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 翌日。

 裕也たちは訓練所へと来ていた。

 その場所はこの一週間、ずっと魔法の訓練に使っていた場所であり、すでに自分の居場所の一つとして存在している場所。だからこそ、居心地も少しだけ良くなっており、これから行う推理ショーの緊張をほぐすにはもってこいの場所となっていた。

 しかし、それはやはりほんの少しだけの効果であり、全然緊張していないかというと、それはまた違っていた。


「あー、犯人の確信は付いているのに、それが外れている可能性があるって考えると怖いな……」


 裕也は心にかかってくる重圧プレッシャーに耐え切れず、思わずそう吐き出すと、


「そんなこと冗談でも言わないでくださいよッ!」


 と、同じように重圧を感じているユナが声を震わせながら、裕也に注意した。


「だってさ、これで最後なんだぜ? 最悪な展開を考えると――」

「だから、その最悪な展開を考えないでくださいッ! そうやって悪い方向を考えると、悪い流れになるっていうないですかッ!」

「それも分かるけどさ……」

「それに、これでもし犯人間違えてたら、裕也くん処刑されるんですよ? 一週間前の約束を忘れてるんですか!?」

「あっ……」

「え……、まさか本当に……」


 裕也が漏らした言葉にユナはキッ! と目を鋭くさせ、怒りを隠しきれない様子でにらみ始める。


「じょ、冗談だって! ちゃんと覚えてるよ!」


 本当に冗談で言った発言だったため、裕也が慌ててフォローするも、ユナの目付きは全く変わらず、


「本当に忘れてなかったんですか? 全然そんな感じには見えませんでしたけど……」


 と、逆にそのことを疑われ始めてしまう。

 なんとなくこの流れが昨日のような流れになってしまう、と反射的に理解した裕也は頭の中で必死にそれが冗談であることの証明を行おうと頭の中で模索していると、


「たぶん、もう処刑はないんじゃない?」


 裕也をフォローするようにアイリが口を挟んできた。

 その発言に「え?」と言った様子でユナはアイリを見つめる。


「たぶんだよ? あくまで確定じゃないけど……」


 ユナに見つめられたことにより、アイリもまた慌てた様子で、それが絶対ではないことを付け加えた。


「でも、そう思う根拠は何なんですか?」

「んー、ユーヤお兄ちゃんが襲われたから……かな?」

「そんな理由で処刑が回避出来るんですか?」

「自演で襲われたって雰囲気を作った人もいるかもしれないけど、それでも本当に襲われたって思う人もいるでしょ? そんな状況の中、こうやってユーヤお兄ちゃんが訓練を頑張ってたことを知ってる人もいる。なのに、律儀にもこうやって一週間で犯人を暴いて、証拠も見つけた。それだけで十分に処刑から免れるような行動力だとボクは思ったんだよ!」


 そう言いながら、アイリは裕也に向かって微笑んだ。

 「本当に頑張ったよね!」と言わんばかりの微笑みだったため、裕也は思わずそれに対して首を横に振ってしまう。


「オレは何もしてない。いや、ほとんどみんなに頼りっきりだったじゃないか。オレは頑張ってよりは足手まといのイメージが多いさ。本当に頑張ったのは、ユナとアイリだよ」


 そして、改めて自分の本心を二人に告げた。

 裕也の口からそんな謙虚な発言が出ると思っていなかったのか、二人とも急に顔を真っ赤にし、


「そ、そんなことないですよ! 裕也くんがやる気がなかったら、ここまで上手くいってなかったと思いますから! 私たちはそのお手伝いをしただけですよッ!」


 と、ユナが慌ててその羞恥心を隠すように早口でそのことを否定し始めた。

 それに同意するかのようにアイリもまた、


「そ、そうだよ? ユーヤお兄ちゃんが必死になったからこそ、ここまでの結果が得られたんだから、そのことを素直に受け止めていいんだよ! ユナお姉ちゃんが言ったように、ボクたちはそのお手代をしただけに過ぎないんだから!」


 裕也の頑張りがあったからこその結果であることを強調し始める。

 二人がまさかここまで素直にお礼の言葉を受け止めてくれないと思っていなかった裕也は、「はぁ」と情けないため息を一つ溢した。いや、溢さずにはいられなかった気分だった。そして、


「そうだな。オレのやる気を出したに違いないな。うん、そうに違いない」


 と、二人の答えに素直に賛同することにした。

 本当だったら否定しても良かったのだが、そんなことをすればまた押し問答が始まってしまうことが目に見えて分かったからだ。逆にこうやって素直に受け止めた方が、二人の反応は不満が出てくるのは分かったが、自分の口で言ってしまった手前、今さら反論することが出来ないと踏んだ結果だった。

 裕也は二人の反応を伺うと、案の定二人は不満そうな表情を浮かべているも、自分が言い出した手前、反論出来ず、悔しそうに口を歪めていた。

 そんな二人の表情を見ながら、腰に手を置き、


「そんな表情をするなら、最初から素直に受け止めとけよ、まったく」


 呆れた目でそう言うと、


「だって、まさか素直に受け止めるとは思わないじゃないですか……」


 ユナが口を尖らせながら、裕也が素直に受け止めたことに不満を漏らし、


「本当だよ。もうちょっと謙虚な気持ちを持とうよー」


 と、ユナに乗るようにアイリも不満を漏らした。

 そのことに対して、裕也が注意しようとすると、背後の扉がガチャリと音を立てて開かれる。

 開かれた扉から姿を現したのは、レオナとセイン、そしてミゼルの三人だった。


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