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「どうしたんだい、ユーヤくん。何かに怯えているようだけど……」


 裕也の行動を見ていたミゼルは自分の服に付いた埃を叩き落としながら、不思議そうに裕也へと尋ねた。

 しかし、裕也自身がその違和感を感じ取っただけであり、何に対して怯えているのか分からなかったため、


「いや、なんでもないです」


 と、答えざるを得なかった。

 ようやく服に付いた埃を叩き終わったミゼルは裕也たちを見つめる。

 その瞬間、裕也とユナはその表情を見て、一歩以上大きく後ろにバックステップを取ってしまう。

 なぜなら、ミゼルの顔半分の表情が変わっていたからだった。口からは鋭い牙が生え、白目の部分は金色に変わり、眉毛の部分が盛り上がり、まるで鬼のような顔つきになっていたのだ。


「な、なんなんですか、それ……。いや、先生はそれに気が付いてないんですか……?」


 そう尋ねた裕也に、ミゼルは意味が分からないとでも言うように、首を傾げながら、自分の顔を触る。瞬間、ミゼルもまた少しだけ驚いたような表情を浮かべた後、困ったように笑みを溢した。


「なるほどね。こういうことか……」


 そして、その変化の原因に気が付いたらしく、そう溢す。


「先生、どういうことなの……?」


 裕也が尋ねようとした言葉を先に尋ねたのはアイリだった。

 アイリの表情は恐怖に怯えた声と同時に、少しだけその要因に気付きながらも、それを受け入れたことに憤りを感じているらしかった。


「さっき飲んだ薬のせいだよ、アイリちゃん」


 ミゼルはあっさりとした様子で、アイリが――この場にいる全員が知りたいことを諦めた声で答えた。


「つまりはデメリットってこと?」

「そうだね。あの薬はさっき言ったあの人に貰ったものだからね……」

「……なんで、そんなものを飲んだの?」

「この場から逃げ出すためさ。このメンバー全員を相手にするとなると、さすがに無理だからね……」

「逃げる必要が分かんないよ! ユーヤお兄ちゃんが言ったように、ちゃんとここで償えばいいじゃん! そんな怖い顔になってまで逃げる必要なんてないッ!」


 吐き捨てるようにアイリはそう言った後、


「そのデメリットってそれだけじゃないで終わりませんよね?」


 と、レオナが尋ねた。

 ミゼルはその質問に対し、少しだけ考え込むかのように天井を見た後、


「そうかもしれないね……」


 そう小さく呟く。

 その様子からミゼルすらも、どこまでのデメリットがあるのか、分かっていないことが明白になっていた。


「下手すれば死ぬかもしれないんですよ? 分かってるんですか?」


 そんなミゼルとは思えない行動を咎めるように、レオナが最悪な展開を口にした。


「分かってるよ。だから? 今さらそんな注意を受けたところで、何も変わらない。もう飲んじゃったんだからさ」

「……ッ!」

「助けて欲しいなんて今さら言わないよ。もし、助けを乞うとしたら、『最後に自分の願いを聞いて欲しい』だね」

「その願いはさっきまでの願いでいいんですか?」

「それ以外に何があると思う?」

「…………そうですか。分かりました」


 そういうレオナの声は諦めの境地に達していた。そして、小さくため息を吐いた後、


「その願いは聞き入れられないので全力で阻止しますね。どうやら、私たちにはその覚悟が出来ていなかったみたいなので……」


 と、今まで聞いたことのないような冷たい声ではっきりと言い切った。


「王女様、何を言ってるんですか?」


 この状況下でその選択肢は間違っていないはずだったが、裕也はなんとなく違う覚悟を背負う形でそう言っているような気がして、不安になってしまった。

 そんな裕也の質問に答えるつもりはないのか、レオナは裕也に微笑むばかり。


「覚悟するのは分かりましたけど、いったいどうするつもりなんですか? 王女様とアイリちゃんの魔法は聞かないんですよ?」


 裕也の質問に答えるつもりがないと分かったのか、今度はユナがレオナにそう尋ねた。


「大丈夫だよ、ユナお姉ちゃん。二人のおかげでなんとか出来る手段を見つけることが出来たから」


 レオナに尋ねたはずの質問をアイリがあっさりと答える。

 その回答に裕也とユナは顔を見合わせてしまう。それだけ、アイリの回答が信じられなかったのである。


「あ、信じてないでしょ!?」


 二人の行動からそれが分かったアイリは不満そうに声を出しつつも、そう思われてもしょうがないと思っているらしく、怒っている様子ではなかった。


「当たり前だろう、アイリ。あの人に貰った薬で、私は自分の身体までも犠牲にしたんだ。そう簡単に看破されたんじゃ困るね」


 裕也とユナの代わりにミゼルが今度は尋ねる。これは本心から言っているのか、半分残った表情に不安が混ざり込んでいた。


「じゃあ、その証拠を見せてあげようか?」

「え?」

「口で言うよりもまずは実戦で見せた方がいいよね?」

「……ッ!」


 アイリの言葉がはったりではないと察したらしく、ミゼルは息を飲む。

 が、アイリは自分が口に出した実践を止めるつもりがないらしく、手をミゼルへと向ける。

 その瞬間、先ほどの攻撃から被害が出ている地面の土の塊が周囲に浮き始める。そして、遠くの土の塊はそのままミゼルへと飛ぶ。そして、近くの物は一旦ミゼルから離れた後、ミゼルに向かい飛んで行った。


「こんなものッ!」


 ミゼルはさっきまでのように手を出し、アイリの攻撃を防ごうと試みる。

 しかし、その土の塊はミゼルの『精霊をかき乱す能力』を前に何一つ衰えることなく、ミゼルにヒットしていく。

 そこまでの威力はないのか、痛そうな呻き声を上げ、その場に座り込んでしまう。が、その攻撃は最後まで止むことはなく、ミゼルに全弾ヒット。

 その攻撃が終わった後、アイリは自分の言葉が本当であるように、


「ね、言った通りだったでしょ?」


 と、裕也たちへウインクして見せた。


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