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 裕也はその光景が信じられず、


「ユナ? アイリ? 王女様?」


 と、名前を呼んだ。

 しかし、その声は裕也が思った以上に声が出ておらず、三人の意識があったとしても、その声は届いてないぐらい小さいものだった。


「これで三人はダウン決定だね。間違いなく意識は立ったから」


 そういうミゼルは離れた位置で裕也を見つめていた。が、その容姿も完全に鬼と化しているらしく、そこにはすでにミゼルとは思えない異形の人物がそこに立っていた。唯一判断出来たのはミゼルの声だから、という理由だった。


「死んではないんですね……」


 少しだけそのことに安心しながらも、先ほどのダメージが原因で自分の力では上手く立ち上がれない自信があったため、一緒に吹き飛んできていたランスを杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がる。

 そんな裕也の安心を吹き飛ばすかのように、


「本当は殺しても良かったんだけどね……」


 と、残念そうにミゼルは溢した。 


「え?」


 その発言が信じられなかった裕也は驚いた反応を取らずにはいられなかった。

 なぜなら、今までのミゼルならそんなことは絶対に言わないと思っていたからである。結果としては、アベルを殺す羽目になってしまったが、それでもその中にはエルフの皆を守りたいという想いがあったからだ。しかし、今の発言はその範疇を超えていた。いや、それだけではなく、ミゼルという人間そのものがそんな発言をするとは思えず、そのことに驚きを隠せなかったのだ。


「どうしたんだい、ユーヤくん。自分を殺しにかかってくる人間を排除することがそんなにおかしいことかい?」

「殺しにかかる?」

「なんだ、気付いてなかったのかい? 察しのいいユーヤくんが……」

「王女様が言っていた覚悟って……、まさかッ!」


 慌ててレオナを見るも、レオナは気絶しており、ミゼルの言葉と裕也の視線が向けても、何の反応も取ることはなかった。


「そういうことだよ。まぁ、あながち間違ってないけどね……」


 そう言いながら、ミゼルは自分の手を見つめ、小さくため息を溢した後、天井を見つめる。

 その雰囲気から哀愁を感じることが出来た裕也は、


「もう、元の姿には戻れない。そう思ってるんですか?」


 と、そこから導き出される答えを本人に尋ねた。


「……確信なんてないけどね……」

「王女様もそう予想したから……」


 最初は信じられなかったが、そういう理由ならばなんとなく納得してしまいそうになってしまう。けれど、すぐにその考えを思い改めるかのように、首を横に振る。


「いや、もしかしたらなんとかなるかもしれないから、王女様の考えも先生の予想も早計ですよ」

「じゃあ、どうやって元の姿に戻してくれるって言うんだい? 少しずつ自分が自分じゃなくなる感覚を受けてるっていうのに……」

「ははっ、よくある展開じゃないですか……」


 元居た世界でよくある展開だからこそ、裕也は苦笑いを溢してしまう。そして、頭の中ではすでに、『先生の助かる確率は深い』という答えが簡単に導き出されてしまう。が、そんな答えを認めてしまえば、絶対に助からないということは明白であるため、必死に抗うもそれを覆す答えをすぐに見つけることは出来なかった。


「そうなのかい? 自分にはそんな展開は分からないけどね」


 裕也の意味が全く分かっていないミゼルはそう漏らす。


「いえ、こちらの話です。けど、本当にその姿から元に戻る術はないんですか?」

「自分にも分からない時点で、ないと思っていいんだろうね」

「……ッ!」

「だからこそ、王女様たちの手段は間違ってないと思うよ。それでユーヤくんはどうする? 殺してでも止めようとするかい? それとも、逃がしてくれるのかい?」


 ミゼルにそう尋ねられた裕也は、そのどちらの選択肢を選ぶことが出来ないことは分かっていた。むしろ、問われた時点で別の選択を作ることが精一杯だった。そんな中でも裕也が分かっていたことは、『逃がしてあげる』の選択を選ばない限り、戦闘は続行されるということだけ。だからこそ、裕也はポケットから『トリス』を取出し、武器として使えるように巨大化させた。


「トリスを大きくさせたってことは、『自分を殺す』と受け取ってもいいんだね?」


 その行動からミゼルもまた残念そうに裕也に、裕也が選んだ答えを再確認した。


「いえ、違います。その二つが選べない以上、戦闘になるでしょ? だから、準備しただけですよ」

「つまり、第三の選択肢を作るってことかな?」

「はい」

「まったく自分とは違う方向で粘ってくれるねー。そんなことしても痛みが増すだけだというのに……」


 ミゼルは裕也が自分をあくまで逃がさず、あくまで殺さず、どうにかして生かす方向で考えてくれていることがちょっとだけ嬉しいらしく、笑顔を作った。が、同時に三人と同じように手をかけることが悲しいのか、目だけは笑っていなかった。


「ユーヤくん、なるべく痛くないようにしてあげるね。それが自分に出来る最大限のことだから」


 それが自分の唯一出来ることだと言わんばかりに、ミゼルはそう言って、体中に魔力を帯び始める。

 裕也も同じようにランスから手を離す。そして、虚空に手を向けると、その手に納まるかのように矢が形成される。それは昨日言っていた通り、精霊にあとで魔力を与える代わりに力を先に貸してもらう契約のおかげである。


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