(12)
裕也はユナを視界の端で見ながら、大丈夫だと確信した後、今度は自分の心配をすることにした。
ユナが心配だったからこそ前に出て、セインが使っていたランスを使ってなんとかしようと試みたものの、今までランスを使ったことがないため、そのハードルは自然と高くなってしまっていたのだ。
――くそっ、練習しておけばよかったなー……。
心の中でそんな風に悔やみつつも、引くに引けない現状は変わらないため、
「ユナ、分かってるとは思うけど、援護頼むぞ」
と、小声で遠まわしに不安が残ることを伝えた。
そんな裕也の頼みを聞いたユナは、
「勢いでそんな物を持って前に出てきた割には、裕也くんも不安があるんですねー」
さっきの仕返しとばかりに小声で言い返す。
「うるさいな。ガタガタと蛇に狙われたリスみたいに怯えた奴がそんなことを言える立場かよ」
「そんなにガタガタしてませんよ!」
「してたっつの! って、こんなやり取りしてる場合じゃないだろうがよ! とにかく行くぞ!」
それだけ言い残し、裕也はミゼルに向かって突撃した。
動きは基本的には先ほど見ていたセインの動きのトレースをしたかのように、まずは一突き。
ミゼルはその突きを分かっていたらしく、それを左に身体を逸らすことで回避。
裕也も回避されることは予想するまでもなく理解していたため、そのままさらに足を踏み込もうとしたと同時に左目の視界の端に光る何かが三っつ通り過ぎる。そして、目の前にいるミゼルに向かって飛んでいく。
――ユナの魔法か!
援護を頼んだものの、どんな魔法を使っての援護課までは把握しきれていない裕也は内心ヒヤヒヤしつつも、ミゼルの動きを見る。
ミゼルもまたその攻撃に対して、少しだけ驚いた表情を浮かべつつ、バランスを崩しながらも直撃を避けるように左に身体を無理矢理逸らす。すると、その魔法攻撃の内、一つがミゼルの腹部の服をかするようにして通り過ぎた。
――こっちに来てくれればよかったものの!
ミゼル側から考えたとしても右に身体を逸らすことはないとは分かってはいたが、少しでもその可能性に賭けていた裕也は毒舌を吐きながら、踏み込むと同時にランスを横殴りに振るう。それ以外、ミゼルにヒットする可能性が全くなかったからだった。
「……ッ!」
裕也の横殴りに振るった攻撃に対し、ミゼルは少しだけ苦悶の表情を浮かべながらも、避けることは無理と判断したらしく、その場に自らの意思で倒れ込むことでその一撃を回避した。
それを目で追っていた裕也は思わず、
「くそっ! 当たると思ったのに!」
と、最後の期待すらも打ち破られたことに対してぼやくと同時に、
「問題ないです!」
そんな裕也のぼやきを褒めるユナ。
「え?」
「そんなことは良いから右側に早く飛んでください!」
褒められた理由が分からず、一瞬硬直してしまっていた裕也にユナは次の指示を出す。
裕也はその指示の意味すらも分からないまま、思考よりも身体が勝手に動き、右に思いっきり飛ぶ。
と、同時に上の方に何かあることに気が付く。
それはかなり大きめの火球だった。
――まさか、あれをッ!?
その火球の大きさは人を簡単に飲み込むほどの大きさ。
だから、一瞬ミゼルの心配をしてしまったのだ。
が、そんな裕也の心配を余所にその火球はミゼルに向かって落ち、そのまま爆発が起こった。
――やばっ!
爆風から逃げることが出来る距離に避難することが出来なかった裕也は、爆発の炎に飲み込まれると思い、思わず目を閉じる。しかし、いつまで経っても熱い感覚というものが一切来ず、不思議そうに眼を開ける。すると、炎は裕也を避けるように左右に流れていた。
その爆風が晴れ、安全確保の確認が出来た頃にユナが少しばかり駆け足で近寄ってきて、
「大丈夫ですか?」
と、呑気そうな声を裕也へかける。
そんなユナに裕也は少しばかりイラついた声で、
「『大丈夫ですか?』じゃないだろ。せめて、あんな極大魔法使うなら、先に言っておいてくれよ!」
そう言いながら、近くにあるランスを支えにするように立ち上がる。
「そんなこと言ったら、バレるじゃないですか。だいたい、ああいうのは不意打ちでするぐらいでちょうどいいんですよ。それに、ちゃんと魔法で爆風が走らないようにしておいたじゃないですか」
「……それはサンキュー」
「まぁ、私がしなくても勝手に防御結界を張ってくれたとは思いますけどね……」
「え?」
「それはいいですから、気を抜かないでくださいよ。あんなのでダメージを与えられてるわけがないんですから」
そう言いながら、ユナは未だに横たわっているミゼルを見つめる。
「いやいや、あんなの食らったんだぞ!? 大丈夫なわけないだろッ! だいたい倒すじゃなくて、捕まえるのが目的なんだぞッ! ちゃんと分かってるのかッ!?」
爆風がこちらに向かってきたせいで忘れていたことを思い出した裕也は、そうユナに捲し立てる。
しかし、裕也はそんな裕也の発言を気にしている様子一つ見せることなく、ミゼルを指差す。
「周りの残り火は見えますよね? まぁ、もうすぐ消えるわけなんですが……」
ユナの問いに答えるように、裕也は周囲の残り火を見つめる。すると、ユナの言葉通り、ミゼルを囲むように燃えていた残り火は自然と消え、先ほどの攻撃が何事もなかったかのような状態に戻った。
「おう、消えたな」
「はい。先生の服、見てください。あんな爆発受けたのに、全然燃えてないんですよ? 残り火が少し残るぐらいの威力はあったのに……」
「あ……」
ユナの言葉は最後まで聞かなくても、裕也はここまでで簡単に察することが出来た。
服に焼けた跡一つ、焦げた跡すら一つないということは、先ほどの火球攻撃をまともに受けていないことを暗示していた。
「まったく、ちょっとだけでも服に焦げ目を付けとけばよかったかな? 惜しいことをした……」
そう言いながら、ミゼルは何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がる。
同時に裕也は何か今までとは何か違う雰囲気を感じ、思わず片方の足を後ろに引いてしまう。
ユナはそれに気が付いていないらしく、キッ! と睨み続けていた。