(22)
「ユナの心配してることの気持ちもわかるけど、それよりももっと大事な事があるだろ」
裕也は歴史の本の心配になっているユナに言い聞かせるように、裕也がそう言うと、
「え? まぁ、そうですけど……」
裕也が言いたいことの内容は分かっているらしく、納得がいかない顔をしているものの、素直に頷いてみせる。
「もっと大事な事?」
逆にアイリが分かっていないらしく、不思議そうに首を傾げる。それは、内容自体は何個か思いついているが、どれが裕也の言う大事な事を指しているのか、分かっていない状態。
「裕也くんが言いたいのは、『今頃になって、王女様を暗殺しようと思ったか』ってことですよ、たぶん。違いますか?」
裕也の代わりにユナがアイリに教えながら、裕也を見る。
その答えに納得したらしく、アイリは「あー、それね!」と答えながら頷く。そして、ユナの解答が合っているのか確認すべく、ユナと同じように裕也を見つめる。
「その通りだよ、正解」
裕也はアイリに教えたそれが正解であることを認め、
「問題がそこなんだよ。オレたちが来る前にも暗殺をしようと思えば出来たはずなのに、なんで今頃になって暗殺をしようとしてきたのか、その理由が全く分からない」
と、その謎を二人に問いかける。
一応、裕也も可能性として何個か考えているものの、しっくりくるものが全くなかったのだ。
ユナとアイリもそのことに関して考え始めるも、
「やっぱり、暗殺するようにさらに裏で煽った人がいるのかな?」
そう一つの結論を導き出したのはアイリ。
「それか、戦争が起きると知ってるからこそ、この流れに乗じて……って感じか。ちなみに私たちが来たのは偶然って方向で……」
もう一つ付け加えるように、ユナがそう述べる。
二人の考えもすでに思いついている裕也は頭をガシガシと掻きながら、
「二人の考えは間違ってないんだよなー。いや、その二つの可能性は十分にあるとは思うんだけど、その二つの可能性が全部合わさった可能性もあるわけで……」
と、二人に言うと、
「私たちの考えが合わさった? どういうことですか?」
ユナはどこをどう合わせたらいいのか、理解に悩んだらしく、裕也にその説明を求める。
「戦争が起きると分かっているからこそ、その流れに乗じて、煽った奴がいるってことだよ。もしかすると、オレたちがここに来ることを知ってて、その罪を擦り付けようとしたのかもな」
「……私たちがここに来ることを? そんなまさか……ッ!」
あくまで可能性の話ではあるものの、そのことに素っ頓狂な声を上げるユナ。
「あくまで可能性だから落ち着けよ。それが絶対になって、誰も言ってないだろ?」
「でも……それが本当だったら……」
「オレたちと正反対の戦争助長派の異世界の人が来てることになるかもな……。って、可能性だからマジで受け取るなよ?」
「だって……もしかしたら……ッ!」
そう言って裕也を見る目は真剣なユナ。
どうやら先ほどのアイリが帰ってくるタイミングを言い当てたことから、裕也の勘が『ACF』によって、そのことが真実になって返ってくることを恐れているようだった。
もちろん、いくら『ACF』が発動していたからと言っても、それが全部真実になるとは思っていない裕也からすれば、そんなに心配し始めるユナに少しだけイライラしてしまいそうになる。それは遠まわしに、『下手な発言をするな』と言われているような感じがしてしまったからである。
「ユーヤお兄ちゃんの言ってることが本当になのかどうかは別としても、それが現実になるって考えると最悪だね……。とにかく、それを知るには本人に聞く以外方法はないんだし、この件は後回しにしようよ。十分に追い詰める証拠は揃ったんだからさ」
動揺しているユナとその動揺に対してイラついている裕也を宥めるようにして、アイリは二人にそう提案した。
「そうだな。この件に関して悩んでも仕方ないんだし、アイリの言う通り、本人に聞くことにしようぜ。明日な」
その提案に裕也は素直に承諾し、ユナに言い聞かせるようにしてそう言った。いや、そうすることでしか事実を確認することは出来ないことは最初から分かっており、ウダウダと悩んだところで一切解決しないことが分かっているからだ。
ユナの方もまだ不安が消えそうにないものの、そのことが分かっているからか、
「そうですね。アイリちゃんの言う通りだと思います。動揺してすみません」
と。ぺこりと頭を下げてから、日記に視線を向けて集中して読み始める。
その様はまるで、頭から離れない不安を違う物に集中することで、無理矢理腐食しようとしているような状態だった。
――まぁ、しばらくはそっとしておいてやるか……。
ユナの気持ちは手に取るように分かった裕也はそう思い、それをアイコンタクトで伝えようと視線を向けて頷く。
すると、アイリも同様に裕也にそのことを伝えようと思っていらしく、二人はほぼ同時に顔を合わせることになってしまう。そして、同じことを考えたことが分かった二人は苦笑しながら、今後のことについて二人で話し合うことにした。