(9)
ミゼルの火球攻撃で出来た火の海がゆっくりと横に広がる形で火の高さが低くなっていくと、その中央に緑色の結界に包まれる形で四人が姿を現す。
姿を現した四人とも誰一人としてケガ一つ負っていない様子で姿を現したにも関わらず、ミゼルは驚いた表情一つ浮かべず、四人をキッと睨み付ける。
「誰の防御結界魔法か分からないけど、さすがだね」
そして、不意打ちで行った攻撃を防いだ人物を素直に褒めた。
「もちろん、それはボクだよ。先生ッ!」
そのことを教えるようにアイリが両手をバッと勢いよく広げる。するとその仕草に従い結界がパァン! という音と共に破裂。そのまま残っていた火を破裂させた勢いでかき消す。
「やれやれ、お見通しってわけかい」
「まぁね。王女様と付き合いが長いように、先生とも付き合いが長いからね。これぐらいの不意打ちは予想が付いたよ!」
「まったくあっさりこれで倒れてくれたらよかったものを……」
「さすがにそんなに甘くはないよねッ!」
今度はこちらから番とばかりにアイリは自分の前方に複数の緑の風の刃を形成。そして、それを迷いなく、ミゼルに向かって撃ちだす。
その風の刃はミゼルに向かって全方位から攻めるも、ミゼルが手を前に出すことによって、着弾する前にそれは先ほど結界が弾けたような音を出して霧散してしまう。
――これも結界なのか?
裕也はアイリの風の刃による攻撃が霧散したのは、先ほどアイリがミゼルの攻撃を防いだ時と同じように結界による防御と判断した。が、少しだけ何かの違和感を感じ取ってしまっていた。
それは結界だと周囲に何かの色が付いているはずなのに、ミゼルが防いだのは透明であり、ミゼルの周囲に何も張られていないように思えたからである。
そのことが正解であるように、
「うっそ……。どうやって防いだの!?」
と、そのことが信じられないようにアイリが驚きの声を漏らす。
「別に結界を出してまで防ぐような攻撃じゃないってことさ」
余裕を持ち、そう答えるミゼル。そして、今度はこちらが攻撃するターンと言わんばかりに、アイリと同じように前方に細長い棒のような物を複数形成させる。
「で、でも防御魔法を使ってる気配なんて……」
そう漏らすアイリに遠慮なく、その攻撃を放つ。
「ボサッとしないでください! いつも通りの感じでなんとなる相手じゃないのは分かっていたことでしょう!」
ショックを受けているアイリを叱りつけながら、その攻撃を防ぐように今度はユナが薄い黄色をした防御結界を張る。
ミゼルもまたユナが結界を張ったことに気が付いたらしく、「ちっ」と舌打ちを漏らす。
裕也はそんなミゼルの反応を見逃すはずもなく、
――なんで舌打ちしたんだ?
そう心の中で考えている間に、その棒はユナの張った結界と衝突。そのまま弾かれた勢いでクルクルと何回か回った後、風の刃同様に霧散した。
「分かってるけど、攻撃が当たる前に消えちゃったんだよ!? こんな魔法、ボク知らないもん!」
最初はなんとかなると思っていたアイリは、自分の知らない魔法がミゼルの手によって行われたことにより、実力の差を思い知らされたかのような悲痛な声を出した。
「偶然かもしれないでしょう? 一回の攻撃を防がれただけでショックを受けないでください!」
そんな風に動揺するアイリをユナは再び叱りつける。
「いえ、偶然ではないと思います」
しかし、ユナの言葉をレオナが信じられないとでも言いたげな雰囲気と共に否定した。
励ましの意味の含めての言葉だったユナにとって、その言葉を否定されると思っていなかったため、
「ど、どういうことですか!?」
と、驚いた声で尋ねた。
「たぶんですけど、先ほどの飲んだ薬の影響でしょうね。ミゼル先生は『魔力増強剤』って言いましたが、たぶん他にも能力があったのでしょう。その能力の一つだと、私は判断します」
「いったい何が起きたんですか?」
「アイリの攻撃を防いだのが結界じゃないってことです」
「結界じゃない?」
「はい。あの防ぎ方は『精霊の動きを乱す』という方法での防ぎ方だったんです。だから、アイリはこんなにもショックを受けてるんですよ。私以上にそれを察してしまったから」
ここまで来て、裕也は全てを察することが出来た。そして、それをなんとかする打開策の方も。
それはユナも同じらしく、
「つまりは、私が主体となって戦わないといけないってことですか?」
ゴクリと生唾を飲み、少しだけ緊張した面持ちでそう尋ねた。
「はい、そういうことですね。あとは――」
ユナの質問に答えた後、セインの方を見る。
セインはそれに応えるかのように、ランスを改めて構え直し、
「私が物理攻撃で制するか、ですね……」
レオナがセインに言う前に先に答える。
「その通りです。つまり、私とアイリ、セインの魔法は完全に役立たず状態です。たぶん、防御すらも攻撃に『精霊を乱す効果』を付与されたら、簡単に破られることでしょう」
セインの言葉が正解であることを認めつつ、先ほどの攻撃の防ぎ方から、レオナはここまでの推測を立てた。
その推測に対し、裕也は何も反論するべきところはなかった。いや、レオナの推測が間違いなく当たっていると思ったからだ。そうじゃないと、ユナがミゼルの攻撃を防いだ時に舌打ちを打たないからだった。
「ここまで正解を当てられるとは思わなかったね。意外と戦闘能力高いんじゃないのかい?」
さすがにミゼルも最初からここまで当てられると誤魔化す意味もなく、はっきりとそのことが正解であると認めた。
「けどね、それが分かったところでどうしようも出来ないよね。防御を任せられるのはユナちゃんしかいないんだから」
そう呟くミゼルの息は薬の影響なのか、少しだけ苦しそうな表情を浮かべていた。