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「その割には苦しそうな表情をしてるじゃないか」


 優位はこちらにあると言ったものの、苦しそうにしているミゼルに対し、セインが挑発の言葉をかける。

 セインの言葉が気に入らないと言わんばかりに、ミゼルはセインを睨み付けながら反論しようとするも、


「そんな状態で私の攻撃を避けることが出来るか? 本当はどちらが優位に立っているのか、そのことを教えてやる!」


 続きの言葉を吐き、セインはミゼルへ突撃した。


「……ッ!」


 さすがにこれはマズいと思ったのか、ミゼルも真剣な表情で身構える。

 ランスの先端がミゼルの身体に当たる距離まで詰めたセインはそのままの勢いで一度突きを放つ。しかし、武器の性質上初撃から突きで来ると分かっていたミゼルは、バックステップでランスが当たらない距離まで下がる。が、セインはミゼルがバックステップで作った距離をさらに縮ませるほどように足を踏み込ませ、手を引くことなく、初撃の突きの距離を伸ばした。一度取った距離をさらに詰める踏み込みからの突きの延長に、ミゼルはもう一度バックステップで回避。さすがのセインもこのまま初撃の突きの延長では無理だと判断したのか、今度は踏み込みからジャンプ。


「うおおおおおッ!」


 そんな気合を込めた声と共にランスをミゼルに向かって叩きつけた。

 ミゼルはどんな攻撃が来ても、またバックステップで避けようと思っていたのか、身体を後ろに引いていたものの、


「なッ!?」


 驚きの声と共に右側に跳んで、その一撃を回避した。

 その回避が正解と言うように、その一撃はミゼルが回避しようとしていたところまで地面が抉られる。


 ――魔力の付与でもしてたのか……。


 その抉られた地面を見ながら、裕也はそう確信した。そうじゃない限り、素の力であんな風に地面が抉れることがないからだ。

 しかし、そこまでの威力を出しておきながら、セインは悔しそうに舌打ちを漏らした。


「ランスに付与した魔力も乱すのか。厄介だな」


 そう言いながら、体勢を整えているミゼルにランスの切っ先を突きつけながら、その能力に対しての不満を口に出した。


「さすがに自分の攻撃の威力を理解してるだけのことはあるね。今のはちょっとだけヒヤヒヤしちゃったよ」


 ミゼルは切っ先を向けられているにも関わらず、服に付いた埃をパンパンと叩き落としながら、セインの判断が間違っていないことを認めた。


 ――なんであんな風に余裕そうなんだ……。


 さっきの一撃を慌てて避けたはずのミゼルはすでに冷静さを取り戻していることに、裕也は違和感を覚えてしまう。が、その違和感の正体はどう考えても、一つの答えしか導き出すことしかなかった。


「裕也くん、もしかして……」


 ユナも裕也と同じ答えに辿り着いたらしく、その答えがウソであることを願うかのような声で裕也へと尋ねる。


「悪いな、ユナ。それ、たぶん当たってると思う」


 結果がすぐに見えることが分かっているため、裕也はユナを励ますことは出来なかった。いや、裕也自身、自分が導き出した答えが間違っていることを心の底から望んでいた。そうでなければ、ミゼルに勝つことは出来ないからである。


「余裕そうだな。けど、避けるのが精一杯じゃないか。そんなので私に勝てると思ってるのか?」


 セインはミゼルの余裕そうな態度を見て、挑発した。まるで、その余裕の原因の正体が分かっているような雰囲気を出しながら。


「そんなことは自分自身が一番分かっているだろう? そんな傷付いた右手で、そんな思い武器を持って、本来の力が出せると思っているのかい?」

「……ッ!」

「いくら魔力でそれをカバーしようとしても、自分が魔力を乱すせいで、思った通りの力が出せていない。そんな状態で自分を制しようなんてことが無理に近い。違うかい?」

「……そう言いながらも、さっきは必死に避けていたじゃないか。つまり、体術で私の方に分があるということだ!」


 そう言うと、セインは再びミゼルに向かって突きを繰り出す。

 しかし、今度はその突きのスピードを完全に見切ってしまっているのか、ミゼルは身体を右にずらすことで簡単に回避した。そして、甘いと言わんばかりに「ちっちっち」とセインを挑発し始める。

 この挑発に乗っかるようにセインはランスを引くと、再び突く。

 これもまた簡単に左に身体を移動させることで回避するミゼル。

 が、セインも一突きで終わるつもりは最初からなかったらしく、引いては突くの連続突きを繰り出し始める。その突きは完全なランダムではなく、ミゼルが避ける方向を予測した正確な突きだった。

 そんな突きをミゼルは慌てた様子もなく、一つ一つ見事に回避していく。それは一撃もミゼルをかすることはなく、完全に見切った様子だった。


「セインに勝ち目ないな、これ」


 そんな様子を見ていた裕也は自然と絶望に近い言葉が漏れてしまう。

 それだけセインは早急な決着を望んだ動きをしているにも関わらず、ミゼルは薬の影響で苦しそうなものの動きには余裕があったのだ。


「セイン……」


 レオナもまたセインが頑張っている姿を見て、心配そうに名前を呼ぶことしか出来なかった。

 そんな茶番も終わりかのように、ミゼルはその連続突きの一つを、魔力を集めた手で掴み止める。それに気が付いたセインが慌てて引き寄せようとしたタイミングでミゼルも接近。その流れでセインの腹部に蹴りを打ち込んだ。


「がはっ!」


 足にも魔力が込められていたのか、そのまま膝をついてしまうセイン。が、なんとかランスだけは手を離さなかったものの、追撃で繰り出された顎への膝蹴りによって、身体ごと無理矢理宙に浮かんだ拍子に手から離れてしまう。そして、セインは少し離れた位置に倒れ込んでしまい、そのまま起きることはなかった。


「はい、これで一人終了だね」


 その一言ともにセインの手を離れたランスは裕也たちの近くにザクッ! と音と共に地面に突き刺さる。


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