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 セインが倒れた今、この場で役に立つのはたったユナしかいなくなった。故に残された全員の視線はユナへと向けられてしまう。

 セインがダメだと分かっていた時から、その覚悟は出来ていたのか、


「じゃあ、私頑張りますね。たぶん殺されることはないでしょうから、安心してください」


 ユナは全員の顔を一通り見た後、一歩前に出る。

 が、そこで裕也はユナの手が軽く震えていることを見逃すことはなかった。そして、その震えから気丈に振舞っているフリをしていることに気付く。


 ――ユナでさえ、怖いながらも頑張ろうとしてるのに……。


 そう思わずにはいられなかった裕也。

 けれど、レオナの言う通りであれば、自分も役立たずなのも事実だった。なぜなら、自分が現在いま使える魔力が『精霊を使役するタイプ』だからだ。両方使える素質を持っていたとしても、『自分の魔力を使うタイプ』の訓練をしていない以上、実戦で使える可能性は低い。だからこそ、頼り切るしかない自分が情けなくなってしまい、どうにかしてユナの手伝いが出来ないか、必死に頭の中で模索することしか出来なかった。

 裕也がそんなことを考えている中、


「ようやく主役の登場だね」


 と、一歩歩み出たユナにそう声をかける。


「こうなる状況を作った先生がそれを言いますか?」


 その一言に不満を露わにし、ユナは先生を睨み付ける。


「そんなに睨み付けないでおくれよ。今さらなんだけど、提案をいいかな?」

「提案……ですか……?」

「戦闘をこれ以上しても、ユナちゃんたちが負けるのは目に見えているから、素直に自分を逃がしてくれないか?」

「は? そんな条件を飲むとでも思ってるんですか?」

「飲む飲まないの条件じゃないと思うんだけどなー……」

「どういうことですか?」

「戦う前にユーヤくんが言っていたことを覚えてるかい?」

「裕也くんが言っていたことですか?」


 そう言って、少しだけ考えるも辿り着く答えは一つしかなかったらしく、


「戦闘回避の提案のことですか?」


 ユナはそう答える。

 裕也たちもユナ同様に考えた結果、基本的には質問が多かったため、自然と導き出される答えはそれだけだった。


「そうだよ。現状勝ち目がない戦いなんだ。今度は自分の提案に乗ってくれてもいいんじゃないかい?」


 挑発するわけでもなく、本心からそう思っているらしいミゼルはユナを説得するつもりらしく、優しい声でそう語りかける。


「ふざけないでください! なんで逃がさないといけないんですかッ!」

「自分の勝ちが決まってるからだよ。それに、ユナちゃんは自分の気持ちが身体に現れているのは気付いているのかい?」

「え?」


 ミゼルが何を言いたいのか分からないらしく、自分の身体を見つけるユナ。しかし、何の変化も見つけることが出来なかったらしく、


「どういうことですか? そういう冗談はいらないんですけど……」


 と、ふて腐れた態度で尋ね返した。

 そんなユナに呆れた表情をしながら、


「手が震えてるよ? 自分にビビってるんじゃないのかい?」


 裕也が気付いていたことをユナに指摘した。


「……ッ!?」


 ユナはその言葉にビクンと身体を震わせる。

 必死に隠そうとしていたことをバラされてしまい、心が一瞬にして勝手に折れかけ始めたことを知るには十分は反応だった。


 ――バカ正直に反応するなよ……。


 裕也は目元を手で覆い隠すような仕草をしながら、思わず心の中でそう毒づいてしまう。

 故に裕也も無謀な手段に出ることにした。

 先ほどセインが使っていた――セインが倒された際に近くまで飛んできていたランスに近寄ると、持ち手を掴み、地面から引き抜く。

 その様子を見ていたミゼルは、


「いったいどういうつもりだい、ユーヤくん」


 と、その行動に対しての理由を尋ねると、


「え!?」


 慌てた様子でユナは背後を振り向き、裕也の行動を確認した。

 ミゼルの問いかけに裕也はすぐには答えず、まずはユナの隣まで無言で歩く。そして、隣に立ってから、そのランスを手の馴染み方を確かめながら、


「さっき同様、ユナの心を揺さぶろうとするからいけないんですよ。まぁ、それがなかったとしても、最終的にはこれを使って戦うような気はしてましたけど……」


 緊張を隠すために、非常にだるそうに答えてみせる。

 そんな裕也の反応をミゼルは間違いなく疑いの視線を送って反応を伺うも、ユナほど心を揺さぶることが上手くいかないと分かっているらしく、


「なるほどね。いつか戦うことになるのなら、今から一緒に戦って、少しでも勝率を上げに来た方がいいのかもしれないね」


 と、あっさり裕也の考えに同意した。

 そんな中、納得してないのはユナだった。


「なんで裕也くんまで出てくるんですか! 危ないんですよ!? それ、ちゃんと分かってるんで――」


 その不満が言い終わる前に、裕也は左手でユナの頭を思いっきり引っ叩いた。

 さっき以上に思いっきり叩いたためか、それとも当たり具合が悪かったのか、パァン! と予想以上に良い音が鳴ってしまう。

 裕也自身そのこと音に驚きつつも、


「一対一で全然勝てる見込みがないから、少しでも勝率を上げるために手伝うんだろう? グダグダ言ってないで、先生を捕まえることに全力を尽くすんだよ。そしたら、二人でやる気を出してくれるかもしれないだろう?」


 後ろにいる二人を一瞥しながら、そのことが伝わるように少しだけ大きな声を出して伝える。

 アイリとレオナはそのことにハッとしたように裕也を見る。

 その視線に気付きながらも、裕也は振り返ることはなかった。

 そんな裕也の言葉にユナはちょっとだけ笑みを溢しながら、叩かれた場所を軽く撫で、


「女の子にはもう少し優しくしてくれません? 今の本当に痛かったんですから。とにかく、この件に関しての謝罪は後でしてもらいますからね!」


 と、さっきまでのような怯えた反応を一切取らず、ミゼルを見つめた。


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