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 そして、矢をトリスの弦に引っかけ、いつでも撃てるように裕也は構えてみせる。

 が、この時点で裕也はミゼルに勝てないことを自覚していた。

 それはアイリのような物理的なダメージを与えられるような工夫を全く施す手段が全くないからである。


 ――あー、偉そうな口を叩いてみたものの、勝てる手段を思いつかないんだよな……。


 そう心の中で苦笑すると、


〈そんな状態でよく頑張れるねー〉


 と、裕也の頭の中に一つの声が聞こえた。

 その声の主は今までに何回も聞いたことがあった人物――精霊の声だった。


 ――うるさい。それよりなんか用か?

〈これからどうするのか、聞きたくなったの。何か考えあるの?〉

 ――……全くないに決まってるだろ。けど、どうにかしなきゃ駄目なんだよ!


 裕也はその想いだけを目に宿し、ミゼルをジッと睨み付ける。

 相対しているミゼルは裕也がどうやって攻めてくるのか、すでに勝者の絵みのようなものを見せて、裕也の様子を伺っていた。


〈私たちの力をこんな単純な使い方しても、どうにも出来ないことは分かってるよね?〉

 ――それは分かってるけど、頼れるのがこの力しかないんだからしょうがいないだろ。このランスじゃダメージを与えることも出来ないだろうし……。


 そして、ミゼルから一瞬目を離してランスを見るも。すぐにミゼルに目を戻す。

 その行為が危ないと分かりつつも、なんとなく見てしまったのである。

 ただ、ミゼルは自分から攻める意思はないらしく、裕也は少しだけホッとしてしまう。


〈そんな風に気楽にいると、いきなり攻められたとき大変だよ?〉

 ――……心を読むなよ。

〈読むというよりも分かるんだから仕方ないよねー〉

 ――そういう問題かよ。精霊の立場から少し考えを分けて欲しいんだけど……。

〈別にいいけどね。簡単に死なれちゃ困るし……〉


 言い方は軽いものの、まさか精霊からそんな心配の声が聞こえると思ってもみなかった裕也はちょっとだけびっくりして、


 ――それ、どういう意味なんだ?


 と、思わず尋ねてしまう。

 その表情が表にも出てしまっていたらしく、ミゼルが気付いたような反応をしていたことが気付く。

 しかし、ミゼルは裕也が何かしている事に気付いたような反応を示すも、今まで通り、裕也の反応を待つことにしたらしく、何も問いかけてくることはなかった。


〈バレたねー。あっちがユーヤに好意を持ってるから、なんとかなったけど、敵意むき出しだったらアウトだったよ?〉

 ――そんなこと、百も承知だっての! とにかく、何か勝てるアイディアはないか?

〈んー、ユーヤが私たちの使役じゃなくて、自分の魔力から生成出来る方も上手く出来てたら、なんとかなったかもしれないけど……〉

 ――ああ、やっぱりそっちをマスターしておけばよかったか……。

〈……ものすごく意味深に感じたんだけど?〉

 ――そんなに深い意味はない。


 本当は少しだけそっちの方を優先的にマスターしておけばよかったと思ったが、そんなことを言ってしまえば、今すぐに契約を破棄されそうな気がしてしまったため、そう言って誤魔化したのだ。

 ただ、その誤魔化しに気が付いているような気がしたのはバレバレだったのは言うまでもない事実だった。


〈ふーん。ま、いいんだけどね。契約してる以上、私たちはそう簡単に見捨てられないようになってるから。特に、ユーヤはね〉

 ――その意味はなんなんだよ。オレだけ特別扱いみたいに聞こえるんだけど……。

〈自分がこの世界に来た意味を考えたら分かるよ〉

 ――だから、特別なのか?

〈それはいいとして、いつまで敵を待たせるつもり? いつまでも待ってくれるとは限らないよ。しょうがないから、身体能力アップの力も貸してあげるから頑張ってね。私たちも弱点みたいなの見つかったら、教えるからさ〉


 そう言った瞬間、裕也は自分の身体が一瞬ひんやりとした冷たい風に包まれた感触を覚えた。そして、その影響が先ほど精霊が言っていた魔力による身体強化アップの影響のものだと気付くのに時間はかからなかった。


〈あ、近すぎると私たちが乱されるから、あまり長時間近付か――弓に武器をシフトしてるから大丈夫だよね〉


 思い出したように注意が精霊から入ったが、武器が弓にシフトしていたこと、そのことを裕也がちゃんと理解していることが分かったらしく、自己完結で終わらせた。


 ――とにかく頑張ってみるか……。


 自分自身に気合を入れさせるように、裕也は矢をミゼルに向かって放つ。

 ちょっとだけ気を抜いていたミゼルの隙を突いた攻撃だったが、ミゼルはその不意打ちさえも視野に入れていたらしく、あっさりとその矢を回避してみせる。

 が、そこはトリスの能力である『必中』により、裕也が狙いを定めた場所――心臓あたりに向かって、軌道を変えて飛んでいく。

 その能力のことを遅れて思い出したミゼルは、その矢に対して正面を向くようにして、位置を取る。そして、その矢をあっさりと掴み、握力に物を言わせて破壊しようとするも、あっさりと矢は霧散してしまう。


「おっと、能力のことを忘れてたよ」


 『精霊を乱す能力』をすっかり忘れてしまっていたようで、困ったかのように笑うミゼル。

 瞬間、裕也の背筋にゾクッ! とした寒気をやってきたため、慌ててその場から後ろに跳ぶ。


〈来るよ!〉


 その跳ぶ間近あたりで精霊からの注意が飛び、その直後にミゼルの拳を上から下に振り下ろすという大振りな一撃が元居た裕也の位置へ食らわされる。

 その一撃は簡単に地面を抉った。


「ちっ、これに反応したのか」


 不意打ちではなかったが、十分不意を突けると思った攻撃だったらしく、ミゼルの残念そうな声が裕也の耳に入った。


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