(3)
裕也が指し示した人物――それはミゼルだった。
その答えを知っていた裕也、ユナ、アイリ、レオナは驚く様子は見せなかったが、そのことに驚いたのはセインと指を向けられたミゼルだった。
「自分が犯人なわけがないだろう? ユーヤくんもこの状況で冗談を言うべきか、それとも言わないべきかぐらいは分かるだろう?」
ミゼルは震えた声で裕也に注意を促す。
が、裕也は首を横に振って、これが冗談でないことを行動で現す。
「冗談だと思いますか? この状況で……」
そして、裕也自身びっくりしてしまうほど、冷たい声でそのことを尋ねた。
その隙にセインは、裕也たちの方へ軽く歩み寄り、レオナを護ろうとしてユナとアイリの横に並ぶようにして、ミゼルを明確な敵意で睨み付ける。
「なんで、自分が犯人だと……? その証拠でも――」
「あるに決まってるじゃないですか。じゃないとこんな風に堂々と言いませんよ」
「その証拠を提示してもらおうかい。そうじゃないと自分だって納得出来ないよ!」
ここで初めて、ミゼルは怒りを裕也へとぶつける。
その怒りは魔力の放出として全員を襲うものの、裕也を含めた全員があの頃とは違っているため、簡単にその魔力の重圧をあっさりと受け流してしまう。
裕也が受け流せるまで成長していると思っていなかったのか、平然としている裕也を見て驚くレオナ、セイン、ミゼルの三人。
「ゆ、ユーヤさん」
レオナはそのことを尋ねようと裕也の名を呼ぶも、裕也はそれを無視して、
「先生はどうしてセインさんの右手のケガが、証拠の本を覆っていた結界によって出来たものだと気が付いたんですか?」
と、最初にミゼルが犯人だと気付くことが出来た証拠を投げかける。
「それは自分が救護の先生だからだよ。セインのケガが自然に出来たものか、魔力によって負わされたものか、それぐらいすぐに分かる。もしかして、救護の役職を舐めてるのかい?」
ミゼルは先ほどのような驚いた表情を見せることもなく、落ち着いた様子で裕也の質問を答えた。
しかし、その答えが正解ではないことを教えるために裕也は横に首を振る。
「先生、それは違います。オレが聞きたいのは、そのケガが『何で負ったのか』を知ってかを知りたいんですよ。あの日の夜、先生は確か念話で『結界で負った傷』って言ってましたよね? それは覚えてますか?」
「ああ、それは言ったね」
「誰から聞いたんですか、それ?」
「え? アイリが『結界を張ってるからテーブルに近付かないで』って言っただろう? それで分かったのさ」
それを確認するためにミゼルの視線はアイリへと向けられる。
「うん、そうだね。ボクは確かにそう言ったよ?」
アイリは自分の口で言ったことをちゃんと覚えており、ミゼルの問いかけに頷き、同意するも、
「けど、ボクは『結界に触れた時に負うダメージが火傷になる』なんて一言も言ってないよ?」
と、ちょっとだけ意地悪く言った。
「あっ、そうですね」
アイリの言った時の状況を頭の中で思い出していたレオナは、アイリがそんなことを言っていないことを思い出したらしく、そう呟く。そして、そのことを確認するようにセインを見る。
「言ってませんよ。そもそも、私のケガは本当にお湯が手にかかった火傷ですから」
そう言いながら、右手に巻かれた包帯を解くセイン。
その火傷を確認するために裕也はセインの右手を見ると、火傷の痕は酷いと言えるものではなかった。ただ立場上、武器を持つ身としては部分的に隠しておいた方がいい箇所を火傷しているに過ぎなかったのだ。
――ん? なんだ、この違和感……。
裕也はセインのそのケガを見て、心の端に何か引っかかるものを感じてしまう。が、その正体が何なのか分からず、現状ではそのことを気にしている場合ではないため、一時的に流し、ミゼルを見た。
ミゼルの表情は少しだけ苦しいものとなっており、自らが口を滑らせたことを悔やんでいるかのようなものとなっていた。
「忘れているだけじゃないのかい? 自分はそう聞いたから、そう答えたはずなんだけどね」
自分たちが忘れていると言うミゼルの発言に裕也はあっさりと頷き、
「ですね。あの時のことを残しているわけでもないですし……。証拠としては不十分ですよね」
次なる証拠を提示しようとした時に、
「残ってるぞ」
と、セインが「くくっ」とイヤらしい笑いと共に、虚空に一つの画面を出現させる。
「「え!?」」
その予想外な発言に全員が驚きの声を漏らすと同時に、その時の映像が再生される。
場面はセインが、裕也たちが部屋に入ってくる場面からものものだった。そして、部屋の移動が終わるまでの映像が映し出され、確実に結界の触れた際に起こるケガについては触れられてないことが証明されてしまう。
「これでどうだ? 間違いなく、結界に触れた時に火傷になるなんて、アイリは言ってないことが証明されただろう?」
まさかのミゼルもこの展開は予想外だったらしく、口が開けっ放しの状態になってしまっていた。
「マジで? なんで、こんな映像を……」
現場検証として、写真や動画を撮るということはあってもおかしくない行動の一つではあったが、あの場面でこんな映像を撮っている様子がなかったため、裕也はセインに尋ねた。
「当たり前だろう。犯人が証拠の一つでも残してないか、あとでゆっくり見るためだ。何か事件が起きた際には当たり前の行動だ」
「それは分かってるけどさ」
「じゃあ、何もおかしくないだろう?」
「うん、おかしくないけど……なんだ、これ……」
セインの発言は間違っていなかったが、裕也が予想していたものとは外れた展開になりつつあるため、動揺を隠すことは出来なかった。
「ゆ、裕也くん! つ、次です! 次の証拠です!」
ユナもまた動揺しているものの、次の証拠を出さないと話は進まないと踏んだためか、そう裕也を励ます。
「ふぁ、ファイト!」
アイリも同じように裕也を励ましてきたため、
「お、おう! そうだなッ!」
と、その励ましを素直に受け取った裕也は先ほど言おうとしていたことをミゼルに突きつける。