(8)
前に出るセインを制するように裕也はセインの肩を掴み、
「まだ聞きたいことあるから、そうやって戦闘に持っていくのは止めてくださいよ。さっさと捕まえたい気持ちは分かるけど……」
セインに注意した。
その制止に素直にセインは止まるものの、その気持ちに対する不満は隠しきれないらしく、それは表情に出ていた。そして、その制止からの解放を願い、レオナを見るも、レオナは首を横に振って拒否した。
「分かった。早く終わらせ。というより、次で最後にしろ。あとは捕まえてから、聞けばいいだろう」
セインはレオナからも拒否されたことに悔しさを隠しきれず、「ちっ」と舌打ちを隠すことなく鳴らし、裕也にそう言った。
これはお願いではなく、半分命令に近い発言に、
「分かった。これが最後にするから」
と、裕也はそのことをあっさり受け入れる。
この半分命令に近い発言をあっさりと受け入れることが出来たのは、次にミゼルに聞くことが本当に最後の質問だったからだ。
「本当に最後になるのかな?」
裕也とセインのやり取りを静かに見ていたミゼルは、これからする質問が最後になるとは思っていない様子で裕也を見る。
「関連性で言ったら、最後の質問にならないかもしれませんけど、『最後にしろ』って言われたからには最後にしますよ」
「そうかい。じゃあ、自分もそれを最後の質問にしようかな? ちゃんと内容を選ばないとダメだよ?」
「それは時間稼ぎか何かですか?」
「んー、どうだろうね」
「内容自体は決まってるので大丈夫です。オレが先生に聞きたいことは、『なんでアベルを殺したか?』ってことです。幼馴染のことや戦争推進派だったこと、この二つが本当かどうなのかは分かりませんけど、殺したってことだけは事実です。今までの話を聞く限りでは、殺す要因が全く見つからない。なのに、殺した。その理由を教えてください」
「……アベルを殺した理由か……」
これもまたさっきと同じように悩んだ表情を見せる。その理由を話してもいいのか、と悩んでいる様子だったが、すぐに結論は出たらしく、
「その人と自分の会話を聞いたのが運の尽きだったってことさ」
と、殺さなければならなかった理由が、運が悪かったと言い切った。
そのことに対して、裕也は少しだけイラッとしてしまう。
まるで人の命を、そこらへんを歩いている蟻程度の命を想っていない発言だと感じてしまったからである。
「落ち着きなよ、裕也くん。イラッって来てるのが、表情から読み取れるよ?」
なんて、自分の発言が原因にも関わらず、ミゼルがしれっとした態度で言ってきたため、
「先生のその言い方が原因なんですけどね」
その発言に乗っかるように言い返す。
「裕也くん」
そんなイラついてる裕也を戒めるように、ユナが裕也の名を呼ぶ。
――分かってるっての。
裕也は心の中でそう吐き捨てる。
「何が原因で運が悪かったの?」
これはダメだ、と思ったらしく、裕也が尋ねようとしていたことを尋ねたのはアイリだった。
アイリもまた少しだけイラ付いている様子だったが、裕也よりは幾分か落ち着いていた。
「その人と自分の会話を聞いたことかだよ。それさえ聞かなければ良かったのに……。たったそれだけのことさ」
「会話を聞いたことが原因って……」
「そして、それに乗ってきたのもね」
「……どういうこと?」
そこでミゼルは一つため息を溢した。まるで、このことを言うことが面倒だと言わんばかりに。
「みんな、アベルの性格もといあいつが戦争推進派であることは分かっているだろう? あいつは自分たちを利用しようとしたって話さ。自分が戦争の備えるための行動としたら、あいつは戦争を起こそうとする立場だった。それだけのことさ」
そう言われて、裕也はアベルが書いていた手紙の存在を思い出し、
「待ってくれよ! だったら、アベルが書いていた手紙はなんなんだ。あの手紙は間違いなく戦争を回避するための内容だったぞ?」
そのことをミゼルに尋ねると、
「それはウソの手紙に決まってるだろう。油断したところをガツンと攻めるってね。自分とアベル、どっちが本当でウソをついているかの判断はそれぞれに任せるよ。自分がアベルを殺したことは事実だしね」
手紙の本当の意味をあっさりと暴露した。いや、言い方としては予想のような感じだったが、アベルの性格を照らし合わせてみると、そう考えた方がしっくりきてしまい、
――くそッ! なんかしっくりこないな……ッ!
思わず爪を噛んでしまうほど、心の中にモヤモヤとしたものが残ってしまい、そう不満を心の中で漏らしてしまう。
同じようにアベルの行動を信じていたユナとアイリも、最後の最後までアベルの手の中で踊らされていたような感覚を感じたのか、裕也と同じように悔しそうな表情を浮かべていた。
「まぁ、そういうわけで質問タイムは終わりさ。これからは自分とユーヤくんたちの戦いだ。今さらまた止めようとはしないでおくれよ」
裕也が再び戦闘の回避をしようと何か言ってくると思ったのか、ミゼルは先にその行動を封印し、白衣のポケットから一つのカプセルを取り出す。そして、それを一瞬ためらった様子で見るも、口の中に放り込み、それを飲み込む。
「ミゼル先生! 何をッ!?」
そのカプセルが尋常ではない物と全員が判断しつつ、最初にそれを口に出したのはレオナだった。
「ただの魔力増大剤ですよ。どうかしましたか?」
ミゼルが何事もなかったかのように答えた同時に、ミゼルの魔力が放出され、掲げた手に自然と集まり、一つの火球を作成した。
「魔力の増大なんて簡単に出来る――」
「問答無用です!」
レオナの言葉を最後まで聞くつもりは最初からなく、作成した火球を裕也たちに向け投げる。
その火球は裕也たちが防御態勢に入る前に到達。着弾。爆音と共に周囲に火の海を作った。