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(6)

「じゃあ、一番分からないことを尋ねますね。なんで今頃になって、王女様を暗室しようなんて思ったんですか?」


 それが今の裕也にとって一番分からないことだった。

 いや、それは裕也だけではなく、この場にいる全員が分からないこと。その答えを知っているのは当事者であるミゼルだけだからだ。


「やっぱりそれを聞くかい……」


 裕也がそのことを聞くのが分かっていたかのように、ミゼルは小さくため息を溢す。

 その様はまるでそのことに関して、聞かれたくなかったかのような雰囲気だったが、自分から何でも話すと言い出してしまったため、少しだけ後悔したような感じだった。

 しかし、そのことが一番に気になっている裕也はミゼルから溢れ出る嫌そうな雰囲気を理解しつつも、


「お願いします」


 と、軽くだが頭を下げて、ミゼルにお願いした。


「分かってるよ。ちゃんと教えるから安心しな」


 ミゼルもまた素直にそのことを了承し、そのことについて説明し始める。


「単純な話さ。王女様、あなたではエルフたちを護れないと思ったから、私がなんとかしようと思っただけに過ぎない。もし、戦争が起きないのであれば、こんな気持ちにはならなかったかもしれない。いや、それは無理かな。あの人に『この世界は滅ぼす』と言われたんだから……」


 そう言うと、ミゼルは裕也たちを試すように笑みを浮かべる。自分よりもさらに上の元凶がいることに絶望させるかのような悪戯な笑み。

 その笑顔を見た裕也は、ミゼルがこの質問をされることを最初から待っていたかのような印象を受けてしまう。それだけ、ミゼルの笑みは素晴らしいものだったのだ。


 ――昨日の最悪な流れが見事に的中かよ……ッ。


 そう胸の中で毒付きながら、ユナを見る裕也。

 ユナもまた昨日のことを思い出していたのか、裕也の想像通り、ショックを受けた表情になっていた。

 しかし、そんな状態でも『あの人』の存在が気になるらしく、


「そ、その人って誰なんですか!?」


 と、誰よりも先に尋ねた。

 ミゼルはその質問に対し、右手を上げて、天井を指差す。

 その仕草に四人は訳が分からず、首を傾げてしまう。が、ユナだけはその意味に気付いたらしく、「え?」と声を漏らしてしまう。


「この仕草だけで分かるのかい、ユナちゃん」


 ミゼルが指し示す人物に気付いてしまったユナをミゼルは食い入るように見ながら、意味深に笑う。

 その笑みを見ただけで裕也は、ミゼルが指し示す人物にも気が付く。


 ――天使なのか、あの人って……。


 天井を指差す意味とユナが一番先に気が付いたことから、そうしか考えられない裕也は、そのことを確認するかのようにユナを見る。

 裕也の視線に気が付いたユナは目だけを裕也に一瞬向けるも、すぐにミゼルに戻した後、コクンと首を縦に一度動かす。


 ――マジかよ……。


 予想していた通りの流れの展開に裕也はさすがに頭がクラッと来てしまいそうになる。ここまで最悪な流れになるとは思っても見なかったからだ。


「ちょっと待て。反応を見る限り、私以外の全員は分かったみたいだが、ミゼルはいったい誰を示してるんだ?」


 昨日、自分たちの正体をバラした時にその場にいなかったセインは、ミゼルが誰を指し示しているのか、見当もつかないらしく、四人にそう尋ねる。


「天使だよ。自分が示している人は、ね……」


 セインの疑問にあっさりとした様子で答えるミゼル。

 その相手にセインは「は?」とやはり意味が分からない様子で 裕也たちを見つめる。

 裕也たちはそれが間違いではないことを認めるように、自然と同じタイミングで頷く。

 が、セインはそれが信じられないらしく、納得いってない表情を浮かべながら、


「その天使とやらがミゼルに来たってことは、この世界を滅ぼそうとしているのは神の意思ってことか?」


 考えられる予想を口に出すと、


「そんなことはありません! 神様は『この世界で起こる戦争を止めてこい』って、確かに私に言いました!」


 と、セインの予想が間違っていることを強調するかのようにユナが大声で答える。


「え? 今、なんて……」


 ユナが反応してくると思っていなかったセインはびっくりした表情でユナを見た瞬間、ユナもまた「しまった」と慌てて口元を手で抑える。そして、ユナは助けを求めるように裕也を見るも、裕也もまた目を手で覆うようにして、ため息を溢すことしか出来なかった。


「やっぱり天使だったのかい、ユナちゃん。いや、私の天使は『天の使い』じゃなくて、『天から死を誘う者』、つまり天死って言ってたけどね」


 一番に自分の示す人物のことに気が付いた時点で気が付いていたらしく、ミゼルは特に驚いた様子もなく答えた。

 しかし、ミゼルから出た『天死』という存在に、ユナの方が驚いた反応を示していた。


「そんな存在……私、知らない! 私が知らないのに、存在するはずがない!」

「そうなのかい? けれど、私にコンタクトを取ってきたんだ、二回もね」

「に、二回も……」

「一回は偶然もしくは幻だとしても、二回目ともなると真実味が増すんじゃないかい?」

「……ッ!」


 ミゼルの真剣な目線にユナは口を閉ざさざるを得なかった。

 それだけミゼルの視線も発言も疑う余地がないほど、真剣なものだったからだ。

 何も言えないユナの代わりに、


「まぁ、天使だろうが天死だろうが、そのことは後にするか。この発言が本当だろうがウソだろうが、ユナの心が揺らされてるだけみたいだし……」


 裕也はそう言って、これ以上この話を続けることを遮った。

 それほどユナは動揺を隠しきれていないことが目に見えてとれたからだ。


「さすがだね。ウソではないだけど、心の揺さぶりをかけようとしてることを見破られるなんて」


 ミゼルは少しだけ悔しそうにそう呟くも、最初から途中で遮られることが分かっていたからのか、表情では全然気にしていない様子だった。

 そのことに今頃気が付いたらしく、ハッとしたユナは自然とミゼルを睨み付ける。

 が、ミゼルはユナに睨み付けられようと全然気にしてない様子で笑っていた。まるで自分が少し優位に立てたことが嬉しいかのように。


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