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 揺さぶりをかけられて動揺しているユナに向かって、裕也は遠慮なくユナの頭を引っ叩く。


「いたっ!」


 そんな声を上げて、叩かれた箇所を手で押さえながら、裕也を軽く睨み付けてくるユナ。しかし、その瞳はまだ揺らいだ状態のままであり、怖さなんてものは一切なかった。


「いきなり何をするんですかッ!」

「最悪な流れなんか予想してたんだから、これぐらいで動揺するなよ。先生が素直に裏にいる存在を教えてくれたこと自体が目的だったんだからさ」

「そうですけど……」

「どうせここでグダグダ言ったところで、そいつはこの場には現れることもないんだろうしな……」

「え、そうなんですか!?」


 ミゼルを捕まえようとしている現在、ミゼルの言う人物が助けに来るかもしれないといいうことを考えていたらしく、ユナは驚きの声を漏らす。


「いや、そんなに簡単に出てくるわけないだろ。なぁ、アイリ」


 ユナが驚きの反応から、そいつがミゼルを助けにくることを考えていたことが分かった裕也は、同意を求めるべくアイリに尋ねると、


「簡単に出て来ないの? 先生を助けに現れるんじゃないの?」


 アイリもまたユナと同じ考えに至っていたらしく、ミゼルを見つめたまま、逆にその理由を尋ねるように裕也に聞き返す。


「え? マジで?」


 アイリさえもそんな反応を取ってくると思っていなかった裕也は、慌ててレオナとセインを見ると、二人もアイリと同じようにその理由が分からないらしく、チラチラと裕也に視線を送って来ていた。


 ――えぇ、オレだけかよ。


 誰一人として助けに来ない理由が分かっていない状況に、裕也はちょっとだけショックを受けながらも、


「助けにくるつもりなら、もう助けに来てると思ったんだよ。しかも、そんな上の存在の奴がこんな状況で出てくるなら、自分から捕まりに来るようなものだからな。当分は出て来ないと思うんだけど……」


 二次元の話ではよくある話の展開上、そういうラスボスは物語の終盤に出てくることを熟知している裕也はそう言って、四人を納得させることにした。

 四人とも裕也の説明に「あー」と口々に納得するような声を漏らした後、


「ミゼル先生がそんな人の言うことを簡単に聞くとは思えません。いったい何があったというのですか? なんで、私の命を狙おうと思ったんですか?」


 レオナが改めてミゼルにそのことを尋ねた。


「自分の両親の恨みを晴らすためだよ。それ以外にありえ――」


 頭をガシガシと掻きながらミゼルはそう言っている最中に、


「違いますよね。そんな理由で動くとは思えません。いえ、恨みを晴らすという意味でなら、すでに私の両親を暗殺した時点で終わってると思います。違いますか?」


 レオナは口を挟んで、今はそんな理由では動かないことを暴露した。

 口を挟んできてまで自分の主張を邪魔されたミゼルはそこで口を閉ざしてします。そして、初めて悩んだ表情を見せた。


「ずっと近くに居たようなものですからね。それが本音なのかウソなのか、すぐに分かりますよ」


 レオナにそう言われたことで、ミゼルは盛大に息を吐く。そして、本音を語ることを決意した表情へと変わる。


「そうだね。あの時、自分の復讐は終わったのかもしれない。けど、そうじゃなかったとも言えるのさ。ちょっとしたことで、今回暗殺しようと思っちゃったぐらいだしね……」

「ちょっとしたこと……ですか……?」

「そうだよ、王女様。まぁ、簡単な話、王女様のような甘い考えではエルフたちを護れるとは思えなかった。かと言って、それを説得したところで、それを素直に考えてくれるなんてことは思えない。だったら、どうするか? 王女の座をどうにかして下ろして、違う人が王位に就く。それ以外考えられなかった。それだけのためさ」

「そんなこと……」

「ないと思えるかい? 平和主義者である王女様が……」

「……ッ!」


 レオナはミゼルの言葉に返す言葉が見つからないらしく、口を閉ざしてしまう。

 裕也もレオナの様子を見ていたら分かったが、レオナ自身もミゼルの進言を聞いて考えたとしても、それを反映させる確率が少なかったことを分かっているらしかった。


「それで王女様を暗殺したとして、次は誰が王位に就けばいいと考えてたの? 先生ってわけじゃないよね?」


 口を閉ざしてしまったレオナの代わりに、そのことを尋ねたのはアイリ。

 口調としては軽く演じているつもりだったらしいが、身体から発されるオーラはいつになく真剣なものだった。


「自分は王位には興味ないよ。王位に就いた際の甘い汁の感覚は覚えてないからね。それに両親が殺されたことだって、本当に自業自得と今さらながらに思ってるしね。セインでいいんじゃないかい? そういう立場でしっかりと行動出来るのは……」

「それ、本心なの?」

「救護の先生にそんなことが出来ると思うのかい? 子供の頃にそういう教育を受けていたとしても、すっかり忘れちゃったよ。だったら、側近として近くにいるセインがふさわしいと思うのは普通のことだろう?」


 そんな風にもっともらしいことを言うミゼルの言葉に裕也は一つの疑問を覚えた。

 それは、そこまでして次の王位の座をセインに譲ろうとしているのに、犯人をセインにしようとしていたことである。罪から逃れたいという気持ちは分かるものの、そこまで期待しているセインを陥れようとしたのか、全く分からなかったため、


「それなのになんでセインさんを犯人にしようとしたんですか?」


 と尋ねると、


「これぐらいの試練、あっさりと突破してもらわないと王位に就いたとしても役立たずだろからさ?」


 あっさりと答えられてしまう。

 が、そんな風に次の王位に就く存在の候補として選ばれたセインは「ふん」と鼻で笑い、


「くだらんな。私は王女様を護るために命を懸けることが出来る護衛兵長だ。王位に元から興味がない」


 そんな勝手な候補扱いされたことが気に入らないらしく、あっさりとそれを跳ね除け、


「くだらない戯言はこれで終わりか? もう充分だろう。大人しく捕まれ」


 と、みんなよりも足一歩分前に出て、虚空からランスと取り出して、戦闘の意思をミゼルへと向けた。


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