(2)
その三人が入ってきたことにより、三人の会話は自然と中断してしまう。いや、あんな冗談でなんとかして無くそうとしていた緊張感が蘇ってきたため、あんなことを話している余裕がなくなってしまったのである。それは裕也だけではなく、ユナとアイリも同じらしく、裕也が二人の顔を一瞥すると、微かな緊張が顔に浮かんでいた。
「えっと、大事なお話でもしてましたか?」
裕也たちの元へ近寄って来たレオナは、三人の会話がいきなり止まったことを不思議に思ったのか、王女モードの口調で尋ねた。
昨日のレオナの暴露のせいで王女でないことを分かっている裕也とユナは、レオナのあまりにも似合わない口調の違和感をすぐにはなくすことが出来ず、少しだけ動揺してしまう。が、逆にその動揺を推理に対する緊張へのすり替えが利く状況だったため、
「いやー、ちょっと推理したことを披露することに対して、お互いにその緊張感を解そうとくだらない会話をしてただけですよ。なっ、ユナ、アイリ」
代表して、先ほどの会話はくだらないことを伝えた後、確認のためにユナとアイリにもその話を振る。
「え、あっ、はい。その通りです」
ユナは裕也とアイリ、レオナを順番に見ながら、裕也の振りに何度も首を縦に振りながら頷いてみせる。
「う、うん! ユーヤお兄ちゃんの言う通りだよッ! で、でも……これから推理を披露すると思うと緊張しちゃうね……」
なんて言いながら、アイリもまた裕也とユナ、レオナを順番に見ながら、困ったように髪の毛を掻いた。
その様子からアイリもまた推理の緊張よりも、自分たちが二人の秘密に関してのボロを出さないか心配になっていることに気が付いた裕也は、
――なんだよ、そんなに心配なのかよ……。
信じられてないことにちょっとだけショックを受けながらも、そのことに関して突っ込むわけにもいかないため、そのことを流すことしか出来なかった。
が、推理を公開することに関して緊張していることも真実であることは気付いているため、
「そんなに緊張するなよ。そんなに緊張されるとオレだって、また緊張しちゃうだろ?」
と、困ったように笑いながら誤魔化し、
「今日は来てくださってありがとうございます」
セインとミゼルに対して、お礼を述べた。
いきなり来てくれたことへのお礼に対して、今までの会話の流れを腕組んで見ていたセインは、
「いや、構わん。そもそも、それが目的でこの一週間、この城で過ごさせたのだからな」
いつも以上にピリピリとした様子で、ぶっきらぼうに答えてみせる。
その返答に対し、レオナはチラッと鋭い目付きで見るものの、口に出して咎めることはなかった。そんなことを言っている場合ではないと判断したらしい。
セインのそんな返答に対して、ミゼルもまた同じように呆れた目で見ながら、
「大丈夫だよ、気にしなくてもね。セインが言ったように、王女様を狙った真犯人が許せないだけなんだからさ」
ミゼルはいつものように気軽そうに答えてみせる。
が、言葉の節からは少しだけ緊張が漏れ、裕也はミゼルもまた緊張していることを敏感に察することが出来た。
――みんな、それなりに緊張してるんだなー……。
この場にいる全員が緊張していることが逆に面白くなってしまった裕也は、心の中でクスッと笑いが溢れてしまう。
「まぁ、そんなことよりも聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
そう尋ねてくるのは、訓練所の扉をチラチラと見ているミゼル。
その行動に対して、裕也はミゼルが何を尋ねたいのか軽く想像がついたけれど、あくまで想像の段階のため、
「はい、何ですか?」
その質問を素直に受け入れた。
「なんでここなんだい? 推理したことを披露するんだったら、大広間の方が良かったんじゃ……。それに他に人は来ないのかい?」
想像した通りの質問を言われたため、そのことに対しての説明を言わなかったことを確認する意味も込めて、レオナに視線を送る。
レオナはその視線を咎めの視線だと誤解したらしく、顔の前に手を置いて、軽くお辞儀した後、セインの様子を確認するためにチラッと見た。
その様子を見ていたセインは呆れたような視線を送りつつも、その謝罪に対しての文句を言うことはなく、
「そのことに対しての説明をされてないから、私の方からもその説明を望もうか」
と、裕也にレオナがしていない説明を求めた。
元からそのつもりだった裕也は即座に頷く。
「この状況を考えてみてもらったら分かるように、推理を披露するのはこのメンバーだけにしました。理由としては、そんな大勢の前で披露しても被害が多くなるかなって思ったからです」
たったこれだけの説明で気が付いたらしく、セインとミゼルはお互いの顔を見合わせ、レオナを中心に距離を置くように軽くステップをした。
つまり、お互いがお互いを犯人として認識した瞬間だった。
「王女様、こちらへ! 犯人はこいつです!」
開口一番はそう言ったのはセイン。
やはり警備長として、自分の身よりも王女であるレオナを護ろうとする意志が一番に働いたらしい。
「何を言ってるんだか……。犯人はセインだろう? 何よりもその右手のケガが良い証拠だよッ! 王女様、こちらへ来てください!」
ミゼルはセインが犯人である証拠を突きつけるように、まだ包帯を巻いたままになっている包帯を指差す。
そのことを指摘されたセインは右手を慌てて隠すようにして、レオナを水らの元へ引き寄せるために左手を伸ばす。
ミゼルもセインと同様に自分の側へ引き寄せるために右手を伸ばす。
が、二人の手はレオナの手を掴むことはなかった。
それはレオナが二人の伸ばす手をスッと前に出ることによって躱し、裕也たちの元へ歩み寄ったせいである。
「私はこっち側ですよ。セインとミゼル先生には悪いですが、この状況の中で信用するわけにはいきませんから」
そして、二人に笑顔でそう告げるレオナ。
どちらもレオナに信じられている自信があったらしく、一瞬にしてその顔は青ざめたものへと変わり、犯人の名前を聞くために裕也に敵意を持った目で裕也を睨みつけた。
まさか二人にここまでの敵意で見つめられると思っていなかった裕也は少しだけビクッと身体を震わせると同時に、その敵意から裕也を護るようにユナとアイリが裕也より一歩出て、
「いくら二人がそんな視線を向けたところで、裕也くんと王女様は私たちが護りますから」
と、二人に警告するようにユナが二人に言葉を投げかける。
「これが演技ですむならいいけど、本気で戦うならボクたちも遠慮しないからね。これは忠告だよ?」
ニヤリと口端を歪め、アイリもまた敵意を含めた言い方で遠まわしに素直に観念することを勧めた。
そして、裕也は右手を上げて、二人の内一人を指差した。その人物が真犯人であることを示すために。