(5)
しかし、いくら戦闘が起こりそうな雰囲気が伝わってきたとしても、極力は戦闘せずに大人しく捕まってもらうことを望んでいた裕也は、
「先生、戦うのはやめませんか? 人数が多い分、勝ち目がこっちにあるとか考えてはいませんけど、無駄な戦闘は避けたいんです」
と、この緊迫した状況のせいで戦闘を上手く止めさせようと声をかけるも、遠まわしに挑発する形になってしまう。
「勝ち目がそっちにあるかぁ……」
裕也の言葉につられるように、挑発と捉えた発言を繰り返すミゼル。
「あ、いや! それは言葉の綾です! ……いや、勝ち目はあると思います。それは本音です。だからこそ――」
「大人しく捕まったら、自分は処刑されないのかい?」
「え? 処刑?」
「ユーヤくんは忘れてるかもしれないけど、自分は王女様を暗殺しようとした首謀者だよ。いや、アベルをも殺し、ユーヤくんを襲った犯人であることもすでに気が付いているんだろう? こんな状況の自分にその恩恵があると思っているのかい?」
ミゼルは自分がやってきたことを自らの口から告白したのは、すでに追い詰められている状況の現在、言い訳したところでそれを打ち破る証拠を裕也たちが思っていると判断したためだった。
そのあっさりとした自分のしてきた罪の告白に、そして戦闘をしない方向で進んだ際のメリットを尋ねられ、
「え? いや、それは……」
そのメリットがあるとは思っていない裕也は言葉に詰まってしまう。
裕也のその様子を見て、やはりメリットがないことを理解したミゼルは、自虐の意味を含めて、裕也を鼻で笑う。
こればかりは自分の判断ではどうしようもないため、裕也は隣にいるレオナとセインへ視線を向ける。『もしかしたら』の可能性に賭けて……。
が、レオナは困ってしまったように俯き、セインは迷った様子もなく首を横に振った。
「あるわけがないだろう。王女様の暗殺を企み、暗殺協力者であったかもしれない重役の一人を殺した。ユーヤの襲撃は不問にしたところで十分な罪に問われる。この状況で恩恵などと言える神経が考えられないな」
セインの冷静な判断に対し、
「そう……ですね……。私の判断で少しはなんとか出来るかもしれません。けれど、それは相当な無理をして、です。相当な無理をしたところでそこまで軽くなるとは思えません……」
レオナもまたそう答える。
しかし、レオナはなるべくは裕也の戦闘を止める提案に乗ってくれようと考えた結果らしいが、それでも苦しいものであることは変わりなかった。
「私たちを襲ったことを不問にするってのは納得いかない発言ですが、どっちみち罪が軽くなることはないってことですね……」
ユナはセインの言う自分たちの襲撃に対しての不満を露わにするも、何も解決しないことを裕也に分からせるように口に出した。
「そうだね。まぁ、犯罪した先生にそれを言う資格は最初からなくて当たり前なんだけど……」
こんなことで悩む裕也がおかしいと言わんばかりにアイリは、根本的な矛盾を指摘した。
――お前らなぁ……。
そんなことなど最初から分かっている裕也は、好き勝手言っているユナとアイリにイラッとして心の中で毒づく。
『戦闘をしないで解決したい』というのは裕也の本音でもあったが、それは二人を想ってでもあったのだ。二人は自分が戦うのをあれほど拒んだ結果、なるべくは戦闘に持っていかない方向に進ませようと無理矢理努力した結果がこれだった。それが失敗に終わった途端、これを言われた裕也は心外でたまらなかった。
「だそうだよ、ユーヤくん。さあ、どうする?」
そのことを分かっていたミゼルは再び裕也にそう問う。
いくら四人に拒否られ、ミゼルに何のメリットがなかったとしても、裕也はあくまで戦闘を避ける方向を口に出した以上、そのことを避けるわけにはいかなかった。
「それでも戦闘はしない方向で解決してくれませんか?」
「無理だね。もしかしたら、処刑ではなく永久に牢獄暮らしになったとしても、自分にはそんな牢屋暮らしは耐えられない」
「でも、死なない」
「そんな牢屋暮らしなんて、ほぼ死んだと同じようなものじゃないかい?」
「そうだとしても、罪は償わないといけないでしょう」
「そうだね。アベルに関してはひっそりと一人で償わせてもらうよ。だから、自分はこの場から逃げさせてもらうよ。意地でもね……」
あくまで戦い、逃げ切ることしか考えていないミゼルの発言に裕也は諦めることしか出来なかった。
――だよなー……。
最初からそれは分かり切っていたことだけに、裕也はこれ以上この会話での説得をすることは止め、
「分かりました。その代わり、こっちの質問に答えてください」
未だに解けていない謎について教えてもらうことを条件に戦闘をすることを承諾する。
ちなみにこれは裕也が狙ったわけではなかった。偶然、『この流れだとそのことを聞きやすいのではないか?』と今になって気付いたことだった。
ミゼルもまたいきなり交換条件でそんなことを言われると思っていなかったのか、少しだけびっくりした表情をするも、
「犯人だって分かったのに、自分をそこまで思ってくれたんだ。気になることぐらい教えてあげるよ」
と、あっさりと裕也の考えていた斜め上の感情のおかげで、そのことを承諾してくれた。