(21)
「それもそうだね! ユーヤお兄ちゃんの予想で盛り上がってる場合じゃなかったよ!」
アイリは手をポンと叩いて、裕也の意見に同意を示した。
ユナもアイリの話は集中して聞かないといけないと思ったのか、
「ちょっと待ってください」
そうアイリに言った後、本の見開き部分を指でスゥ―となぞり、今まで同じように本を閉じる。
――あ、しおりみたいな効果を付与して閉じたのか……。
今までは勢いで本を閉じることが多く、そのせいで読んでいたページを探す羽目になっていたため、そのミスをしないように対処したことが分かった裕也は、そのことを二人に聞くことはなかった。
「はい、どうぞ。お待たせしました」
ユナは聞く準備が出来たことを、アイリを見ながら伝える。
その準備が出来たことを確認したアイリを一つ頷くと、
「じゃあ、話すよー。……って言うけど、ユーヤお兄ちゃんやユナお姉ちゃんが予想してることそのものなんだけどね……」
そう簡単に二人に苦笑いを溢しながら伝える。
すでに二人が予想していることそのものが答えのため、答えること自体が時間の無駄と言わんばかりに言い方だった。
そのため、二人もその答え方に呆れるのではなく、自分たちの予想通りの展開に呆れることしか出来なかった。
「そっかー。やっぱり、元国王の子供だったかー……」
裕也がおもむろにそう呟くと、
「うん、そうだった。一応ね、どの国にもだけど、そういう歴史となる本は自動執筆機能が付いてるから、その人の経歴とかを誤魔化すことは出来ないようになってるの。だから、間違いじゃないよ」
アイリはなぜか少しだけ雰囲気を暗くして答えた。
その暗くなった理由を聞こうと裕也とユナが思い、尋ねようとする前に、
「それに、ボクのお父さんたちが元国王を殺して、王位に就いたのをちゃんと確認したから、間違いない事実だね」
と、アイリ自らがそのことを伝える。
裕也とユナはその事実を確認したことを聞き、お互いが顔を見合わせると、ユナがコクッと裕也に頷いてみせる。
その頷きの意味を理解することが出来た裕也はベッドから降り、アイリが座っているベッドへ移動。そして、アイリに近寄り、
「そんな辛い事実まで調べなくても良かったんだぞ。まったく無茶しやがって」
頭を撫でて慰め始める。
アイリはちょっとだけ驚いた表情をするも、頭を慰められたことに嬉しそうな表情に変わった。
「怖くないの? ボクには人殺しの血が流れてるんだよ?」
そして、こんなことを言い始める。
裕也はまさかアイリがこんなことを言い始めるとは思っていなかったため、「あ?」と声を漏らしてしまうも、すぐに正気に戻り、撫でていた手の甲でコツンとアイリの頭を叩く。
「いたっ! なんで叩くの!?」
「思ってもないことを言う方が悪いんだろ? オレたちがそんなこと気にしてないことを分かってて、そんなことを言ったお仕置きだ。な、そうだろ、ユナ?」
裕也はユナに話を振ると、
「ですね。アイリちゃんはアイリちゃんです。そんなこと最初から分かりきってることじゃないですか」
ユナの方も顔をアイリの発言が気に入らなかったらしく、ムスッとした表情でそう不満そうに答えた。
アイリはその言われることを望んでいたようで、ホッとした表情になり、
「うん、ごめんなさい。その言葉が聞きたくて、ワザと言ったんだよ。ユーヤお兄ちゃんとユナお姉ちゃんなら受け止めてくれるかなって思って……」
反省しつつも嬉しそうにその真意を打ち明けた。
「レオナもだろ?」
が、その仲間に絶対に省いてはいけない仲間である人物――レオナの名前を出す裕也。
「え? あ、うん。そうだね」
「ん? レオナには言わなかったのか? 今の発言」
「んー、言わないじゃなくて、『言えなかった』ってのが正解かな? 絶対に怒られるもん」
「……ユナ、今の念話で――」
まさか裕也がそんな風に脅してくると思っていなかったらしく、アイリは目を丸くすると、
「わああああああああ! ごめんなさいごめんなさい! もう変なこと言わないから許してよ! レオナには絶対に今の教えないで!」
と、今まで見せたことがないような慌てた口調で裕也の身体にすがりつく。
その勢いで倒れ込みそうになる裕也だったがなんとか耐え、
「じゃあ、今後オレたちにも変なことを言わないようにすること。いいな?」
呆れきった声で注意すると、
「はーい。気を付けます」
アイリは素直に反省の色を示した。
十分に反省していると知った裕也はアイリを慰めるように頭を再び撫で始めると、
「あの……その歴史の本なんですが、プロテクトとか大丈夫なんですか? 自動書記機能になると誰でも弄れると思うんですが……」
ユナがその歴史の内容の改変についての不安点をアイリに尋ねた。
裕也はユナに言われるまで、そのことに関して気付かなかったため、「あっ」とその不安点に気付いて、アイリを見る。
「んー、それは大丈夫だと思うよ?」
「どうしてですか?」
「その部屋に入れる理由が王族である人の血、魔力が必要になってくるから。だから、レオナもその部屋には入れないんだよ。もちろん、元国王の一族がその部屋に入れないようにリセットされてるから、現在ボク以外無理なんじゃないかな? リセットのパスワードもボクとレオナしか知らないだろうから」
「それなら大丈夫ですかね?」
それでも不安は拭えないらしく、ユナは心配そうに裕也を見つめる。
――なんで、そこでオレを見るかな……。
ユナが見てきた理由は、『ACF』による思考強化からの安否の確認を見てきたことに裕也は気付いたが、そのことに関しての不安は一切思い浮かばなかったため、
「大丈夫なんじゃないか? アイリもこう言ってることだし……」
と、遠まわしに何も思いつかないことを伝えた。
「裕也くんがそう言うなら、たぶん大丈夫なんでしょうね……」
その発言を聞いても、完全には不安が拭い切れないらしく、険しい顔をしていた。