(14)
「それは分かりますけど、いったい何をしたんですか?」
その光景から、アイリがどんな方法でミゼルの能力を看破したのかまでは判断がつかないユナは、アイリのその説明を求めた。
「乱されて、霧散する前に加速した土の塊で物理的にダメージを与えたんだろ?」
が、その質問の回答にアイリではなく、そのことを確かめるように裕也が答えた。
答えようと思った矢先に裕也が先に答えてしまったため、
「さすがはユーヤお兄ちゃん、よく分かったね! その通りだよ!」
と驚きながら、その答えが正解であることを素直に認めた。
「しかも、ただ加速させただけじゃないよな?」
「ん、まぁね。って、それも見抜いちゃったの?」
「まぁ、あの先生があそこまでのダメージを負ってるんだから、ただぶつけただけじゃないことだけはすぐに分かるさ」
相当なダメージを負っているのか、未だに地面に這いつくばっているミゼルに視線を向ける。
ミゼルは予想以上のダメージを受けると思ってもみなかったのか、そのダメージを与えたアイリを鬼の顔へと変貌した側で、殺気でアイリを殺してしまいそうな視線を向けていた。
「えっと……何をしたんですか? 私には全く分からないんですけど……」
そんな場の空気を乱すのは悪いと思いつつも、ゆっくりと手を上げるユナ。
「土の塊を加速させながら、魔力で圧縮させたんですよ。しかも、先端を尖らせるような形にして」
今度もまたアイリではなく、レオナが答えた。
再び自らが答えるチャンスを奪われてしまったアイリは頬を膨らませ、
「あー、もう! なんで、ボクの答えるチャンスを奪っちゃうかな! これに気が付いたのはボクなのにッ!」
不満を露わにしながらも、その答えが正解か不正解かを答えることはなかった。いや、レオナの答えに不正解と言わずに不満を漏らした時点で、それが正解であることは全員が自然と納得していた。
「よく気が付きましたね、アイリちゃん」
軽く拗ねているアイリにユナは褒めるように言うと、
「まぁ、これはセインとユーヤお兄ちゃんのおかげなんだけどね。あっ! でも、王女様がセインにそう頼んだからなのかもしれないし……。んー、とにかくボクだけの力じゃないのは確かだよ。ちょっと頭を柔らかくして考えただけだし」
色々と悩んだ後、あっさりと自分の一人の力ではないことをあっさりと認めるアイリ。
「えーと、どういうことですか?」
「セインが持ってたランスをあんなにも必死に避けてたから、そこからちょっとピンッ! って来ただけなんだよね。薬のおかげでボクたちが使う『精霊を使役するタイプ』の魔力耐性が強くなってるのは見ての通りだけど、それでもあそこまで必死に避けるかなって思ったの……」
「もしかして……」
「うん、魔力耐性が出来た分、もしかしたら肉体的に何か弱くなってるのかなって推測したんだ。弱くなってなくても、今のやり方だとダメージ与えられる自信があったから、実践したら、今の状態なの」
そのことを確認するようにアイリは、ミゼルを一瞥する。
そんなミゼルはアイリの攻撃を食らったダメージを簡単に癒すことが出来ていないのか、フラフラとその身体に鞭を打ち、その場に立ち上がろうとしていた。が、それでも予想う以上にダメージを食らってるらしく、その場にまた片足を付いてしまう。
「先生、これでボクがどうやって先生の方法を打破したか分かったよね? これの対抗策を考えてるんだろうけど、それでもボクたちはもう負けないから諦めた方がいいよ」
痛みを堪えながらも、そのことを考えていると踏んだアイリははっきりとミゼルにそう言った。
ミゼルはフラフラながらようやく立ち上がると、顔をニヤッと皮肉が混じりで歪ませる。まるで、アイリが言っていることが正解だと言わんばかりの表情で。
「よく分かってるじゃないか。けれど、自分にも意地があるからね」
「その意地を通させると思ってるの?」
「その話し合いはもう無駄な話だよ! さて、身体の方の痛みもマシになってきた。もう一回仕切り直しといこうか」
ミゼルは魔力で痛みを緩和させたらしく、先ほどの攻撃で負った傷口からは多少の血を流しつつも、問題なさそうに腕をグルグルと回し始める。
が、その様子が痛々しそうに見えてしまい、裕也は一瞬目を逸らしてしまう。
そんな裕也の行動や気持ちなどは関係なさそうにミゼルは右手をスッと上にあげる。すると、その手の中には先ほどユナが作ったよりちょっとだけ小さめの火球が出来上がった。そして、それを容赦なく裕也とユナに向かって投げつける。それと同時に左手をアイリ達へ向けてパッ! と一瞬だが閃光を浴びせる。
一瞬、裕也たちの攻撃目を奪われてしまっていたアイリとレオナはその閃光を防ぐことが敵わず、思いっきりそれを浴びてしまう。
「アイリちゃん、王女様!」
投げられた火球に対して、即座に防御壁を張りながら、ユナは二人の名前を呼ぶ。しかし、帰ってきたのは二人の呻き声だった。
「え、まさか……ッ!」
二人の呻き声から何かのダメージを負ったことを判断出来た裕也だったが、目の前に迫り来る火球のせいでそれどころではなかったため、視線だけを送ることが精一杯だった。が、その隙を突いたかのようにパリン! という音共に防御壁が割れる。
「え――」
「う……カハッ!」
視線を戻した時にはなぜかユナの前に先生がおり、ユナは腹部抑えるようにして、身体を丸め込んでいた。
そんな丸め込んでいたユナの腕を掴むと、今までとは思えない腕力でミゼルを追い越していた火球に向かって投げる。そして、火球は炸裂し、先ほどと同じように火の粉を撒き散らす。
――いったい何が……ッ!
思考が全く追いつかない中、そのことに関して考え始めてしまった裕也に対して、ミゼルは容赦なく顔面に右ストレートを食らい、吹き飛ばされ、そのまま地面を転がってしまう。
今までこうやって暴力を受けた際には無傷で生還していた裕也にとって、この痛みは初めてのものであり、しばらくその痛みにゴロゴロと転がって、その痛みに耐える。耐えた後、ようやくユナたちの心配が出来るようになった裕也が顔を上げて、三人の様子を探す。
すると、そこには裕也と同じように地面に突っ伏している三人の姿があった。