』という心の隙間のせいで忘れてしまっていたからだ。
「ほら、二人ともお互いに謝らないと。それがケンカした後の礼儀でしょ? ちゃんとしないと手伝わないよ?」
さらにそう言われたせいで、裕也とユナは顔を見合わせた後、
「悪い、ユナ」
「私もすみませんでした」
素直に謝罪を行う。
その様子を見て、アイリは満足したらしく、再び街の方へ身体を反転させ、歩き始める。が、顔だけ二人の方へ向け、
「ここからは口を閉ざしてね? 本当に危ないから」
唇に指を当てて、だめ押しの忠告を行った。
裕也とユナはその忠告に静かに頷き、再び歩き出したアイリの後を付いて行くのだった。